ベルリンのKreuzberg、Kottbusser Tor駅のすぐそばに「ベルリン・シンセサイザー・ミュージアム(Synthesizer Museum Berlin)」があります。落書きに覆われたビルを見上げると、スーパーマーケットREWEの赤い看板の上に、大きなつまみが描かれたSchneidersladenのバナーが掛かっています。ここはかつて、モジュラーシンセの有名なショップSchneiders Ladenがあった場所。店が移転したあとも、同じ場所でシンセの音が鳴り続けているのは、なんだかうれしいものです。

入り口は、スーパーの入り口の横にある、ステッカーで埋め尽くされた年季の入った重たいドア。呼び鈴を押して扉を開けると、落書きだらけの階段が2階へと続いています。ベルクハインのような緊張感はないので、どうぞご安心を(笑)。

中に入ると、スタッフがレセプションまで案内してくれます。その先はラウンジのようなスペースで、天井からはキーボードが吊るされ、バーカウンターの側面にはDoepferをはじめとするシンセメーカーのステッカーがびっしり。飲み物(もちろんビールも)を片手にひと息つけるほか、テーブルにはStylophoneのような小型シンセも置かれていて、子どもたちも気軽に遊べる雰囲気です。

展示スペースは年代やテーマごとに部屋が分かれ、ほとんどの場合ヘッドホンをつけて実際に弾けるのが最大の特徴です。中にはスピーカーにつながっている機材もあり、音が部屋に響くと、ちょっとしたスタジオにいる気分になります。
訪問時の館内図には50台近い機材が番号つきで並んでいて、MinimoogやProphet-5、DX7といった定番から、BuchlaやDoepferのモジュラー、さらにはソ連のPolivoksや東ドイツのVermonaまで。ベルリンらしく、東側の楽器にも出会えるのがうれしいところです。博物館というより、名機が並ぶ楽器店の試奏コーナーに迷い込んだような感覚でした。
奥の小部屋:System-100とKORG MSシリーズ
私が特に惹かれたのは、奥の小部屋です。壁一面が銀色のアルミシートのようなもので覆われていて、ちょっとSFの宇宙船の中にいるような雰囲気。ここにRolandとKORGの名機がそろっています。
まずはRoland System-100。鍵盤ユニットを中心に、エキスパンダー、シーケンサー、VUメーター付きのミキサー、そして両脇の専用スピーカーまでがそろったフルセットです。いくつかのユニットは東京のFive Gやネットオークションで見かけたことがありますが、フルセットで、しかも自分の手で触るのは初めての経験でした。

正直なところ、鍵盤のタッチはお世辞にも心地よいとは言えません。それに、下手に触って壊したらどうしようという気持ちも働いて、どうしても手が縮こまってしまいます。そんなとき、スタッフが近づいてきて、シーケンサーを使った簡単なパターンの作り方を教えてくれました。ソフトシンセに慣れきった私にとって、アナログシンセとは改めて「手を動かす」楽器なのだと気づかされた瞬間でした。
それにしても、このSystem-100のデザインは素晴らしい。ユニットごとに独立した筐体を机の上に並べ、ケーブルでつないで一つの楽器にする。1975年の時点で、いまで言う「デスクトップシンセ」のような発想をすでに形にしていたんですね。

KORG MSシリーズとSQ-10のセット。System-100のミニプラグとは違い、こちらはフォーンプラグでパッチング。太くて長いケーブルが、まるで蛇のように机の上をのたうっています。
赤い部屋
中央にあるのは、リビングルームのような赤い部屋です。赤いカーテンにふかふかのソファ、デビッドリンチの映像のような雰囲気。壁一面にはRoland System-700がそびえ立ち、私が入ったときには先客がヘッドホンをつけて、真剣な顔でパッチングに取り組んでいました。
この部屋では、Roland Jupiter-8やOberheim OB-X、そしてYAMAHA CS-80といった名機に実際に触ることができました。写真や音源でしか知らなかった機材が、手を伸ばせば届く場所に普通に置かれている。その「普通さ」に、かえってドキドキさせられました。

