Ableton Live 12.2が本日リリース
今回のアップデートは、“ド派手な新機能”ではありません。でも、Liveを日々使い倒している人ほど「これはありがたい!」と感じる、“現場目線の進化”がたっぷり詰まっています。
音作りのワクワクが増し、作業のストレスが減る。そんな「気が利く」アップデートの数々は、制作の流れをスムーズにしてくれること間違いなしです。
この記事では、実際にベータ版を触り込んで「これ、すごく良い…!」と感じた注目機能を、ちょっとマニアックな視点も交えてご紹介します。
① Auto Filterの大幅アップデート ─ アナログライクなフィルターと視覚的な気持ちよさ
Live 1.0時代からお馴染みのAuto Filterが、20年の月日を経てLive 12.2でついに大刷新されました。
単なる見た目のアップデートではなく、フィルター回路そのものやLFO、モジュレーションの設計まで大幅に強化されており、今まで以上に“音に手を加える楽しさ”が感じられるツールへと進化しています。
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新しいフィルタータイプ
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DJ
クロスフェーダー風のバイポーラ動作。EQやDJミキサー的なトーンシェイピングに便利
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Comb
金属的な共鳴やうねりを生むフィルター。フェイザー的な質感にも近く、リードやFX系に◎
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Resampling
わざと解像度を落としたような質感を生む、ローファイ系フィルター。デジタルノイズ感や粗さが魅力
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Notch+LP(ノッチ+ローパス)
特定周波数を抑えつつ、全体を滑らかにロールオフ。ハイブリッドなEQ処理が可能
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Vowel
母音(A、E、I、O、U)を模したEQカーブ。ボコーダーっぽい音作りや声のような質感に向く
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- 新回路「DFM」
歪みを内部でフィードバックさせる設計で、ほんのり温かいサチュレーションから激しいドライブサウンドまでカバー。旧来の「SMPモード」よりも“アナログ感”がぐっと増しています。
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LFOまわりの進化
新波形(Wander, Ramp Up/Down)に加えて、S&Hにもスムージングが追加。拍の細かさも1/64まで選択可になり、ビートと同期した動きがより滑らか&自由に。
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モジュレーションの見える化
フィルターの動きやエンベロープの変化がリアルタイムの波形&スペクトラム表示で視覚化され、“耳と目”の両方で調整できる感覚がめちゃくちゃ快適。
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ゲイン管理がしやすくなり、意図的なオーバードライブ=音色作りの一部”というアナログ的な発想が盛り込まれています。単なるツールではなく、“演奏可能なフィルター”に進化した印象です。
② Bounce In Place / To New Track ─ バウンスがこんなに快適に
Live 12.2では、ついに「Bounce In Place」と「Bounce To New Track」というバウンス機能が追加されました。
これまでのように「フリーズして録音」や「エクスポートして再読み込み」といった面倒な作業は、もう必要ありません。
使い方はとてもシンプル:
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Bounce In Place:今使っているトラックを、その場でオーディオに変換。エフェクトのかかった音がそのままAudioクリップになります。
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Bounce To New Track:元のトラックはそのままグレー表示になり、処理済みのオーディオを別トラックとして出力。比較や編集に便利です。
特に便利なのが、重いプラグインをバウンスしてCPU負荷を軽くしたいときや、Resampling的に音を加工していきたいとき。
しかも内部では32bit floatの高精度レンダリングが行われているので、音質も安心。
さらにこの機能、Pushでも使えます!
