今日は6月6日、「606の日」です。

この機会に、Rolandのドラムマシン「TR-606」のエピソードを交えつつ、その魅力を再発見してみましょう。

まずは、TR-606を知らない人のために簡単な説明から。

Roland TR-606(通称「ドラムアティックス」)は、1981年に発売されたアナログ式の小型ドラムマシンです。当初はギタリスト向けのリズム練習用機材として、ベースシンセの「TB-303」とセット販売されましたが、残念ながらあまり人気が出ず、短期間で生産が打ち切られました。

人気が出なかった理由は明確で、『音がシンプルすぎる』『安っぽい質感』『808や909などの上位モデルと比べると地味すぎる』など、当時のミュージシャンやプロデューサーにはあまり評価されなかったとのこと。

また、広告にはジャズ界の巨匠オスカー・ピーターソンが起用されましたが、当時のミュージシャンにはあまり響かなかったようです。https://www.flickr.com/photos/neilvance/2110317753

ところが、数年後に奇跡的な出来事が起こります。

1990年代に入り、アシッドハウスやテクノ、さらにはLo-Fi Hip Hopといったジャンルが登場すると、その『チープ』で『飾らない』TR-606のサウンドが新しい音楽スタイルにぴったりとハマり、注目を集めることになります。

また、人気がなかったことが逆に功を奏し、中古市場で安価に流通するようになったため、予算の少ない若手クリエイターやインディーズ系アーティストたちがこぞって使い始め他のです。その結果、TR-606の独特な音色が徐々に再評価され、最終的にはヴィンテージ機材として高値で取引されるほどの人気を得ることに。

現在では海外でレプリカ製品が作られたり、Roland自身が最新モデル「TR-06」や、パソコンで使えるソフトウェア版がリリースされるなど、今ではTR-606のサウンドは定番のアナログドラムとして様々な音楽制作に取り入れられています。

そんな背景や歴史も含め、非常に興味深い機材がTR-606なのです。

 

【1】元祖・TR-606 Drumatix(1981年)

  • 完全アナログ音源

  • ドラム音色数: 7音色(バスドラム、スネアドラム、ハイタム、ロータム、シンバル、オープンハイハット、クローズドハイハット)

  • シーケンサー: 16ステップシーケンサー(最大32パターン記憶可能)

  • 同期機能: DIN Syncによる同期(MIDIなし)

  • 電源: 単三電池4本またはACアダプター駆動

  • 中古価格 3万円-5万円くらいか

TR-808が高価で手が届かなかったユーザーからは、かつて『貧者の808』(Poor man’s 808)という愛称で呼ばれたこともありました。しかし、その後、アシッドハウスのブームやMr. Oizo、Aphex Twin、Autechreなど先鋭的なアーティストによる積極的な使用で再評価され、見事な復活劇を遂げました。

オリジナルのサウンドを実際に聴いてみたいという方のためにYouTubeを探していたところ、(元?)コルグの高橋氏がTR-606のシーケンスの打ち込み方を詳しく解説する、ちょっと意外な動画を発見しました。まだ見たことのない方はぜひチェックしてみてください。

 

【2】Boutiqueシリーズ TR-06(2020年)

Rolandが自らが発売したハードウェア復刻バージョン。開発には、オリジナルのTR-606を知るベテランスタッフも参加し、当時のサウンドと操作感を再現しつつ、要望の高かった新機能も取り入れられ、多くのシンセファンを喜ばせてくれました。

  • オリジナルTR-606をACB(Analog Circuit Behavior)技術で忠実に再現

  • チューニング、ディケイ、パン、ゲインなどの音色調整が可能

  • コンプレッサー、ディレイ、オーバードライブなどのエフェクトを搭載

  • サブステップ、プロバビリティ、ステップループなどの先進的なシーケンサー機能

  • ユーザーメモリーパターン:128(16パターン×8バンク)トラック:8

  • 5系統のTRIGGER OUTと1系統のTRIGGER INを装備し、モジュラーや外部機器との連携に対応

  • 金属製のトップ・パネルの高い堅牢性と、可搬性に優れたデザイン

  • 単三乾電池4本、またはUSBバスパワーでの駆動に対応

  • 価格 60,500円(2025/6時点)

