Ableton Live 12.2が本日リリース

今回のアップデートは、“ド派手な新機能”ではありません。でも、Liveを日々使い倒している人ほど「これはありがたい!」と感じる、“現場目線の進化”がたっぷり詰まっています。

音作りのワクワクが増し、作業のストレスが減る。そんな「気が利く」アップデートの数々は、制作の流れをスムーズにしてくれること間違いなしです。

この記事では、実際にベータ版を触り込んで「これ、すごく良い…!」と感じた注目機能を、ちょっとマニアックな視点も交えてご紹介します。

 

① Auto Filterの大幅アップデート ─ アナログライクなフィルターと視覚的な気持ちよさ

 

Live 1.0時代からお馴染みのAuto Filterが、20年の月日を経てLive 12.2でついに大刷新されました。

単なる見た目のアップデートではなく、フィルター回路そのものやLFO、モジュレーションの設計まで大幅に強化されており、今まで以上に“音に手を加える楽しさ”が感じられるツールへと進化しています。

  • 新しいフィルタータイプ

    1. DJ

       クロスフェーダー風のバイポーラ動作。EQやDJミキサー的なトーンシェイピングに便利

    2. Comb

       金属的な共鳴やうねりを生むフィルター。フェイザー的な質感にも近く、リードやFX系に◎

    3. Resampling

       わざと解像度を落としたような質感を生む、ローファイ系フィルター。デジタルノイズ感や粗さが魅力

    4. Notch+LP(ノッチ+ローパス)

       特定周波数を抑えつつ、全体を滑らかにロールオフ。ハイブリッドなEQ処理が可能

    5. Vowel

       母音(A、E、I、O、U)を模したEQカーブ。ボコーダーっぽい音作りや声のような質感に向く

 

  • 新回路「DFM」

歪みを内部でフィードバックさせる設計で、ほんのり温かいサチュレーションから激しいドライブサウンドまでカバー。旧来の「SMPモード」よりも“アナログ感”がぐっと増しています。

 

  • LFOまわりの進化

    新波形(Wander, Ramp Up/Down)に加えて、S&Hにもスムージングが追加拍の細かさも1/64まで選択可になり、ビートと同期した動きがより滑らか&自由に。

 

  • モジュレーションの見える化

    フィルターの動きやエンベロープの変化がリアルタイムの波形&スペクトラム表示で視覚化され、“耳と目”の両方で調整できる感覚がめちゃくちゃ快適。

  • ゲイン管理がしやすくなり、意図的なオーバードライブ=音色作りの一部”というアナログ的な発想が盛り込まれています。単なるツールではなく、“演奏可能なフィルター”に進化した印象です。

 

 

② Bounce In Place / To New Track ─ バウンスがこんなに快適に 

 

Live 12.2では、ついに「Bounce In Place」と「Bounce To New Track」というバウンス機能が追加されました。

これまでのように「フリーズして録音」や「エクスポートして再読み込み」といった面倒な作業は、もう必要ありません。

使い方はとてもシンプル:

  • Bounce In Place:今使っているトラックを、その場でオーディオに変換。エフェクトのかかった音がそのままAudioクリップになります。

  • Bounce To New Track:元のトラックはそのままグレー表示になり、処理済みのオーディオを別トラックとして出力。比較や編集に便利です。

特に便利なのが、重いプラグインをバウンスしてCPU負荷を軽くしたいときや、Resampling的に音を加工していきたいとき

しかも内部では32bit floatの高精度レンダリングが行われているので、音質も安心。

さらにこの機能、Pushでも使えます

ハードウェアだけで作業を完結させたい人にも、制作の自由度がぐっと広がるアップデートだと思います。

 

 

③ Expressive Chords ─ ワンノート入力で表現力のあるコード演奏

 

Max for Live製ですが、Live全エディションで使えるのが嬉しいExpressive Chords。MPE対応のコード生成デバイスですが、単なるプリセット再生にとどまりません。

 

ノートを一つ抑えるだけでコードが生成され、表現力の高いコードパッドとして活躍します。

注目ポイント:

  • 1ノート=コード展開:指一本でリッチなハーモニーが鳴る感覚は快感。PushやMPEキーボードとの相性抜群。

  • 自作コード進行もOK:MIDIクリップから自分だけのコードセットを簡単に取り込めます。

  • アーティキュレーション出力対応:コードを構成する各ノートにアーティキュレーション(表情)をつけてプレイ。MeldやSerumなどMPE対応音源に渡せば、一指でコードのニュアンスもコントロール可能。

