およそ3年ぶりとなるAbleton Live メジャーアップデートバージョン、Live 9が3月5日よりリリースされます。

スキンカラーがグレーに変わり、選択した項目は水色で強調され爽やかな印象を受けるLive 9。以前のスキンカラーの方が好みの場合は環境設定よりLive 8のスキンカラーを選択することができます。おおまかなレイアウトはほぼ同様ですが、ブラウザーが大幅にリフォームされ、コントロールバーでは新しい「セッションビューオートメーション」のためのスイッチが増えたほかに若干の変更が見られます。

Live 9はLive 8と同様にライブラリーの数や機能の制限に応じて3つのバージョン(Live Intro、Live Standard、Live Suite)が用意され、Live Introはビギナー向け、Live StandardとLive Suiteは共に機能無制限ですが、プラグインの数やサウンドライブラリー(Pack) の数の違いがあり、またLive SuiteにはMax for Liveが付属しています。64ビットバージョン32ビットバージョンのリリースですが、64ビットバージョンでサードパーティ製のプラグインを使用する場合はプラグインも同様に64ビットバージョンでないと動作しません。変換ブリッジのようなツールは含まれていません。

今回はLive 9 Suite ベータバージョンb68を試してみました。

Live9のコントロールバー

 

Live8のコントロールバー

 

 

Convert Audio to MIDI ハーモニー、メロディ、ドラムをMIDIに変換

Live 9にはオーディオ素材をMIDIに変換することができる新機能「Convert Audio to MIDI」が加わり、モノフォニック素材を変換する「メロディ」、和音素材を変換する「ハーモニー」、リズム素材を変換する「ドラム」の3種類のモードが用意されています。アイデア自体はMelodyneと同じものなのですが、Live 9の方がCPUの消費を大きく押さえられます。変換はオフラインで行われ、特別な設定は用意されていません。変換されたMIDIクリップはLiveのプラグインシンセのサウンドが自動的にアサインされ、リズムモードの場合はDrumRackのサウンドがアサインされ、キック、スネア、ハイハットの識別がされた上でMIDIクリップが生成されます。驚くのはその精度で、クリアーに録音されているオーディオファイルであればほぼ確実なオーディオ周波数とアタックのタイミングが抽出されます。やや複雑な内容のオーディオファイルの場合、たとえば録音状況のクリアーでないものや複数の楽器が録音されているものは全く変換できない確率が高くなります。ギターのフレットをスライドしたりシンセサイザーのピッチベンドを動かしたような内容の情報も抽出されません。キーボードを弾くことの出来ないユーザーがマイクの前で口ずさんだメロディをMIDIに変換させることや、コンピューターのマイクを使ってビートボックスをしてみることや、とても耳コピーできないようなピアノフレーズをMIDIに変換してからエディットをするなど、使い道は様々。とてもクリエイティブな新機能です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実験として坂本龍一氏の「戦場のメリークリスマス(ピアノバージョン)」をハーモニーモードでMIDIに変換してみました。およそ4分30秒のトラックで変換にかかった時間はおよそ2分20秒。(Mac Book 2011年モデル使用)変換されたクリップはインストゥルメントラックのグランドピアノの音が自動的に選択されすぐに聞くことができます。結果は。ノートの読み取り違いは多くあるもののキーを押さえるタイミングはかなり秀逸。もちろんこれはコピーマシンではありません。

「戦メリ」をMIDIコンバートすることこんなことに、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セッションビューオートメーション

Live 8でオートメーションを書く際にはタイムラインベースであるアレンジメントビューで書き込みを行うか、グリッドベースであるセッションビューのモジュラーエンベロープに書き込み行っていたわけですが、Live 9ではこの両者のギャップが埋められることになりました。まず、コントロールバーには「セッション録音ボタン」が付けられ、これを押すことで各クリップごとにエフェクターのパラメーターやミキサーの動きをレコーディングすることができます。特に昨今のエレクトロニック音楽ではシンセサイザーやエフェクターのパラメーターコントロールがMIDIノートと同じくらいに重要なものとなっているだけに、とても使える機能で、たとえばパッドサウンドを押さえている間にフィルターを動かすようなことや、エフェクターのセンドの量を状況に応じて変えるようなアイデアをクリップとして作り貯めて、あとでベストなものを選択することができるわけです。

