Glitch²、いま触ってもやっぱり面白い ― illformed Kieran Fosterへの追悼


ここ一週間ほど、音楽テック系のメディアを回っていると、やたらとこのニュースを目にする。Glitch²の開発者、illformedことKieran Fosterが47歳で亡くなった。追悼として、友人の開発者たちの手でVST3対応が加えられ、フリーウェアとして公開されている。あちこちで見かけるうちに気になって、改めてGlitch²を引っ張り出して触ってみたら、普通に良かった。せっかくなので、その話を書いておきたい。

Glitch²とは

Glitch²は、illformedことKieran Fosterが作ったマルチエフェクトプラグイン。ディストーションやリバース、テープストップ、ゲーターなど、音を分解・再構築する系のエフェクトがずらっと並んでいて、それをステップシーケンサーで細かく組んで、狙ったタイミングで発動させる、というやつだ。

普通のエフェクトが音量やフィルターの変化をシーケンスするのに対して、Glitch²は「このステップでこのエフェクトON」みたいにエフェクトのON/OFF自体を精密に刻んでいくのが面白いところ。このオンオフの組み方自体でフレーズを考えたりもできる。組んだパターンは「シーン」として保存できて、鍵盤を叩くだけで瞬時に呼び出せる(最大128個)。ランダマイズ機能も充実してて、パラメータをいじりながら音の変化を観察してるだけでも面白い発見があるタイプのプラグインだ。

ちなみに2005年に出た初代Glitchは、この「テンポに同期させて音を精密に解体・再構成する」系プラグインの元祖みたいな存在で、2008年のSugar Bytes Effectrixなんかもここから影響を受けていると言われている。

実際に使ってみた感想

グリッチ系のエフェクトって、そもそも「正解」があるわけじゃない。EQやコンプみたいに「良い音を作るための正解の設定」を探る感じとは違って、パラメータをいじりながら偶然出てくる音を面白がる、という遊び方がそのまま許されている感覚がある。Glitch²はまさにそれで、直感的にガチャガチャ触っているだけで、IDMなんかで即使えそうなSFX的な音がポンポン出てくる。それから、曲の展開のある部分をあえてバグらせたい時なんかに、マスターにかけてやると、いい感じで音が溶け出して、また元に戻る、みたいなこともできる。

改めて感じたのは、エフェクトのON/OFFそのものをシーケンサー上でコントロールできる、という発想の斬新さ。普通のエフェクトはパラメータの値を時間軸で動かすけど、Glitch²は「このタイミングでこのエフェクトを発動させる/させない」を組んでいく。だから、狙って作ったというより「勝手に生まれた」ようなグリッチが自然にできる。10年以上前のプラグインなのに、この操作感は今使っても新鮮だった。

作った人の話

Kieran Foster
Kieran Foster氏

Glitch²の裏側を調べていて分かったのは、Kieran Fosterがただのプラグイン開発者ではなかったということ。長年Renoiseフォーラムの中心メンバーとして、トラッカー型DAW「Renoise」そのものの方向性を形作る手助けをしてきた人物でもあった。illformed、dblue、MaDHaTTeRという複数の名義を使い分け、プラグイン開発だけでなくBandcampでの音楽活動やアートワークも手がけていた、いわばマルチな作り手だったらしい。

今回のフリーウェア化を主導したのは、実は開発者仲間ではなく彼の妹Joniさんだったという。友人のjenokiさんがJoniさんとコミュニティの橋渡し役を務め、taktikやbeatslaughterといったRenoise周辺の開発者たちが協力してGlitch²のフリーウェア化を実現させた。開発者コミュニティが遺族と手を取り合って、彼の仕事を残した形だ。

illformed.comの追悼文は、彼を「音楽、サウンド、アート、伝説的なソフトウェア、そして圧倒的な人柄の良さという遺産をこの世界に残した」人物として描いている。一方でBandcampの自己紹介はというと、「気難しいやつ。塩っ辛いおっさん。バカな音を作る人。全体的にオタクっぽいやつ。あのGlitch VSTを作った。さあ、変になろうぜ!」と、いかにも砕けた調子だった。この温度差が、彼という人の輪郭をよく表している気がする。

自分も色々なプラグインを試すのが趣味であり仕事だったりするわけだけど、開発者と実際に話す機会があると、それはもうアーティストと喋っている感覚に近い。会話ひとつでそのプラグインがより好きになることもあれば、逆に印象が変わって、そこから鳴る音のイメージまで変わってしまうこともある。Kieran Fosterと直接話したことはないけれど、今回の一連の記事を読んで感じたのはまさにこれに近い感覚だった。彼と面識はなかったけれど、Glitch²を触るたびに、その存在を少し思い出すことになりそうだ。

Glitch²のダウンロードはこちらから https://illformed.com/glitch/


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