これまで「コードパッド=機械的」と感じていた人にこそ試してほしいデバイスです。

押し方で響きが変わるコード演奏は、手グセ的に試しながら進行を作れるので、作曲ツールというより“演奏して探す楽器”に近い印象です。音楽的なひらめきが自然に生まれるのがいいですね。おしゃれなコードも鳴らせるのが嬉しいです。

 

 

 

④ Max for LiveがMax 9と完全同期 ─ 新世代オブジェクトに対応

これはMax for Liveユーザーにとって大きなニュースです。Ableton Live 12.2では、Max 9.0.5およびRNBO 1.3.4がバンドルされるようになり、Liveとの統合が一段と進化しました。

具体的には:

  • live.* 系の新しいUIオブジェクトが使用可能に

  • abl.deviceabl.dsp といった高機能な新オーディオ処理オブジェクトが追加

  • JavaScript Live APIの call()set() 関数に対応し、動的コントロールがしやすく

  • Max for LiveデバイスのUI設計と音声処理が大幅に近代化

 

⑤ Roarがさらに過激に

3ステージ構成のRoarが、Live 12.2で大幅強化。特にディレイ後段の再処理ルーティングDispersionフィルターの追加が大きな進化です。

  • Delayルーティングの柔軟化:Stage 1の歪み信号をそのままStage 2で再処理可能。スラップバックや単発ディストーションに最適。

  • Dispersionフィルター:周波数ごとに位相がずれる独特の歪みで、Color Bassなど近年のEDM系にも好相性

  • MIDIサイドチェイン:Noteモードで歪みのピッチをノートで制御。

  • 外部サイドチェイン + エンベロープ制御:キックや他トラックと連動したダイナミックな歪み表現が可能に。

→ 以前から強力だったRoarが、さらに“音を彫刻するツール”としての側面を強めています。

 

 

レゾネーター系デバイスがスケール&チューニング対応に

ResonatorsSpectral Resonatorが、Live 12.2からスケール認識(Scale Awareness)とチューニングシステム対応にアップデート。これにより、12平均律にとらわれない音階や、独自のスケールでの響きづくりが可能になります。

→ とくにSpectral Resonatorでは、音色そのものがスケールに沿って倍音展開するため、ミクロトーナルや実験的な音作りにも活躍しそうです。

 

⑦ オートメーションとモジュレーションの新しいキーボードショートカット

オートメーションのブレークポイント(=カーブ上の点)を追加するための新しいキーボードショートカットが多数導入されました。

他のDAWを使っている友人がサクサクとオートメーションを描いているのを見て「Liveもこうなればいいのに…」と思ったことがある方、その願いがようやく叶いました。

ショートカットはリリースノートに記載されています。

 

 

⑧ブラウザの改良 

  • タグシステムを再設計、サウンドプレビュータブからクイックタグを編集可能に。

  • ライブラリ内のラベルにカスタムアイコンを設定可能。

● デバイスのアップデート

  • Meld:ChordオシレーターとScrambler LFO FXを追加

  • Roar:フィルターとルーティングの新オプション

  • Resonators/Spectral Resonator:スケールアウェア機能に対応

  • Operator最大32ボイスに対応

 

●  Push 3のスタンドアロン機能も大幅強化

Push 3(スタンドアロン版)は、OSアップデートにより「Follow Actions」に対応

Follow Actionsとは、Liveのクリップランチャーでの再生を自動化する仕組みで、

  • クリップを順に再生

  • ランダム化

  • フィルやブレイクの自動挿入 などが可能です。

Pushはこのクリップ操作に特化したデバイスながら、これまでFollow Actionsをデバイス上で編集できないのは大きな欠点でした。今回のLive 12.2 + Push 2.2b9からは、ハードウェア上で直接設定・編集が可能になります。面白いアクション操作する人が増えてきそうな予感がします。

 

 

Live 12.2は“気が利くアップデート”が満載

今回のアップデートは、どれも派手さよりも実用性。結果として制作の流れも、音の探求も、前よりずっとスムーズに。

とくにAuto Filter、Bounce機能、Expressive Chordsあたりは、触ればすぐに実感できる変化だと思います。

次回のLive 12.3がどうなるかも楽しみにしつつ、今はこの12.2をじっくり使い倒していきたいですね。音作りのモチベーション、確実に上がります!

 

Ableton

Tagged with:
 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です