Erica Synthsがオランダのソフトウェアカンパニー112dB.comと共同開発したSteampipeは、管楽器や弦楽器の物理的な振動をデジタルでモデル化したシンセサイザーです。従来のアナログ系オシレーターは使わず、代わりに楽器の発音原理をシミュレートすることで、豊かで有機的なサウンドを生み出します。特にLinnstrumentのようなMPEコントローラーやAKAI EWIなどのウィンドコントローラーとの相性が良く、繊細なニュアンスまで表現できる設計になっています。8ボイスのポリフォニック仕様で、32の調整可能なパラメーターと5つのLFOを搭載。価格は990ユーロで、2024年12月17日から出荷が開始される予定です。
主な特徴
- 従来のオシレーターを使用しない物理モデリング方式
- 8ボイスのポリフォニック
- 32の調整可能なパラメーター
- 5つのアサイン可能なLFO搭載
- MPEコントローラーへの対応
- ウィンドコントローラーとの優れた互換性
- 豊富なプリセット(64のファクトリー+192のユーザー)
- USB経由でのプリセット管理
- DIN5 MIDI入力、MIDI Thru/Out
- 全パラメーターのMIDI CCコントロール対応
- ステレオライン出力とヘッドフォン出力
- サイズ:45.5cm x 27cm x 7cm、重量:3kg
フィジカルモデリングの歴史
フィジカルモデリング合成の歴史は1980年代初頭に遡ります。スタンフォード大学のKarplus-Strongによって開発された弦楽器シミュレーションアルゴリズムが、この革新的な合成方式の始まりでした。
商用化の転機となったのは1994年、YAMAHAが発売したVL1です。当時としては革新的な技術でしたが、高価格と限られた計算能力のため、広く普及するには至りませんでした。その後、KORGのProphecyなど、より手頃な価格帯の製品も登場します。
2000年代に入ると、コンピューターの処理能力向上とともに、Native InstrumentsのReaktor Ensamble SteamPipe、SteamPipe 2や、Apple LogicのSculptureなど、ソフトウェアでの実装が増加。2010年代には、Mutable InstrumentsのElementsやRingsといったユーロラックモジュールでも採用され、より身近な技術となりました。
Steampipeが示す新たな可能性
今回発表されたSteampipeは、この長い歴史に新たな1ページを加えようとしています。8ボイスのポリフォニック、32の調整可能なパラメーター、5つのLFOを備え、特にMPEコントローラーやウィンドコントローラーとの組み合わせで、驚くべき表現力を発揮します。
990ユーロという価格設定も、高度な物理モデリング技術を搭載した製品としては比較的手頃で、多くのミュージシャンの関心を集めています。
Steampipeは音楽制作の世界で、アナログシンセの再現とは違う新しい道を提案しています。物理モデリングによる管楽器や弦楽器のサウンドは、アンビエント音楽や映画音楽で面白い可能性を持っているに違いありません。特にMPEコントローラーやウィンドコントローラーと組み合わせると、これまでにない音作りや演奏表現ができそうです。