先週アメリカで行われていたNAMM2013ではMS-20 Miniを発表し、世界中のシンセファンからの大注目を浴びたコルグ。過去のシンセサイザーの名機が今の時代のプラットフォームに生まれ変わることで、何か新しいものを発見できそうな未来を感じているのかもしれません。
さて、今日の話題はiOSアプリKorg iPolysix for iPad。こちらのほうは1981年に発売されたアナログポリフォニックシンセサイザーの名機をiPadで再現しており、昨年末から発売になり大ヒットを記録しているアプリ。Polysix2台分の音源に加えドラムマシンやシーケンサーも新開発され、大きく生まれ変わったPolysix。
iMS-20などのiOSアプリやKORG Legacy Collection、DS-10の開発を手がける グループのメンバー3名(福田さん、中島さん、井上さん)に開発にまつわるお話を伺いました。
i:今回iPolysixを作ることになった経緯を聞かせてください。
中島さん 開発リーダー:
以前にモノフォニックシンセiMS-20を出していますが、今回はポリフォニックシンセのアプリを出したら面白いんじゃないかなと思ったのが始まりです。MS-20とは違ったアナログポリフォニックの良さを全面に出せるもの、ということでPolysixを題材にしてみました。MS-20(1978年)のモノフォニックの時代からPolysix(1981年)のポリフォニックの時代に変わって行く時代にタイムスリップするイメージですね。
福田さん グループマネージャー:
去年、別のチームと一緒にReason用のPolysixを出したり、Google I/Oという開発者イベントでmiselu用のPolysixバージョンを展示したり、なにかとPolysixに関わることが多かった というのが大きいです。
i:コルグさん的にはPolysixに特別大きな思入れがあったり?
福田:企画の段階からいつも自然とPolysixの話題がもちあがるんですよね。去年はPolysixに関わる流れがあり、僕らのチームはiOSがメインなんで、iOSでもPolysixを出さないわけにはいかないだろうって話になりまして、作るんだったら史上最強のPolysixを作ろうかってことになりました。
i:Reason用、Google miselu用、そして今回のiOSバージョン、大きな違いはあるのですか?
中島:音質的にはコアの技術を使っていますのでどれも同じモノと言えます。構成的にはiPadだけで曲を作れるものをつくりたかったのでiPolysixにはシーケンサーを付けたり、またオリジナルにはない波形やハイパスフィルターパラメーターも追加しています。
福田:オリジナルのPolysixでキックの音を作ろうとするとけっこう難しかったりするものですから、そのあたりをアシストするような機能を加えて、iPolysixだけでどこまでのシンセサイズができるのかを目標にして作りました。
i:オリジナルのPolysixは完全再現できてるんですか?
中島:もちろんオリジナルにある主なパラメーターはすべて含まれているのでオリジナルに忠実です。
アナログモデリングCMT(Component Modeling Technology)というコルグの技術で、以前発売したKorg Legacy Collectionで使ったものと同じ技術をつかっていますね。
福田:音を忠実に再現するために真面目な計算をしているんで、とても正確にできてますよ!
i: 最近始めてオリジナルのPolysixをさわる機会があったんですけど、ほんとすばらしい楽器ですよね、、まだまだ聞いたことのないようなサウンドがつくれたり。
当時としては外観にもこだわっていてカッコいいですよね、木の枠がついていたりとか。
i:iPolysixではじめて搭載されたシーケンサーPolysiqですが、おもしろいですね。見た目からしてもかなりいい感じですよね。
中島:いやあ~ありがとうございます。ステップシーケンサーの良さと、ポリフォニック、その両方の良さが上手く合わさって楽しめるようになったかなと思ってます。
井上:シーケンサーの見た目というとどうしてもピアノロールになってしまいがちなところがあって、そこをどうずらしてあげると面白いかなと考えましたね。
福田:ここは時間かけましたね。ミキサーの部分はKMX-8という昔の機種をベースにしていますが、シーケンサーに関してはポリフォニックのアナログシーケンサーってあまり思いつかないところじゃないですか。ピアノロールとはちょっと違った昔のスイッチ感みたいものを出せるように試行錯誤しました。
i:レトロでいて、新しい感覚がいいですね。テクノ心をくすぐるものがありますよ。
福田:Polysixが発売されたのが1981年ですが、当時ポリフォニックシーケンサーを作ることになっていたら、これに近い形になっていたんじゃないかなあーなんて思ってますね。
i:Polyshare(Sound cloudを使った楽曲の公開)では大勢の人が曲をアップデートしていますね
福田:あれは一番お勧めの機能ですね。
i:リミックスコラボっていうのはどのような機能なんですか?