また、セッションをアレンジメントビューに録音移動した際もクリップに書き込んだパラメーターの動きはタイムラインベース上に表示されることになります。

セッションビューで描いたオートメーション、これをアレンジメントビューに持って行くと →

 

 

 

 

 

 

 

 

オートメーション内容がアレンジメントビューにも反映されるわけです

 

コントロールバーに新しく付けられた「セッションアームボタン」+「セッション録音ボタン」を押すことで録音が始まり、マウスでパラメーターを動かしたり、コントローラのツマミを動かした内容が記録されます。再生中であるすべてのトラックのオートメーションを同時に記録することも可能です。今までできなかったことではないのですが、作業を簡単に行うことができ、時間の短縮を図れることになります。

黄色になっているボタンがセッションアームボタン、右側の録音ボタンがセッション録音ボタン

 

 

 

また、アレンジメントビューで書き込まれているオートメーションの情報をセッションビューに持って行くことも可能になっています。コマンド「時間を新規シーンへ統合」を選択することでセッションビューに新しいクリップが作られ、その内容はエディタにも反映されます。一度アレンジメントビューでアレンジを完成させた後でライブパフォーマンスのためのセットを作る際には便利な機能といえるでしょう。

アレンジメントビューからセッションビューに同じデータを移動

 

 

 

 

 

 

 

 

ペンシルツールを使ってオートメーションを書く際には「カーブオートメーション」が使えるようになり、滑らかなカーブを描くことができるようになりました(やっと)。また、今までブレークポイントを描く際にはダブルクリックが必要だったのですが、シングルクリックで作れるようになりました。(これは本当に嬉しい)

カーブのラインを描く際にはオプションキーを押さえる

 

 

 

 

 

 

 

 

MIDIエディットの向上

あまりハデなポイントではありませんが、MIDIエディットに関していくつもの改良が加えられています。たとえば、選択したMIDIノートをまとめてトランスポーズすることや、レガートにすること。MIDIノートを水平に反転、上下に反転させることができるのも実験的で面白い機能です。MIDIストレッチマーカーを使ってMIDIノートをストレッチすることも可能で、とてもAbletonらしい機能といえるでしょう。

左側がトランスフォームツール、エディター画面上の水色になっているのがストレッチツール

 

 

 

 

 

 

今までのバージョンでは特にベロシティの書き込みが億劫だったのですが、Live 9からは「ドローモード」を選択している際に「コマンドキー」を使うことでMIDIエディター上でベロシティの書き込みエディットをすることができるようになっています。また、新しいショートカット「0」を押すと選択したクリップやデバイスをアクティベート/ディアクティベートできるのも便利です。

ベロシティの設定がかなり楽になりました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラウザー

大幅にリフォームされたブラウザー。表示が2行になりLive 8よりもはるかに使いやすいものとなっていますが使い慣れるまでには時間が多少かかるかもしれません。Liveデバイス(Sound、Drum、Instruments、Audio Effects、MIDI Effects、Max for Live、Plug-ins、Sample)といったカテゴリーと、ライブラリー(Pack)が分類され、カスタムフォルダーを作ることも可能になっています。Liveのビルドインシンセサイザーの試聴をすることが可能になったのは嬉しいところです。Max for Liveのサウンドは試聴できません。たとえばSoundというカテゴリーを開いてみるとAmbient、Bass、Brass、Ethnic、、、などといった種類に分類がされており、この中からサンプルライブラリー(Packs)やビルドインシンセサイザーの音を選択することができるようになっています。

