Elektron から、注目の新製品 「Tonverk(トーンヴェルク)」 が登場しました。これは同社初となる 16トラックのポリフォニック・マルチサンプラー で、かつての名機 Octatrack を超えるかのような機能を多数備えています。私はまだ実機に触れる機会がありませんが、リーク情報や YouTube レビュー動画、そして公式発表の内容を見る限り、その革新性というか、その本気度には大きな期待を抱かずにはいられません。
1. ポリフォニック・マルチサンプラーとしての大きな進化
Tonverk は、従来の Elektron サンプラーが苦手としていた マルチサンプル再生 に本格対応しました。これにより、外部楽器を音域全体・ベロシティ別にキャプチャし、ピアノやストリングスといったアコースティック系音源を忠実に再現することが可能になります。
また、各オーディオトラックがポリフォニック化されたことで、1トラックでコードを鳴らしつつ、残りの7トラックを自由に使えるのは大きな利点。さらに「サブトラック機能」により、1トラックの中に8つのサウンドをまとめて配置できるため、ドラムキットを1トラックで扱うといった効率的な使い方もできます。
プロジェクトRAMは 4GB を確保しており、数百に及ぶ大規模なマルチサンプルも余裕で扱える設計。ハードウェアサンプラーとしてはかなりパワフルな印象です。
2. 3種類のサンプラーマシン
Tonverk のコアには、Elektron デバイスでおなじみの 「マシン」 の仕組みが採用されています。今回は新たに3種類のサンプラーマシンが搭載され、さらに MIDI トラックも加わっています。
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Single Player
ポリフォニック対応のワンショットサンプラー。サンプルのロードや録音ができ、ループポイントの設定や、新しく追加されたクロスフェード機能でシームレスなループを実現できます。
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Multi-Player
マルチサンプラー機能。自作のマルチサンプルを読み込めるほか、新搭載の オートサンプラー を使って外部楽器を丸ごとキャプチャし、ポリフォニックな楽器音源に仕上げることが可能です。サードパーティ形式のマルチサンプル対応にも期待が高まります。
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Subtracks
1トラックを8つの「サブトラック」に分割して、それぞれに別のサンプルを割り当てられるモード。各サブトラックは同時発音可能で、フィルターやアンプエンベロープ、モジュレーションを個別に持っています。特にドラムキットを1トラックにまとめて扱うのに便利で、トラック数を効率的に活用できます。
この「3マシン構成」によって、Tonverk は ワンショット・マルチサンプル・ドラム/レイヤー の3タイプをカバーし、幅広いサンプリングワークフローに対応できるようになっています。
3. オートサンプラーとは?
Tonverk の大きな注目点のひとつが オートサンプラー機能 です。
これは、外部シンセやモジュラー、さらにはソフト音源を自動的にサンプリングして、マルチサンプル楽器をその場で作り上げてしまうというもの。
通常のマルチサンプリングは、キーごとに音を録音して切り分け、さらにマッピングを行うという非常に手間のかかる作業が必要ですが、オートサンプラーではそれを完全自動化できます。
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C1〜C6まで半音ごとに録音
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ベロシティ3段階でキャプチャ
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録音とトリミング、マッピングまで自動処理
といった作業を一気にこなし、すぐに Tonverk 上で演奏可能になります。
例えばお気に入りのアナログシンセの音色を丸ごとキャプチャしてポリフォニック化したり、モジュラーシステムで組んだ複雑な音色を保存して再利用したり、ソフト音源を USB 経由で録音してハード機材に持ち出したりと、活用方法は多岐にわたります。
まさに 「外部楽器を自分専用のサンプル音源に変換する機能」 と言えるでしょう。

4. サウンドデザインを拡張するエフェクトとルーティング
Tonverk のもう一つの進化は、シーケンス可能なエフェクトシステム です。
リバーブやディレイといったセンドエフェクトが独立したトラックとして扱えるようになり、さらにバス/インサートエフェクト、メインミックス用エフェクトスロットも追加。これらには LFOやモジュレーションエンベロープを適用でき、パラメーターロックも可能 です。
つまり、ディストーションをポリリズミックに変化させたり、リバーブをステップ単位でオートメーションしたりと、従来の Elektron 以上にダイナミックなサウンドデザインが可能になります。外部エフェクトとのルーティングも柔軟で、ハードウェアペダルやシンセとの連携もスムーズに行えるでしょう。
新エフェクトには、Rumsklang Reverb、Daisy Delay、Degrader、Chrono Pitch、Filterbank などが加わり、音作りの幅をさらに広げています。

5. シーケンサーの刷新
「Elektron といえばシーケンサー」と言われるほど、同社製品の象徴的な存在ですが、Tonverk ではそのシーケンサーも刷新されています。
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最大256ステップ、各トラック独立のシーケンサー
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ノートとパラメーターロックを分離できる シーケンスレーン
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フルオクターブの内蔵クロマチックキーによる直感的な演奏/編集
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マイクロタイミングと「トランスフォーム」機能によるリズムやノート配置の即時変形
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スケール対応のコードモード、拡張されたアルペジエーター
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MIDI シーケンスも強化され、外部機材の CC やエフェクトを同時にシーケンス可能
特に「ルーティング自体をパラメーターロックできる」という点は、Elektron 史上もっとも大胆な進化かもしれません。
6. コネクティビティと新プラットフォーム
背面にはデュアル USB-C、microSD スロット(内蔵メモリなし)、5ピン MIDI I/O、ステレオ入力、4系統アウト、ヘッドフォン端子を装備。USB-C は USBオーディオ対応 で、PCやタブレットとの連携も強力です。
さらに注目すべきは、Tonverk が Elektron の新しいプラットフォーム を採用したこと。DigitaktやDigitoneと似たようなデザインではありますが、横幅が広くなっているようです。同社は「最初の一台にすぎない」と示唆しており、今後 Analog Four や Rytm の後継機が登場する可能性もあります。
まとめ – まだ見ぬ可能性に期待
Tonverk は、現時点では ライブ・ルーピングやシンセエンジン、グラニュラーといった要素は未搭載 ですが、新プラットフォームの拡張性を考えれば、今後のアップデートで進化していく可能性は大いにあります。
Octatrack MKIII を求める声にはまだ完全に応えていないものの、ポリフォニー、マルチサンプル、強化されたエフェクトとシーケンサー を備えた Tonverk は、次世代のパフォーマンスサンプラーとして十分に注目に値します。
私自身、YouTubeレビューを見ていて「早く触ってみたい」と思わずにはいられませんでした。実機に触れる日が待ち遠しい一台です。
2025年9月18日から発送予定、通常価格¥264,900
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