ポップな部屋
一方こちらは、明るくポップな部屋。天井はカラフルなタイルのチェック柄で、窓ガラスには色とりどりの付箋がびっしりと貼られています。私が訪れたときは若い来場者が多く、友だち同士で一つの機材を囲みながら、あれこれ音を出していました。赤い部屋の落ち着いた空気とはまた違う、にぎやかな楽しさがあります。
この部屋で私が大盛り上がりしたのは、Moog Prodigy。そしてその隣のカラフルなMoog Source。こんな機材に気軽に触れられる機会って、なかなかないと思いませんか?奥では若いお客さんがTR-808を爆音で鳴らしています。
オーナーに聞いてみました
館内を一通り回ったあと、どうしても気になったことがあり、ミュージアムにメールで質問を送ってみました(2026年10月に回答をいただきました)。答えてくれたのは、創設者でオーナーのMichael Soltauさんです。
まず驚いたのが、展示されている機材のおよそ95%がSoltauさん自身のコレクションだということ。90年代から集め続けてきたそうで、残りは家主であり友人のAndreas Schneiderさんや、ほかのコレクターからの貸し出しだそうです。ここまで歩いてきた部屋いっぱいの名機が、ほぼ一人の情熱から集まったものだと思うと、見え方が変わってきます。
毎日誰かに弾かれるヴィンテージ機材だけに、修理は日常的。そのため館内には専属の技術者がいるそうです。私たちが気軽にフィルターを回せる裏側には、こうした地道なメンテナンスがあります。
「いちばん貴重で、いちばん心配な一台は?」という質問には、Memorymoogという答えが返ってきました。80年代初頭のポリフォニック・アナログシンセで、Soltauさんも素晴らしい楽器だと絶賛していますが、内部のコンピューター部分が不安定なため、普段は電源を落としているそうです。ほぼすべての機材が電源オンのこの館では、例外的な存在です。
そして「まだ手に入れていない機材は?」と聞くと、Moog System 55、Moog Liberation、PPG Wave 2の3台を挙げてくれました。これだけのコレクションを持つ人にも、まだ追いかけている名機がある。そのことに、なんだか親近感を覚えました。
ラウンジでひと休み
ラウンジに戻ると、今度は比較的新しい世代のシンセが並んでいます。Nord Lead A1、Access Virus TI、そしてベルリンのNonlinear Labsが手がけるC15。不思議なもので、新しいシンセは触った瞬間に「今の楽器だ」とわかり、なんとなく安心して音を出せます。System-100の前で手が縮こまっていたのが嘘のようでした。
ラウンジには昔の雑誌も置かれていて、ひと息つきながら手に取ったのは、イギリスの電子工作誌『ETI』の1983年2月号。読者が自分で組み立てるオルガンの製作記事が、びっしり描き込まれた回路図とともに何ページも続いています。シンセやオルガンを「買う」だけでなく「作る」時代があったことが伝わってきて、思わず読みふけってしまいました。
言い忘れていましたが、このミュージアムでは館内の録音ステーションを使って、自分の演奏を録ることができます。録音には、館内のショップで購入できるミュージアムのロゴ入りUSBメモリー(10ユーロ)を使うのがルールです。気に入った音色をその場で持ち帰れるのは、制作をする人にとってはたまらない仕組み。私も楽しみにしていたのですが、この日は混雑していて、思うように録音できなかったのが心残りでした。
また行きたい場所
混雑していたとはいえ、隣の人がヘッドホンを外して「これ、すごいよ」と目で合図してくるような、音好き同士のゆるやかな連帯感がありました。全部屋を回りきることもできなかったので、近いうちに平日の空いた時間を狙って、USBメモリーを持って再訪するつもりです。
画面の中で見慣れたパラメーターが、手のひらの感触と結びつく瞬間。それを味わえるだけでも、足を運ぶ価値は十分です。シンセサイザー好きなら一度は訪れてほしい、ベルリン観光で外せない名所です。
Synthesizer Museum Berlin(2026年10月時点)
住所:Skalitzer Straße 135A, 10999 Berlin(U-Bahn Kottbusser Tor駅すぐ)
営業時間:10:00〜18:00(火曜休館)
入場料:14ユーロ(2時間)
録音用USBメモリー:10ユーロ(館内に録音ステーション6か所)
ガイドツアー:毎週日曜 11:00(ドイツ語)/12:00(英語)、10ユーロ(別途入場料)
公式サイト:https://www.synthesizermuseum.info
※料金・営業時間・展示内容は変わることがあります。最新情報は公式サイトでご確認ください。







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