とはいえ、まだまだ改良の余地もあるようにも感じられるブラウザーで、例えばSampleというカテゴリーに入ってみるとそこには数えきれない程のサンプルが並んで見え、もっと整理されてもいいように感じます。しかしLive 8で問題だった検索時間はかなり早められています。

Live9のブラウザー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Live8のブラウザー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新しいエフェクター 改良されたエフェクター

イコライザーEQ8の大幅な改良。SVFフィルターが搭載されたことで、より自然でクリアーなサウンドを得られます。周波数ディスプレイをセッションビュー/アレンジメントビューのエリアに大きく表示することができるようになり、ペクトラムアナライザーも装備されました。Adapt Qを使うことで帯域幅を自動的に狭めることができ、問題となっている周波数を見つけ出しカットすることも楽になっています。試聴モード(ヘッドフォンのアイコン) ではフィルタードットをクリックしたままにすることでそのフィルターの効果だけを試聴することができます。オートメーションを使ってフィルターを動かすことも可能。

改良されたEQ8

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新搭載のGlue Compressorは80年代のSSLアナログバスコンプレッサーがモデルになっており、あからさまなコンプレッサーサウンドを作るというよりも微妙でスムーズなリミッター操作に適しているといえそうです。外部入力によって操作されるサイドチェーン機能も搭載。高音質モードであるオーバーサンプリングモードも選択できますが、これはCPUをやや多く使うことになります。

新搭載のGlue Compressor

 

 

 

 

 

 

 

その他、Gate、Multiband Dynamics、Compressor、Operatorが改良されています。Max for Liveにはコンボリューションリバーブが追加され、今までのLiveとは違う高品位な空間系リバーブを楽しむことができます。もうひとつ、Max for Liveの新搭載ドラムシンセ。こちらは大胆なシンセティックドラムサウンドです。

Max for Live コンボリューションリバーブ

 

 

 

 

Max for live ドラムシンセ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まとめ

Live 9のベータバージョンが配布され始めたのと同時にLive 9ユーザーフォーラムが開設され、ユーザーとディベロッパーの間で頻繁に対話が行われてきました。(時には無茶苦茶な不平不満をこぼすユーザーに対しても冷静に応対するAbletonのやりとりは見ているだけでも面白かったのですが、、)ユーザーが今このLiveをどのように使い、何を必要としているのか汲み取られたアップデート内容ともなっており、ディベロッパーがユーザーの立場から考えようとする姿勢はとても好意的に受け取れます。

フォーラム内で特に現実的問題となっていたのはブラウザーの改良についてですが、バージョンが上がるにつれ動きは改良され、リリース版ではさらに良くなっていることが期待できます。しかしすべての希望がかなえられたわけではなく、山積みとなっている問題も多々。そのうちの1つはモニターディスプレイを2台使うことができるようになるマルチモニターのサポートで、この先、Abletonがこの問題に対してどのように対応していくのかを暖かく見守りたいところです。

新搭載のエフェクターGlue Compressorや改良されたEQ8などのクリアーな音質は大歓迎で、全体的に音質が向上したように受け取れますが、Live 9自体のオーディオエンジンはそのままのようです。

Convert Audio to MIDIやセッションビューオートメーションのような新しいクリエイションを促す新機能も大歓迎。MIDIエディターの改良で見られるような小さな内容であってもワークフローの向上が期待できる改良も大歓迎。またこれらの機能はLive専用コントローラ「Push」と同時利用することでさらに大きな効果を増すということも付け加えておきます。

新機能とエディット機能の改善によって大幅なワークフローの向上が期待できる盛りだくさんのアップデートです。スタジオ内で、ライブパフォーマンスで、さらなる活躍が期待できそうです。

 

 

3月4日までAbleton Live 8が25%オフ+Ableton 9への無償アップグレード

(Live8 Suite ¥52,000 Live8 Standard ¥33,600 Live8 Intro ¥9,980)

LIve 9ダウンロード版

(Live9 Suite €599  Live9 Standard €349  Live Intro €79)

 

Ableton Live 9

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