ハードウェアだけで作業を完結させたい人にも、制作の自由度がぐっと広がるアップデートだと思います。
③ Expressive Chords ─ ワンノート入力で表現力のあるコード演奏
Max for Live製ですが、Live全エディションで使えるのが嬉しいExpressive Chords。MPE対応のコード生成デバイスですが、単なるプリセット再生にとどまりません。
ノートを一つ抑えるだけでコードが生成され、表現力の高いコードパッドとして活躍します。
注目ポイント:
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1ノート=コード展開:指一本でリッチなハーモニーが鳴る感覚は快感。PushやMPEキーボードとの相性抜群。
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自作コード進行もOK:MIDIクリップから自分だけのコードセットを簡単に取り込めます。
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アーティキュレーション出力対応:コードを構成する各ノートにアーティキュレーション(表情)をつけてプレイ。MeldやSerumなどMPE対応音源に渡せば、一指でコードのニュアンスもコントロール可能。
これまで「コードパッド=機械的」と感じていた人にこそ試してほしいデバイスです。
押し方で響きが変わるコード演奏は、手グセ的に試しながら進行を作れるので、作曲ツールというより“演奏して探す楽器”に近い印象です。音楽的なひらめきが自然に生まれるのがいいですね。おしゃれなコードも鳴らせるのが嬉しいです。
④ Max for LiveがMax 9と完全同期 ─ 新世代オブジェクトに対応
これはMax for Liveユーザーにとって大きなニュースです。Ableton Live 12.2では、Max 9.0.5およびRNBO 1.3.4がバンドルされるようになり、Liveとの統合が一段と進化しました。
具体的には:
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live.* 系の新しいUIオブジェクトが使用可能に
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abl.device や abl.dsp といった高機能な新オーディオ処理オブジェクトが追加
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JavaScript Live APIの call() や set() 関数に対応し、動的コントロールがしやすく
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Max for LiveデバイスのUI設計と音声処理が大幅に近代化
⑤ Roarがさらに過激に
3ステージ構成のRoarが、Live 12.2で大幅強化。特にディレイ後段の再処理ルーティングとDispersionフィルターの追加が大きな進化です。
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Delayルーティングの柔軟化:Stage 1の歪み信号をそのままStage 2で再処理可能。スラップバックや単発ディストーションに最適。
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Dispersionフィルター:周波数ごとに位相がずれる独特の歪みで、Color Bassなど近年のEDM系にも好相性。
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MIDIサイドチェイン:Noteモードで歪みのピッチをノートで制御。
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外部サイドチェイン + エンベロープ制御:キックや他トラックと連動したダイナミックな歪み表現が可能に。
→ 以前から強力だったRoarが、さらに“音を彫刻するツール”としての側面を強めています。
⑥ レゾネーター系デバイスがスケール&チューニング対応に
ResonatorsとSpectral Resonatorが、Live 12.2からスケール認識(Scale Awareness)とチューニングシステム対応にアップデート。これにより、12平均律にとらわれない音階や、独自のスケールでの響きづくりが可能になります。
→ とくにSpectral Resonatorでは、音色そのものがスケールに沿って倍音展開するため、ミクロトーナルや実験的な音作りにも活躍しそうです。
⑦ オートメーションとモジュレーションの新しいキーボードショートカット
オートメーションのブレークポイント(=カーブ上の点)を追加するための新しいキーボードショートカットが多数導入されました。
他のDAWを使っている友人がサクサクとオートメーションを描いているのを見て「Liveもこうなればいいのに…」と思ったことがある方、その願いがようやく叶いました。
ショートカットはリリースノートに記載されています。
⑧ブラウザの改良
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タグシステムを再設計、サウンドプレビュータブからクイックタグを編集可能に。
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ライブラリ内のラベルにカスタムアイコンを設定可能。
● デバイスのアップデート
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Meld:ChordオシレーターとScrambler LFO FXを追加
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Roar:フィルターとルーティングの新オプション
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Resonators/Spectral Resonator:スケールアウェア機能に対応
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Operator:最大32ボイスに対応
● Push 3のスタンドアロン機能も大幅強化
Push 3(スタンドアロン版)は、OSアップデートにより「Follow Actions」に対応。
Follow Actionsとは、Liveのクリップランチャーでの再生を自動化する仕組みで、
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クリップを順に再生
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ランダム化
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フィルやブレイクの自動挿入 などが可能です。
Pushはこのクリップ操作に特化したデバイスながら、これまでFollow Actionsをデバイス上で編集できないのは大きな欠点でした。今回のLive 12.2 + Push 2.2b9からは、ハードウェア上で直接設定・編集が可能になります。面白いアクション操作する人が増えてきそうな予感がします。
Live 12.2は“気が利くアップデート”が満載
今回のアップデートは、どれも派手さよりも実用性。結果として制作の流れも、音の探求も、前よりずっとスムーズに。
とくにAuto Filter、Bounce機能、Expressive Chordsあたりは、触ればすぐに実感できる変化だと思います。
次回のLive 12.3がどうなるかも楽しみにしつつ、今はこの12.2をじっくり使い倒していきたいですね。音作りのモチベーション、確実に上がります!