現在、ドイツベルリンにて、音楽とビジュアルアートに焦点を当てたCTMフェスティバルが開催中だ。17回目を迎える今イベントのテーマはNew Geographic。グローバル化と文化的アイデンティティの摩擦、地域コミュニティーに代わるネット社会、性別や民族性など伝統的な概念の崩壊など、急速に変わりつつある世界状況が問題提起される。CTMフェスティバルは10日間に渡り、ライブコンサート、クラブイベント、ワークショプ、インスタレーション、パネルディスカッション、プレゼンテーション等盛りだくさんのプログラムが組まれている。2月5日にはMari matsutoyaとLaurel Haloによる初音ミクをフィーチャーするインスタレーション「Still be here」や、2月1日からは元発電所を改装した巨大ベニューKraftwerk Berlinにて、Robert Henke(Monolake)とChristopher Bauderによるオーディオビジュアル・インスタレーション「Deep Web」も開催される。
私がまず訪れたのはSeismographic Soundというエキシビジョンなのだが、その中の一部である、メキシコ人アーティストPedro ReyesによるDisarm (Mechanized)というインスタレーションは最も印象深いものだった。
Disarm (Mechanized)では、様々な銃器(回転式連発拳銃、散弾銃、マシンガン・・)が6つの楽器に改造され展示されている。材料となった銃器は、メキシコの犯罪防止委員会が犯罪組織から押収したもので、Pedro Reyesにはすでに解体された部品が贈与されたという。鉄琴、ベースギター、ドラム、黒いメタル製の楽器はコンピューターの制御によって自動演奏を行うのだが、時折鳴り響く尖った音(巨大ホッチキスを打つかのような音)によって恐怖感を覚えたりもする。
面白いことは、Pedro Reyesは松尾芭蕉の俳句から一つのインスピレーションを得ていることだ。(Seismographic Soundsパンフレットより)それは、、
江戸時代の俳人宝井其角が “あかとんぼ/はねをとったら/とうがらし ”という句を詠んだ。これに師匠の松尾芭蕉が手を入れ “とうがらし/はねをつけたら/あかとんぼ ”と返したという。
この逸話には様々な解釈があるようだが、確かに、弟子の句のままでは、まるで赤とんぼを殺してしまっただけであるような滑稽な印象を受ける。それに対し、芭蕉の句の残像は美しく、現代で言うところの「アップサイクリング」を意図していたのではないか、とPedro Reyesは解釈している。
従来から行なわれてきた「リサイクル(再循環)」とは異なり、元の製品よりも次元・価値の高いモノを生み出すことを意味する「アップサイクリング」。Pedro Reyesは武器(唐辛子)を楽器(赤とんぼ)に変えることによって、銃社会に対するメッセージを投げかけているのだ。