スウェーデンのシンセメーカーのElektronがリリースした4ボイスのアナログシンセサイザーAnalog Fourに1週間程さわる機会があったのでレポートしておこうと思います。時代はアナログシンセ。では、Elektronが言うところの「デジタルマインド・アナログソウル」とはどのようなものなのか?リリース前から大きな注目を集めていた製品です。

 

外観

AnalogFourの見た目は、同社のサンプラーマシンOktatrackと同じく黒のボディ。こだわりのあるデザインと頑丈そうな作りは好印象です。メインパネルにはたくさんのボタンと、エンコーダーノブが並んでいます。ノブの回し心地はとてもよく、「安さ」を感じる物とは違います。ディスプレイのサイズは今までの製品よりも小さくなってしまっている上に、ドットの低い文字は読みにくく、やや旧型のディスプレイに見えます。スイッチを押してみると、コンピューターキーボードをさわっているかのようなカチャカチャした音がします。

Analog fourの中心は「4ボイスのアナログシンセサイザー」と「4トラックのシーケンサー」。シーケンサーの各トラックは1ボイス分のシンセサイザーを使うことができます。つまり、通常の4ボイスのシンセサイザーと違って、MIDIキーボードからコードの演奏をすることはできないので注意が必要です。(二つのオシレーターのピッチを変えたり、サブオシレーターのピッチを変えることでコードサウンドを作ることはできます。ます。また、シーケンサーの各トラックに同じ音色を並べることで、コード演奏をさせることは可能になります。)
シーケンサートラックには「FXトラック」と「CVトラック」というスロットも用意されています。「FXトラック」はエフェクター(コーラス、ディレイ、リバーブ)のコントロール・設定をすることができ、Analog Four背面のインプットから入力したオーディオ信号にフィルターやエフェクターをかけることができます。

「CVトラック」はAnalog Fourの背面にある二つのCVアウトプットを通して外部CV機材をシーケンサーコントロールすることが可能になり、そんな機材を持っている人にとっては魅力的な機能となります。

また、AnalogFourのMIDI OUTからはDIN信号の送信が行われ、他のドラムマシンやシーケンサーとの同期がとれるようになっていますが、通常のMIDIコントロールをすることはできません。USBからはMIDI信号の送受信が行われるので、コンピューターソフトウェアとの同期に役立ちます。

サウンド

音はかなり素晴らしいです。「北欧っぽいサウンド」というのが正しい表現かどうかはわかりませんが、新しさと、懐かしさ、どちらも堪能できるアナログサウンドです。二つのオシレーターはアナログですが、デジタルでコントロールされているので、厳密には Analog Fourは「アナログ・デジタルハイブリッドシンセ」と言うべきだとは思いますが、おかげで、チューニングはいつも安定しています。

パンチのあるリードサウンドは中域を上手く埋めてくれ、『in your face』(スピーカーから音が顔に降り掛かってくるような)今の時代のサウンドです。暖かみのあるベースサウンドは深すぎず浅すぎず、複雑なSFXサウンド、美しいパッドサウンドを作ることができます。ドラムサウンドを作ることもできますが、シンプルな範囲のものと考えておいた方がいいでしょう。

エフェクターはコーラス、ディレイ、リバーブの3種類。「おまけ」のようなクオリティのものとは違い、Analog Fourの大きなキャラクターを作る重要な部分です。特にスペースの大きなリバーブサウンドやロングディレイの音は印象的で病み付きになります。

問題は、通常のアナログシンセサイザーのように「1つのスイッチに付き1つの機能」というレイアウトがされていないところです。例えばフィルターをコントロールする時にはまずフィルター のペー ジに行き、そこでディスプレイを見ながらフィルターを操作しなければなりません。すべての機能に簡単に手が届く、通常のアナログシンセサイザーとは違った形です。

 

シーケンサー

シーケンサーの操作はこのマシンの醍醐味です。複数ページに渡って64ステップまでのシーケンスを組んでいくことができるもので、入力にはメインパネルの「1オクターブ・オンボード・キーボード」を使って「リアルタイム」で打ち込んでいく方法と、本体下のシーケンサーステップに打ち込んでいく「グリッドモード」が用意されています。このオンボード・キーボードはまったくシンプルな物なので、これを使って何かを演奏しようという人はほとんどいないと思いますが、シーケンス入力の際にはかなり大きな助けとなってくれます。

これまでのElektron製品と同様に、Analog Fourには「パラメーターロック機能」が搭載されています。たとえば、シーケンサーのステップ1の部分だけのピッチを高くすることだったり、ステップ2の部分だけフィルターの量を変えることだったり、ステップ3の部分だけエフェクターのセンド量を変えることだったり、各ステップにパラメーター値を入力することができる機能です。操作も簡単で、シーケンサーステップのボタンを押しながら、パラメーターの量(ノブをひねる)だけです。そんな設定を一つのパターンの中に128種類入力することができます。

このパラメーターロック機能によって、各ステップに違う音色を設定することも出来ます。ステップの始めはキックドラムだけ、ステップの後半はスネアドラムだけといったような設定により、ボイス数を節約することができたり、すべてのステップに違う音色を設定するような過激な実験もできます。

「アクセント、ミュート、ノートスライダー機能」はステップをスムーズにつなげる機能で、より凝ったシーケンス作りができ、ハプニングも多々起こります。とにかく実験してみなければ分からないサウンドやフレーズが無限大に隠されている部分です。

また、ノブの動きをリアルタイムに録音することも可能です。6つのモードを持つ「アルペジエーター」は設定値の幅が広く、過激なパターンからメロディックなパターンまで作ることができます。

一つのノブに6つまでのパラメーターをアサインしておくことができる「パフォーマンスモード」も面白いです。例えば、フィルター+エフェクトセンド+アタック+リリースの量をひとつのノブを使って同時に動かすことができ、ライブパフォーマンスではかなり有効な機能です。

 

デジタルマインド、アナログソウル

ファッショナブルなデザインの楽器ですが、その分、操作になれるまで時間がかかり、何十年か前のFMシンセサイザー到来の頃を思い出します。パターン番号を間違って押してしまうと、長い時間かけて作ったサウンドが消えてしまうこともあり、できるならUNDO機能を追加してもらいたいです。

Elektoronのデモンストレーションビデオを見てみると、エンコーダーノブを絶え間なくクルクルと回し、一つのシーケンスパターンを流れるように変化させながらレイヤーを作っていく演奏方法に驚かされます。逆に言えば、すべてアレンジが決まっているような音楽ではなく、即興的に音を発展させていくようなアブストラクトなタイプの音楽を演奏するのに向いているのかもしれません。

暖かいアナログサウンドを使い、過激にデジタルコントロールをすることのできるAnalog Fourは「現代のマシン」です。エレクトロニック音楽、オリジナリティや実験性を求めるミュージシャンの方々に是非試してもらいたいです。


Elektron

One Response to Elektron Analog Fourを試してみた

  1. ふくしま より:

    欲しくなるレポートですね。むむむ。ただ、慣れが必要で、なれれば、世界が広がっている感じがものすごくします。

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