ひとりで5つのパートの演奏を同時に行えるとてもユニークな発想のアプリPolychord。iPadをひとつの楽器として演奏できるだけでなく、インターフェイスに表示されている60種類以上のコードをなぞっていくだけで音楽初心者でも、プロのミュージシャンでも新しい発想で音楽を作ることができる。iOSバーチャルMIDIへの取り組みも積極的に行うなど、iPad音楽アプリの代表各ともいえるPolychordの開発はアメリカのLAに拠点を置くShoulda Woulda Coulda社。幸運にもその代表Gregory Wieber氏と話をする機会を得たので、今日はその模様をお伝えしたいと思う。
I: まずShoulda Woulda Coulda incの設立とメンバーについてきかせてもらっていいですか?
G: Shoulda Woulda Couldaは2010年に僕Gregory WieberとHugo Nicolson二人で設立したものなんだ。
僕は大学でアートを専攻していてテクノロジーを使った作品をいろいろ作っていたんだ。子供の頃からコンピューターには興味があって当時は「ジュラシックパーク」や「トーイストーリー」のようなコンピュターグラフィックアニメを作りたいと思っていた。音楽は5歳の頃からドラムを始めてね、いつもバンド活動をしていたのと、昔、父がカシオのSK1を買ってくれてね、その頃からずっとシンセサイザーには興味を持っているんだ。
Hugoは音楽のプロデューサー/エンジニアとしてたくさんのバンドを手がけている。最初はプライマルスクリーム、そしてレディオヘッドの「In Rainbows」ってアルバムではグラミー賞を受賞している経歴を持っているんだ。彼自信も音楽を作るんだけれど、特に楽器を習った経験があるわけじゃないっていうのもあって昔から作曲のできる道具みたいなものがずっと欲しかったんだよね。
「どんなアプリを作ったらおもしろいんだろう?」という話をずっとしていて、僕らの興味からして音楽系のアプリがいいなとは漠然に思っていた。それからしばらくしてある日LAでコーヒーを一緒に飲んでいたときに突然Hugoが「こんなアイデアのアプリはまだ存在してないよね?」って彼が浮かんだアイデアを話し始めてね、それを聞いて「うん、そのアイデアは僕らにとってパーフェクトだね。やってみよう」ってことになったんだ。
I:Polychordの開発にはどのくらいの時間がかかりましたか? またどうしてiPadのアプリにしようと思ったのですか?で、気になる結果の方はどうでしたか?
W: ちょうどiPadがリリースされたばかりの頃だったかな、もうすでにiPhoneのマーケットはいい感じに込み合っていたし、じゃあiPadでやってみようかということになった。音楽のことを考えたらiPadはサイズもちょうどいいし、スタジオにもばっちりはまるしね。
見た感じアイデアもシンプルだし、だいたい1ヶ月くらいで作れるものだと思ってたんだけど、最終的には6ヶ月以上かかったかな(笑)。今の形に至るまでには結局1年半以上かかったね。
AppStoreっていうのはソフト会社が頑張れば相当成長できる場所だと思う。どのくらいのセールスがあったかは僕らは公表していないんだけど、相当な数であったのは確かだ。それにまだ活発に動いている様子だしね。というのもほとんどすべてのユーザーがアップデートを発表してから1、2週間以内にはアップデートを完了しているようなんだ。だからといって僕らが一夜にして億万長者になれるようなものではないけれど(笑)、その成長ぶりには満足しているよ。
I:ユーザーからのリアクションはどうでした?そういえばYouTubeでMaroon5が演奏しているのを見かけましたよ!
W: とてもいいリアクションだと受け取っているよ。聞いたところではSnow Patrolがニューアルバムのレコーディングに使ってくれたとか、RedHotChilliPeppersでギターを弾いている僕らの友達Joshもスタジオで使っているしね。噂によるとU2も手にしたらしく、クールなアプリだと思ってくれているらしいんだ。おそらくプロのミュージシャンにとっていいアプリなんだろうね、ちょっと違った方法で曲が書けるし、新しいアイデアを作る助けにもなる。
いろんなバンドが好んで使ってくれているっていうのはホントに嬉しい話だね。でもそれよりもうれしいのは今まで音楽や作曲の経験がない人たちでもPolychordを手にした事で初めてコードを使った曲を作る事ができたって話かな。それから子供達もPolychordで音楽作りをしているらしくて、親御さん達から喜びの便りをもらったりもした。きっと僕がCasio SK-1を手にしたときと同じような感じなのかな、、って思った。
I:開発にあたってどんなことが困難でしたか?
