Mutable Instrumentsの「Plaits(プレイツ)」という名前は、モジュラーシンセに少しでも興味があると耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
“伝説のモジュール”とも称されるこのユーロラック音源は、1台で多彩なサウンドを操れることで、世界中のアーティストから絶大な支持を受けてきました。
そんなPlaitsのDSP(音を生成する中身)をベースに作られたiOSアプリが、Elastic OSCです。開発はElastic DrumsやElastic FXで知られるOliver Greschke。Plaitsの個性豊かな音色を、iPhoneやiPadで手軽に鳴らせて、しかもAUv3対応でDAWとの連携もスムーズ。タッチ操作に最適化されたXYパッドやスライダーで、直感的に音を操れます。
モジュラーには憧れるけど手が出せなかった人や、モジュラーに憧れていた人にとって、Plaitsの世界を身近に感じられる絶好のきっかけになるはずです。
Emilie GilletとMutable Instrumentsについて
Elastic OSCの核になっている「Plaits」は、フランスの開発者 Emilie Gillet(エミリー・ジレ) によって生み出されました。彼女が立ち上げたブランド Mutable Instruments は、ユーロラック界でひときわ異彩を放つ存在として知られています。
中でもPlaitsは、「1台でここまで多機能にしていいの?」と思うほど多彩なモードと完成された音で、多くのアーティストや開発者から賞賛されました。しかも、その中身(DSPコード)をオープンソースで無料公開していたというのだから驚きです。
Mutable Instrumentsのモジュールはどれも、音楽的センスと設計美学が共存しており、説明書にすら詩的な要素がにじみ出ているような、不思議な魅力があります。開発はすでに終了していますが、その思想とコードは今も多くのソフトウェアやハードウェアに受け継がれています。
Elastic OSCの魅力と使い方
Elastic OSC の魅力は、なんといっても Plaitsの音をここまで直感的に、しかもiOSで使いやすく再構築していることです。
特に注目すべきは、Plaitsに搭載されていた全24のサウンドモードをElastic OSC内でそのまま呼び出せるという点です。これにより、FM音源からグラニュラー、物理モデリング、打楽器系、チップチューンまで、ジャンルを問わないサウンドデザインが可能になります。
- デチューンされたバーチャルアナログ・オシレーター(2基)
- ウェーブシェーピング三角波
- 2オペレーターFM音源
- グラニュラー形式
- 24ハーモニック加算合成
- ウェーブテーブル(8×8の波形バンクが4種)
- コードジェネレーター(ウェーブテーブル式/ビンテージオルガン式)
- 音声合成アルゴリズム
- グラニュラー・クラウド(ソウ/サイン)
- クロック付きノイズ+フィルター
- 粒子ノイズ+フィルター
- Karplus-Strongによる弦モデリング
- モーダル共鳴体
- アナログキック(2種)
- アナログスネア(2種)
- アナログハイハット(2種)
- バーチャルアナログVCF
- フェーズディストーション
- 6オペレーターFM(3バリエーション)
- ウェーブ・テレイン
- ストリングマシン
- チップチューン
サウンドモードを選んだ後は、Plaitsに由来する4つのパラメータ(Frequency, Timbre, Morph, Harmonics)をXYパッドとスライダーに自由に割り当てて操作します。さらに最大8ボイスのポリフォニー、豊富な内蔵エフェクト(ディストーション、フィルター、モジュレーション、ディレイ、リバーブ)、モジュレーションの録音機能も搭載されており、XYパッドの動きをそのままオートメーションとして記録・再生することができます。動きのある音作りをタッチ操作だけで完結できるのは、Elastic OSCならではの魅力です。
さらに、アルペジエーター機能や内蔵キーボードも搭載されているため、外部MIDI機器がなくてもすぐに演奏を始められます。プリセットの切り替えもスムーズで、サウンドデザインをしながらリアルタイムに演奏することもできます。
設定画面では、オートメーションのループ長やベロシティの感度、モジュレーションの滑らかさ(ランプタイム)なども細かく調整可能。自分好みにチューニングすることで、より自由度の高い音作りが楽しめます。
今後の展望とおすすめの使い方
Elastic OSC は現在 iPhone / iPad 専用ですが、今後は Mac や Windows への対応も検討されているとのこと。AUv3対応なので、AUMやCubasisなどのDAWでの使用もスムーズ。
おすすめの使い方:
- AUM内で他アプリと組み合わせてモジュラー的に使う
- XYパッドでオートメーションを記録して動きのある音作り
- iPhoneをライブ用シンセとして活用
- Plaits入門として、サウンドの方向性を体験
- プリセットを呼び出して、気になる音色から音作りをスタート
- 内蔵アルペジエーターを使ってコード感のあるプレイを楽しむ
Mutable Instruments の開発は終わっても、その精神はElastic OSCのようなアプリにしっかり受け継がれています。まずは気軽に、Plaitsの世界を指先で感じてみてください。