福田:サウンドクラウドにソングデータとオーディオデータを一緒に付けてソングデータ部分をダウンロードしてリミックできるような形にしてあるんです。iMS-20で世界で初めて搭載した機能です。
iPolysixではすべての音を1から作っていかなければなければならないのですが、よくこれだけのことができるなあと、驚くようなカッコイイ曲がたくさんあります。 また国旗を出したんですけど、スウェーデンの人がいっぱ いあげてるなあ、とか、思いもよらなかった所からアップされていたりとか、スゴい面白いですね。
福田:1000くらいですかね?ものすごい勢いでアップされています。
中島:昔のPolysixでは想像できないような音楽とか、Polysixの新たな可能性をみせてくれているものもあったりしますね。
i:特に開発で大変だったことは?
福田:iPolysixには2台のpolysixが搭載してあるのですが、これがとっても大変だったところです。確かにシンセが2台あれば曲作りに有利じゃないですか、、でもそれがなかなか上手く動かなくて最後の最後まで議論していましたねー。
中島:ホント、発売直前までチューニングしてましたよ!
i:開発にはどのくらいの時間が?
中島:4~5ヶ月ですかね?
i:え?そんなもんなんですか?
福田:もともLegacy Collectionで作っていたものなので、本当はもっと短い時間でつくりたかったんですけどね、作り始めたらいろいろ凝り出してしまって、ふくれあがりましたね。
i:それにしても発売のタイミングもバッチリでしたね。リリースの話を聞いたときは本当にワクワクしましたよ。
福田:丁度、発売の2ヶ月前くらいからiPadMiniの発売の噂が流れていて、これは出てくるな、、と予想できたんでそれに合わせてボタンの大きさを考えながら開発を進めました。iMS20のボタンはちょっと小さすぎたりしたので、今回は両方のサイズのipadで使ってもらえるようなアプリを作ろうと考えてました。
i:そしてそのあとのすぐにバージョン1.1が出ましたが、素早くAudioBusに対応してくれたところもとても痛快でしたね
中島:超短期でしたねー
井上:AudioBusに関してはSDKがとてもよくできていて、これでいいかな?くらいの気持ちでやったらすんなり動きましたね。とはいってもチューニングの問題とかはいろいろあるんですが、AudioBusをアプリに入れること自体は全く難しいことではなかったです。でもやはりipolysixとAudiobusの関係をいうならば、iPadに負荷が多くかかってくるので、そのあたりのチューニングに関しては大変です。
複数のオーディオプロセスをするアプリを同時に動かすっていうのはけっこう想定外なわけですよ。そのあたりのチューニングは厳しいものがありますが、今、現在進行形でiPolysixのAudioBusへの対応の仕方は見直しているところです。
i:僕はiPad2使ってるんですけど、やっぱりたまにプツッとクラッシュしちゃうんですが、
もっとシェイプできるものなんですか?
井上:計算のコストという問題はあるんですが、AudioBusをどのような入れ方をするかによっても上手くうごいたり動かなかったりするので、まだ見直している最中です。もうちょっと上手く動くようになるんじゃないかなとは思っていますね。
i:ipolysixのアップデート予定は?
福田:当面は細かい使い勝手をよくしていこうと思います。
i:一つ、ユーザーとして思うことは、どうしてコルグのiOSアプリはMIDI対応に積極的でないのかな、、と思うのですが
井上:対応はしているんですけどね、、、。でもよく言われるのはMIDIクロックに対応してくれという話なんですよね。iElectribeだけは対応してるんですけどね。うーん、どうなんでしょう、個人的に思うところでは、今はバックグラウンドでMIDIを受けれるようになっているので、シーケンサーのアプリでノートイベントを発行してもらえればいいんじゃないかなあというのが僕の意見なんですけどね。
i:iMS-20やiPolysixに付いているカオスパッドを同期させながら演奏したいんですよね、、
福田:確かに、そのリクエストは徐々に増えてきている気はしますよね
井上:いやああ分かります、でもね、やっぱり僕的にはシーケンサーアプリでMIDIイベントを送ってもらえればいいんじゃないかなあ、、って思うんですよねー
さらに、MIDIのチャンネルポートの設定をできるようにしてくれ、とういうリクエストもあるんですけどね。
i:そんなに大変な作業なんですか??