このRolandのデモビデオ好きなんですよね。わかりやすいし、爽快。

 

【3】ソフトウェア版『Roland Cloud TR-606』(2020年)

  • DAW上で気軽に使用できるプラグイン版のTR-606

  • 各楽器のチューニングやディケイなど、オリジナル版にはない詳細な音色調整が可能

  • 内蔵オーバードライブ、フラムやサブステップ、プロバビリティ(確率設定)といった現代的なシーケンス機能を追加

  • 作成したリズムパターンを、ドラッグ&ドロップでDAWへ簡単に転送可能

  • ステップシーケンサーが画面表示されるので、複雑なビートも直感的に作成可能

  • 価格 23,650円 サブスクリプション中のソフトとしても使用可能

やはりRoland自身が作ったTR-606が自分のDAWの中に入っていると思うと、どうしても気持ちがホクホクしてしまうのです。シーケンスの打ち込みはハードウェアよりもはるかに楽。実機ではないとわかっていても、そこには確かに『本物の血筋』を感じます。

 

 

 

『TR-606』をもっと知ろう!

ここまではオリジナル版、ソフトウェア版、最新モデルと、それぞれの「標準のTR-606」を見てきましたが、TR-606の世界をさらに深く追求したふたつの動画をとサイトを紹介します。

 

TR-608 Mod (2021年)

まずは『改造(モディファイ)』の世界。

TR-606は内部構造がシンプルで、その回路も公開されているため、ある程度の知識があれば自宅で改造ができるようで、それによって新しい魅力を持つ楽器に変身します。

次の動画では、「TR-608」という興味深い改造版TR-606が紹介されています。

この改造では、TR-606に多数のモディフィケーションを施し、TR-808に近いサウンドと機能性を実現。

特に注目すべきはキックの音色で、オリジナルのTR-606はキックが弱いと言われていますが、この改造では個別のアウトプット端子を追加し、チューニング、エンベロープ、ディケイ、トーンの調整が可能になりました。さらにスネア、タム、ハイハットにも細かい音色調整が加えられ、サウンドの自由度が向上したとのこと。

このビデオ、大人の科学の授業みたくて好きなんです。

 

Roland TR-606 vs Roland TR-606(部品の経年劣化)

このビデオでは、40年経過した2台のTR-606を比較し、部品の経年劣化が音に与える影響を検証しています。

同じリズムパターンを両方の606で再生した結果、予想以上に各音色が異なっていました。一方は暖かく丸みのあるサウンドで、もう一方は鋭くクリアなサウンドとなっており、特にハイハットやシンバル音の違いが顕著で、これは使用パーツのバラつきや製造ロットによる違いが影響しているとのこと。

経年劣化による音の個体差が、TR-606に特別な魅力を与えているという意見のようです。

 

TR-606をじっくり聴けるサイト(おすすめ)

TR-606の魅力を語るのもいいけれど、やっぱり実際の音を聴くのが一番。

次のリンク先では、TR-606を使ったカッコいいトラックが集まっています。Elektron社のコミュニティーサイトなんですけどね。606の話題で盛り上がっています。

TR-606 Tracks(Elektronauts)

あなたの知らなかったTR-606の新しい一面に出会えるかもしれませんよ!

 

最後に

派手さはないけれど、どこか愛らしくて味わい深い『TR-606』というドラムマシンは

40年以上もの間、音楽の歴史の中を漂いながら、意外な場所で人々を魅了し続けてきました。

決して派手ではないけれど、その存在自体が物語を語っているかのよう。

みなさんにとっても、TR-606が少しでも魅力的な存在に感じてもらえたなら、とても嬉しく思います。

 

Tagged with:
 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です