1982年にKORGから登場したアナログ・ポリフォニック・シンセサイザー「Poly-61」。その独特なサウンドキャラクターを、現代の制作環境で気軽に楽しめるよう再現したソフトウェアが、今回紹介するFull Bucket Music「Fury-68」です。macOSとWindowsに対応し、しかも完全無料。VST2/3、AU、CLAP、AAXといった主要なプラグインフォーマットにも対応しており、すぐにDAWで使い始められます。
Full Bucket Musicとは?
この「Fury-68」を開発したのは、ドイツの開発者Björn Arlt(ビョルン・アルト)氏による個人プロジェクトFull Bucket Music。彼は、過去にも「FB-3100(Korg PS-3100の再現)」や「Trilogy」「Stigma」など、無料とは思えないほど高品質なソフトシンセを数多くリリースしており、音楽制作界隈ではよく知られた存在です。
どの製品もUIはシンプルで軽量、それでいて音には妥協がなく、往年のハードウェアシンセの質感をしっかりと感じさせてくれます。今回の「Fury-68」も、そんなFull Bucket Musicらしい誠実な作りが光るプラグインです。
Korg Poly-61とは?
オリジナルとなるKorg Poly-61は、1982年に登場したアナログ・ポリフォニック・シンセサイザーで、当時のKORGとしては初めてDCO(デジタル制御オシレーター)を採用したモデルです。6ボイスのポリフォニーを備え、比較的コンパクトでコストパフォーマンスに優れた点が特徴でした。
サウンド面では、「太くて温かみがある」「中低域に独特の芯がある」と高く評価するユーザーがいる一方で、「DCOのせいか、少し冷たく感じる」「アナログらしさがやや薄い」といった声もあり、発売当初から今日に至るまで賛否両論の多いシンセとして知られています。
また、操作系についても意見が分かれるポイントの一つです。Poly-61では従来のノブやスライダーをほとんど廃し、代わりに「パラメーター番号を選択し、上下のボタンで数値を増減させる」というデジタルインターフェースが採用されました。これは当時としては画期的な試みで、製造コストの削減と小型化に寄与しましたが、音作りをリアルタイムで調整したいユーザーにとっては直感性に欠け、不満の声も少なくありませんでした。
とはいえ、シンプルで頑丈な構造、独特の操作感、そしてクセのあるサウンドは、現代のヴィンテージシンセファンにとっては魅力の一つとなっています。決して万人向けではない「あえてPoly-61を選ぶ」というスタンスのファンも一定数存在し、現在でもコレクターズアイテムとして根強い人気を保っています。
Fury-68の特徴と魅力
Fury-68は、Poly-61のサウンドや構造を忠実に再現しつつ、現代の制作ニーズに合わせた拡張が随所に施されています。まず、オシレーターは2基のモデリングDCOを搭載し、オシレーター1にはサイン波とパルス波、オシレーター2にはノコギリ波とスクエア波が用意されています。これにより、オリジナルよりも柔軟なサウンド設計が可能です。
フィルターはPoly-61をベースにしたモデリングに加え、カットオフやレゾナンスなどの基本コントロールはもちろん、キーボードトラッキングやエンベロープのルーティングにも対応。エンベロープは2系統(VCF用とVCA用)で、オリジナルよりも詳細な調整ができるよう強化されています。
さらに、1基のLFOを使ってDCOやフィルターにモジュレーションを加えることも可能。サウンドデザインの幅がしっかりと確保されています。
オリジナルにはない拡張機能
Fury-68では、Poly-61にはなかったいくつかのエフェクトも追加されています。標準のコーラスに加えて、フェイザーとアンサンブルが新たに搭載されており、よりリッチで立体感のある音作りが可能になっています。
また、UIの面でも細かな工夫が見られ、パラメーターの解像度が向上しているほか、プリセットのブラウジングが可能な代替パネルも用意されています。さらに、ODDSoundによるMTS-ESP(マイクロチューニング)にもフル対応しており、微細な音律調整を必要とする作曲家や実験音楽系のユーザーにも嬉しい仕様です。
実際に触ってみると、まさにFull Bucket Musicらしい音のリアリティと手触りが感じられます。太くあたたかみのあるトーン、少しざらついたエッジ、そして懐かしさを呼び起こすアナログ感。そのすべてが無料で手に入るというのは、もはや驚きとしか言いようがありません。
ダウンロードと対応環境
Fury-68は現在、以下の形式で配布されています:
- macOS(Intel / Apple Silicon ネイティブ対応)
- Windows
- VST2 / VST3 / AU / CLAP / AAX
公式サイトから完全無料でダウンロード可能。気に入った方は、開発者Björn氏への寄付でぜひサポートを。