福田:そこはそんなに大変なことではないです。でもMIDIのアサインをフレキシブルに簡単に設定しようとするのには多少時間がかかってきてしまいますね。
i:同期ということではWISTがありますが、あれが実はちょっといまいちなタイミングだったんですよねー。途中からずれちゃう。
福田:あの技術はスタートのタイミングだけを合わせるようにしているので、完璧な同期というより、友達との気軽なジャムセッションを楽しむものを意図してつくったものなんですよね。
i:と、考えるとやっぱりMIDIクロックが必要じゃありません??
福田:どんなシチュエーションでクロックが欲しいと考えます??
i:iOSだけで音楽をつくるというスタイルはひとつあると思うのですが、やっぱり大概の人はコンピューターをベースにして曲を作っていてどうやって上手くiOSのアプリを音楽作りに利用しようか考えるわけですよ。とくにリズムメインの音楽を作る時にはアルペジエーターとかカオスパッドを使ってジャムセッションをしながらオーディオに落としていきたいと思うんで、いやー、やっぱりクロックが欲しいですね。
福田:ハードウェアシンセサイザー的な使い方ってことですよね
井上:そうですよね、、ノートイベントやMIDI CCを送ったほうがDAW側で一元管理できるじゃないですか。だからそっちの方が使い勝手がいいんじゃないのかなーと僕自身が思っているから、その部分があまり動いていないのかもしれないですね。
福田:でもやっぱり新しいディバイスで同期するのは楽しいんでしょうね、、
i:はい、同期は楽しいです!極端ですが、リズム音源とアルペジオだけでも気持ちのいいライブができたりしちゃいますからね。。
福田:ま、可能性はあるでんでしょうね
i:よろしくお願いしますよー
i:話は変わりますが、みなさん、ふだんはどんな音楽を聞かれるんですか?
福田:最近は昔のブロークンビーツを聴き返していますね。
井上:僕はLAヒップホップエレクトロみたいのがすきですね。
中島:僕はちょっとジャジーなクラブものですかね。
i :ふだん聞いてらっしゃる音楽って開発に影響するものなんですかね?
井上:僕は微妙に入れこんだりしてますけどね!! (笑)
たとえば新規でいくつかエフェクトを開発して入れたりする時なんかには、ま、ちょっと想起しますよね。今回入れたものの中では、LFOをかけて音量のバランスを上下させるものとか。ここではシンセ1から2にサイドチェーンをかけるようなことができないので、エフェクターでそれらしいものを用意したりとか。
エフェクターは多い方が楽しいと思うので、ワンアイデアのものをたくさん用意して、その中から選んでもらえるように考えてます。
福田:2パラメーターに落とし込むっていうアイデアが面白いところでもあるんですよね。ElectribeやKaossPadなんかでもそうなんですが、たくさんのパラメーターを2パラに落とし込むのはコルグが昔から得意とするところでもありまして。
i:みなさんは新しいサウンドを見つけることに興味があるんですか?それとも新しい音楽を作るマシンを作ることに興味があるんですか?
井上:それぞれみんなあるバランスを持っていると思います。その日ごとにやりたいことは変化していってしまうので、サウンドエンジンにとても興味がある時もあれば、インターフェイスに関して何だかんだ言っている時もありますしね。
中島:そのときの気分とかモチベーションとか、自然の流れに合わせて、何かを1つにまとめあげるってことですかね。
i:今後やってみたいことは?
井上:うーん、、どうなんでしょうね。。何かあります?
i:Mono/polyのiPadバージョンとか近い将来にありえそうですよね?
井上:あれ、おもしろいですよね。かなりマニアック。4オシレーターでオシレーションの仕方、キーボードをどういう風に弾くかいろいろなモードがあっていいんですよ。
福田:僕はLegacy CollectionのMono/polyバージョンにも関わっていたんですが、鍵盤を押さえるごとに発音する順番が変わるとか、あれ考えたのって面白いですよね。Polysixとは全く違う物ですけどね。
i:まだまだこの会社には面白いマシンがたくさん眠ってるんですよねー。50年分の技術に加わる新しい発想。これからのコルグにますます期待が持てそうです。これからもぜひ楽しい楽器をたくさん作っていってください。今日は本当にありがとうございました。
いっかい ポリフォニック・シンセの名機「korg-polysix」をipadで完全再現した「iPolysix for iPad」
いっかい korg-iPolysixを使ったジャム「submarine-drift」