Native Instruments の新しいプラグインシンセサイザーKONTOURが発売されたばかりです。KONTOURはNI の創始者の一人、REAKTORの開発者としても知られるStephan Schmit氏による発案/開発されたシンセサイザーです。NI のシンセで言うのなら、FM8→Prism のシンセエンジンにさらに磨きをかけた FM音源系のシンセサイザーです。
サウンド
KONTOURのサウンドは、フェーズモジュレーション・ウェーブシェーピング・フィードバック、これら3点のシンセシスが相互作用しながら作り出され、広範囲に及ぶ表現豊かなサウンドメイキングが可能、デジタルでありながらオーガニックなサウンド、ということが強調されています。
フェーズディストーション(PD)は80年代にカシオが開発したシンセサイザーCZシリーズに搭載されていた音源。もしかしたら昔懐かしく感じる人もいるでしょう。しかしエディット方法は当時に比べると雲仙の差、デジタルシンセ=複雑 のような印象はいっさい抱きません。
プリセットを聞いてみると、たとえばマレットやギターやバイオリンサウンドは相変わらずFMシンセらしいプラスティックのようなサウンドであったり、ベースやシンセエフェクトはディストーションも絡み低音も効いたアグレッシブなものであったり、パッドサウンドは空間の広いファンタジックなものであったり、かつてのシンセサイザーと比べると繊細さが増していることに気がつきます。今まであまり聞いたことの内ような変わった音も多く、個人的には4-10 Free Blow がお気に入りです。
フィルターは2種類(Comb filterとState Variable Filter)用意されており、シンプルなパラメーター設計によって、そのわずかな調整だけでもサウンドは大きく変化します。このComb Filter が実はKONTOURのサウンドキャラクターを大きく支配しているようにも感じるのですが、やはり可変幅が大きく、チューニングまでできてしまう暴れん坊です。かなり研究しがいのある部分です。
モジュレーション
KONTOURの魅力はそのシンセシスだけではなく、モジュレーションのパワーにもあります。モジューレーションは今どきのエレクトロニック音楽では欠かせないものですが、この部分はさすがエレクトロニック音楽のメッカ、ドイツベルリンを拠点とするNative Instrumentsだけあってその手法はかなり斬新なものとなっています。
KONTOURの画面上には4つのマクロコントロールノブ(Drama/Colur1/Color2/Loudness)が用意されており、それぞれのノブには あらかじめおよそ10のパラメーターがターゲットとしてセットされています。言い換えれば、一つのノブにおよそ10のパラメーターが集約されているので、このノブを回すことによって10のパラメーターが同時に動き始め、サウンドに大きな変化を起こすことができます。
例えばDramaと書かれているノブの横にあるプラス(+)ボタンを押すと、ターゲットとなるパラメーターは同じ緑色で表示されるのですが、ここでアマウント量を設定することができます。ここでマクロノブを回すと、例えばハープのような音がディストーション系ギターのようなサウンドになったりします。
さらに凄いのは、KONTOURではこの4つのマクロノブの動きをモーションレコーダーによって操作することができるところです。このモーションレコーダーを操作するにはKONTOURのページB に移動するのですが、ここでは各マクロノブの動きを綿密に描くことができたり、マウスで動かした内容をレコーディングすることができるようになっています。レコーディングされたモジュレーション波形はマクロノブの横にあるプレイボタンを押すことによってアクティベートされれ、ノブが自動的に動く仕組みになっています。
例えば、ダブステップで使われるベースサウンドのように規則的にフィルターが動くようなサウンドや、キーを押している間、右から左に動き回るような未来的なサウンドテクスチャーを作るような時に活躍する機能です。それと同時に、新しい奇抜なサウンドを作ることができるような予感もする機能です。
キーボーディストにとってのKONTOUR
キーボーディスとにとって重要な表現手段であるベロシティ・アフタータッチ・ピッチベンド・モジュレーションホイールにも気が配られているのがこのKONTOURの特徴でもあります。
MOD ASSIGMNT というセクションでは、5つのモジュレーションソーススイッチ(ベロシティ・キートラック・ピッチベンド・モジュレーションホイール・アフタータッチ)のいずれかを選択すると、アサインすることのできるパラメーターが黄色で表示され、ここでアマウント量を設定することができます。例えばピッチベンドではピッチを動かすためのパラメーターだけではなくフィルターカットオフのパラメーターもアサインされているので、これまでよりももっとエモーショナルなピッチベンド奏法になることが予想されるわけです。
アフタータッチには4つのマクロノブがアサインされているので、キーボード(もちろんアフタータッチに対応しているキーボードを使わなければいけませんが)をグッと押さえ込むことによってマクロノブもグッと動くことになります。どのような効果になるのか考えるとワクワクしますよね。
特にプラグインシンセの時代になってからキーボードはMIDIノートを押さえるためのトリガースイッチと化していたような流れもあったので、退屈していたキーボーディスト(私もそのうちの一人なのですが)にとっては表現手段が増えたことによって、またしばらくキーボードと向き合うことが楽しくなるに違いないでしょう。
NONLINEAR LABS
話はこのKONTOURの開発者であるStephan Schmit氏に戻るのですが、以前にこのブログでもお伝えしたように、Stephan Schmit氏はNIを離れ(株主ではあるようですが)NONLINER LABS という会社を創設し、新しいハードウェアシンセサイザー(開発ネームEmphase)を開発しているとのこと。このKONTOURの音声回路はEmphaseのプレビューのようなものとなっているそうです。
開発中のハードウェアシンセサイザーEmphaseには音声回路部分だけではなく、キーボードコントローラそのものにもDSP プロセッサーが搭載され、これまでになかった、キーボードコントローラとしての振る舞いが可能になるようです。
リボンコントローラ・ピッチベンド・ペダルコントローラ・タッチスクリーンを使うことによって作り出される演奏方法、そしてそれに伴うサウンドとはどのようなものなのでしょうか。モーフィングのような派手なモジュレーション操作が可能になることは想像できるのですが、それ以外のことを想像するのはいまの時点ではちょっと難しいです。
詳しい内容を知りたい人はNonliner Labsのサイトを読んでみてください。
どちらにしても、もうしばらくするとキーボード業界にも新しい波が押し寄せてくるのかもしれません。まずはKONTOUR で準備しておこうと思っている次第です。
KONTOURはNI Reaktor 5 (バージョン5.9.2以降)もしくはReaktor 5 Player (無償)で使うことができます。KOMPLETE 10 にも内包されていますが、単体での購入も可能。価格は€99、デモバージョンも用意されています。