W: シンセサイザー部分のプログラミングにはハードウェアの効率的な使い方が必要なんだ。アップルの開発ツールはとてもよくできていて、ハードウェアへのダイレクトなアクセス機能を提供するんだけれども、ハードウェアにどのようなプログラムを組んだらいいのか学ぶのはとても時間がかかったね。僕らが始めた頃は今みたいに十分な資料もなかったしね、ほんとうに長くて大変だった。
Polychordはいろいろなエレメントからできている。タイミングとビート、4つのインストゥルメント、そしてstrum pad。これだけあるとCPUにたくさん負担をかけるんだよね。やはり一番大変だったのはこれら全部の事がスムーズに動くような効率のいいプログラムを組む事だった。
それから数学的な知識も必要とするからね。アーティストである僕の友達Duncan Malashockはそのあたりにとても詳しい人で最初のうちはいろいろ手助けしてもらっていたよ。つまりは彼からデジタルシグナルプロセッサーの基礎を教えてもらったんだよね。
I: 素人ながらに思う事なんですが、MIDI機能をアプリにのせることって大変なことなんですか? 今でもたまにMIDIシンクができないドラムマシンアプリとか見かけますが、どうも不思議でならないんですよね、、。
W: MIDI自体はもうかなり古いテクノロジーだからね。それにMIDIを効率よく動かすためにはいろいろなテクニックを使わなきゃいけないんだ。例えば同時に2、3のノートを押さえる以上の事をしたらたちまちシステムに負担がかかるんだ。だからプログラマーは「イベントの待ち行列」ってことについて学ぶ必要がある。MIDIの解説書やiOSのオーディオテクノロジーの解説書は上級者向けの言葉で書かれているし、新しいプログラマーにとってはちょっとハードかもしれないね。でも音楽Appでは今、以前よりもMIDIが必要とされているからね。状況は良くなってきていると思うよ。
I: Open App Collaboration Manifestoには参加されているのですか?(参照)
W: 僕らは早い時期からOACMに参加してるけど、ディベロッパーが情報を交換できるいい場所だと思う。中には自分の経験をものすごく積極的に書いている人もいて、そういったことの積み重ねがiOS MIDIアプリをより良くしていくんだと思う。僕らが初期の頃に主張していた事は、ディベロッパーは自分のアプリをもっと効率的に動作させることに焦点を置くべきだ、ということだった。なぜなら同じディバイス内で複数のアプリが同時に動くのだからそれは当然のことだよね。だからPolychordをより軽くすることがここ数回のアップデートでの目標だったんだ。
I:Polychordはどのくらい完成型に近づいているんですか?
W: 基本的にはバージョン1の時点である程度の達成感は感じた。アイデアはできる限りシンプルな方がいいし、アップルの伝統みたいなところでもあるけれど僕はいたってシンプルな物が好きだ。このシンプルさを保ちながらの改良は必要だと思っている。音楽理論系の人たちともたくさんしゃべった上で考えた事だけど、コードを扱うアプリとしてもっと使える物にしたいとは思っている。たとえばユーザーがリズムや伴奏コードを自分でエディットできるようなツールを作ったりね。やはりそこがポリコードのメインのアイデアだし、そうすればもっとバージョンアップを重ねていけると考えているよ。
I:ところでWieberさんのお気に入りのアプリってありますか?もちろんPolychord以外で!
W: Flipboardがいいよね。いつも使っているよ。FacebookやTwitterを雑誌のようにして読むっていうアイデアがすばらしい。友達や友達がどんなポストをしたかによって雑誌がキュレートされていくのだけれど、そんな雑誌をいつも持っていることができるのは楽しいよね。そしてやはりそのシンプルさがいいんだと思うよ。
I:日本について何か思う事があれば教えてください
W: 日本からはいつも多大なインスピレーションもらっているよ。美術大学に通っていた頃に1960年代のアメリカ人アーティストを通してミニマリズムについて興味を持った。そしてそれを突き詰めていくとその原型は日本に辿り着くんだよね。
それから最近、黒澤明の映画「夢」を妻に紹介したんだ。映画って時にして観た人の中にずっと残るものだよね。8歳の頃に僕はあの映画を初めて観て以来あの映画が僕の頭の中から離れないでいるんだよ。
I: Weaberさん、貴重な話をどうもありがとうございます。iPad音楽アプリの世界をもっともっと大きくしていきたいですね!