chipspeech

 

カナダのモントリオールのソフトウェアメーカーPlogue Art et TechnologieがリリースしたChipspeech は80年代の音声合成チップの数々をエミュレートしたプラグインソフトウェアだ。音声合成というと今の時代、初音ミクやボーカロイドが大きな脚光を浴びでいるわけだが、その歴史は意外にも長く、初めてコンピューターに歌を歌わせることに成功したのは1961年のこと、アメリカのベル研究所においてIBM 704というコンピューターが「デイジーベル」を歌ったことに始まる。この記念すべき音声をまだ聴いたことの人はこの機会に是非。

 

Talk

 

Chipspeechはスタンドアローン、もしくはプラグインモード(VST/AudioUnits/RTAS/AAX)として起動する。Text欄に歌詞を書き込み、あとはMIDIキーボードを弾くか、DAWソフトウェアにMIDIノートを書き込めばその音程通りに歌を歌い始めるモノだけでなくポリフォニーにも対応しているので和音(コーラス)演奏にも対応していたり、英語だけでなく日本語にも対応しているのは嬉しい部分だ。

Chipspeechには音声合成の歴史において重要とされている7つボイスが収録されているのだが、Plogue Art et Technologieはこれらを忠実に再現している。(各ボイスの使用権利も獲得しているそうだ。)それぞれのボイスがSFアニメシンガー(?)かのようにキャラクター化されているのも面白い。

 

Bert Gotrax

Dandy704 IBM704

Otto Mozer

Otto Mozer TSI S14001A Link

Lady Parsec

Lady Parsec TI-99/4A plug-in speech synthesizer module

Bert Gotrax

Bert Gotrax Votrax SC-01

Dee Klatt

Dee Klatt Dectalk

Spencer AL2

Spencer AL2 SP0256-AL2 chip

Terminal 99

Terminal 99 TI-99/4A plug-in speech synthesizer module

 

下のファイルがこのChipspeechのデモトラックだ。チップチューン界で有名なアーティストも多数参加している。

 

 

操作方法

操作方法は簡単だ。まずは上で紹介した7人のシンガーの中から一人選択する。Presetの中にはデモとして英語のフレーズ、日本語のフレーズが用意されているので、手始めにこれらのフレーズを使って演奏してみるのもよいだろう。「さくらさくら」の歌詞も入っている。

自分で歌詞を入力する場合は、Text欄に歌詞を書き込む。あとはMIDIキーボードを弾くか、DAWソフトウェアにMIDIノートを書き込めばその音程通りに歌を歌い始める。日本語の場合ひらがなとカタカナに対応している。歌詞をコピーペーストすることもできるので、コピーソングを演奏したいときには便利だ。

ChipspeechはひとつのMIDIノートにつき一音節を発生する仕組みになっている。たとえば「このこいは」という歌詞を歌わせたいときには5つのMIDIノートを書き込めば、順番通り、MIDIノートの音程に合わせて歌ってくれる。「は」という文字を「わ」という発声にしたいときには(やはり)「わ」という書き込みをしなければならない。

カタカナ英語を歌わせたいときには英語で入力したほうが良い場合もあるが、カタカナで入力したほうが聞こえは良い場合もある。「LOVE」と書いた場合にはMIDIノート1音で歌ってくれるが、「ラブ」と書いた場合にはMIDIノート2音が必要になる。当然、アルファベットで書いた方が英語らしく聞こえる。

ちょっとややこしいのは、「ん」や「ー」(長音節)が入った歌詞を歌わせる時なのだが、これにはちょっとしたテクニックが必要になってくる。「ん」は直前の母音と一緒に発声し、「ー」の場合はひとつの音節として認識するはずなのだが、たとえば「うーん」という文字を入力して歌わせてみたのだが、発生の仕方はどうも一定しない。どのようにMIDI ノートを打ち込むかによっても振る舞いは変わってくる。

長いMIDIノートを書くと、発声する音の最後に「ーっす」というような体育会系言葉のようになってしまうこともある。

もっと正確に歌わせたい、、という場合にはX-SAMPAというASCII文字を使う音声記号で書き込むオプションも用意されているが、見たところ、これはかなりの上級者向けのようだ。

Text欄は合計で127行ある。長い歌にチャレンジしたい場合にはMIDI CCコントロールナンバー2  を使うことで歌い始めの行を指定することができるので便利だ。たとえば、17行目の歌詞から歌わせたいときにはMIDI CC を17 にセットすれば良い。

日本語の発音に関してはシンガーの種類にもよって違ってくるが、外国人が日本語を喋っているような発音も多い。でもそこがスピーチマシンの可愛らしさでもあるように感じる。クリアーに歌わせたい場合はDee Klattが一番良い結果が出るような気はする。

 

chipspeech2

 

シンセサイザーのようにサウンドをデザイン

Chipspeech はシンセサイザーのように扱うこともできる。たとえば、Controlsタブ(画像上)の中を覗いてみると、シンセサイザーさながらの様々なパラメーターが表示される。しかもすべてのパラメーターにMIDI CC 番号が割り当てられているので、MIDIキーボードやDAWソフトウェアのMIDIエディターからの操作が可能になるわけだ。

面白いのはVoice Controls の部分で、選択したシンガーの声をさらに細かくエディットをすることができる。たとえば、Heliumというパラメーター(ヘリウムガスを吸うと声が変になるあのヘリウムのことなのだろう)、シンセサイザー用語的に言えばレゾナンスの調整、音声学用語的に言えば口をどのくらい大きく開けて発声するか、という意味で使われているようだ。当然、このパラメーターを派手にいじるとロボットボイスはさらにおかしなボイスとなる。

そのほか、シンセサイザーでは良く見かけるDetune・Plyphony・Release・ Octave などのパラメーターも用意されている。

人間らしい歌声を表現するためには、やはりビブラートも肝心だ。Modulationタブを開くとビブラートに関するパラメーターが並んでいる。そのほか、ピッチやボリュームに不規則な変化をつくるHumanizeというパラメーターも用意されており、MIDIキーボードのモジュレーションホイールを使ってコントロールすることが可能になっている。

MIXタブの中にはリバーブ系のエフェクターが用意されており、ここにも多くのパラメーターが並んでいる。

 

Plogue Art et Technologie ¥ 11,554

 

 

 

使ってみて

90年代のことだったか?アップルのコンピューターにMacInTalk(入力した言葉を読み上げてくれる機能)が付き、ものすごく感動した覚えがある。どうにか歌わせたいと思い立ち、サンプリングしてスライスして音程をつけたり云々、でも結果はそれほど思わしくなかったような。

そこ頃のことを考えてみると、このChipspeechは夢のようなソフトウェアだ。ましてや日本語にも対応している。そして表現力も多彩、Chipspeechはバーチャルシンガーというよりはシンセサイザーの一つとして使う方法もアリのような気がする。

遠い昔の未来から現代に戻ってきたロボット達というようなドラマ性にもなぜか感激させられる。なぜだろう、どうして私はこんなにロボットボイスが好きなのだろうか!!

最後に、デモトラックを作ってみたのだが、おじいちゃんマシンが歌ったようなノスタルジックなデモとなってしまった。時間がたったらもうちょっとアップデートするつもりだ。

 

 

 

 

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