Akai MPC Live 3 発表 ― 8コアCPU、クリップマトリクス、ステム分離、新開発3Dパッド搭載のスタンドアロン機


MPCシリーズ最新作 「MPC Live 3」 がついに登場しました。

MPC(Music Production Center)は1988年にAkaiが初代モデルを発売して以来、サンプラーとシーケンサーを融合させた独自のワークフローで「ビートメイカーの象徴」として親しまれてきました。90年代のヒップホップやR&B黄金期を支えた存在でもあり、その文化的イメージはいまも色濃く残っています。

その後PCベースのDAWが主流となり一時は影を潜めましたが、タッチスクリーン搭載やスタンドアロン化などを経て再び存在感を取り戻してきました。

そして今回の MPC Live 3 は、そうした進化の延長線上にありながら、「ラップトップなしで」音楽制作を完結できるハードウェアDAW と呼ぶにふさわしい完成度を備えています。

 


新プロセッサとシステム強化

最新モデル「MPC Live 3」は、これまでのスタンドアローン型の延長ではなく、まるでDAWを専用ハードに閉じ込めたような存在として登場しました。

まず大きなポイントは内部処理能力の飛躍的な強化です。Live 3には8コアの新CPU(パフォーマンスコア×4+効率コア×4)が採用され、前モデルでは8つまでしか同時起動できなかったソフトウェア音源が、最大32まで扱えるようになりました。オーディオトラック数も8から16へ倍増し、新しいタイムストレッチアルゴリズムやプロレベルのステム分離機能もスタンドアローンで動作します。

RAMは2GBから8GBへ、内部ストレージも128GBのNVMe SSDを搭載。サンプルやプロジェクトの読み込み時間が大幅に短縮され、ストレスのない制作環境を実現しています。


新開発の「MPCEパッド」

MPC Live 3最大の特徴といえるのが、新しく設計された 「MPCEパッド」 です。

従来のMPCパッドはベロシティとアフタータッチ程度しか扱えませんでしたが、MPCEパッドは 3次元の入力検出(X軸/Y軸/圧力) に対応。これにより、単に叩くだけでなく「なぞる」「押し込む」といった操作でも音をコントロールできるようになりました。

例えば、

  • 指を上下(Y軸)に動かしてフィルターを開閉

  • 左右(X軸)でサンプルをクロスフェード

  • 圧力でLFOの深さを変える

といったパフォーマンスが可能になります。

さらにパッドごとに 32スロットのモジュレーション・マトリクス を持ち、任意のパラメータに自由に割り当て可能。リアルタイムの音作りが格段に表現豊かになっています。

もうひとつユニークなのは、1つのパッドを4象限に分割し、それぞれに異なるサンプルを割り当てられることです。16パッドで最大64サウンドを扱える計算になり、ドラム演奏では1つのパッドにゴーストノートやロール、ルーディメントを仕込んでおくような使い方ができます。


ステップシーケンサーとオートメーション

本体上部の16個のボタンは、見た目はクラシックなステップシーケンサーですが、実際には複数のサブモードを持っています。ドラム入力だけでなく、確率やラチェット、ピッチチューニング、エンベロープの編集まで可能。さらに各ステップごとにエフェクトやパラメータのオートメーションを書き込めるため、まるでElektronのパラメータロック的な操作感が得られます。

ハイハットにランダムなピッチを加えたり、特定のステップだけにリバーブを投げたりといった作業が、驚くほど直感的かつ高速に行えます。


クリップローンチとアレンジ

Ableton Liveに慣れたユーザーには朗報です。Live 3にはクリップローンチ機能が搭載され、複数のアイデアをシーンとして並べ、即興的に切り替えながら楽曲を構築できます。作ったパフォーマンスはそのままアレンジメントに録音されるため、ライブと制作の垣根がさらに低くなりました。

行ごとにテンポやフォローアクションを設定できる点も特徴的で、ハードだけでライブセットを完結できる強力な仕組みです。


Q-Link Pad Gridとライブ演奏

新たに加わった「Q-Link Pad Grid」は、16ボタン×4ページ=64のアサイン可能ボタンを備えます。各ボタンには複数のパラメータを重ねて割り当て可能で、ライブ中にリバーブをオンにしつつキックをミュートし、さらにEQを切り替えるといった動作をワンタッチで行えます。これにより、MPCは本格的なライブ・パフォーマンス機としての側面を強めました。


タッチストリップの多機能化

タッチストリップはピッチベンドやモジュレーションホイールの代用だけでなく、ステップシーケンサーでのベロシティ調整、クロスフェード、サスティンペダル的表現など多彩に利用可能。さらに「Q-Linkモード」により、最後に触ったパラメータを即座に割り当てられるため、素早いオートメーション操作も行えます。


オーディオ入出力とUSB-C

大きな進化点のひとつがUSB-Cクラスコンプライアント対応です。これにより、24チャンネルのオーディオ入出力と32チャンネルのMIDIが双方向で扱えるようになりました。スマホやPCを接続してサンプルを取り込んだり、DAWで立ち上げたVST音源をMPCからシーケンスしてオーディオを戻したりと、スタジオでもライブでも柔軟に使えます。

内蔵マイクの搭載

Live 3には本体前面に小型コンデンサーマイクが新たに内蔵されました。

スタジオ品質というよりは「アイデアスケッチ用」の位置付けですが、思いついたフレーズや環境音をすぐに録音できるのは大きな利点です。ラップトップや外部機材を立ち上げる前にひらめきを残せるのは、実際の制作フローで重宝しそうです。テーブルを叩いたり、鼻歌を歌ったりするのもOKですね。


CV/Gateと新プラグイン

モジュラーシンセ愛好家に向けて、8系統のCV/Gate出力も強化されました。4つのエンベロープやLFO、ステッパー、クロックディバイダーを備えた柔軟なモジュレーション環境を提供し、ハードとソフトを自在にブリッジします。

また、新たに「Pro Reverb」や「Visual EQ」「Utilityプラグイン」が追加され、MPC単体でのミキシング精度も大幅に向上。低域のモノラル化、フェーズ反転、ゲイン調整といった基本機能がようやく揃いました。


筆者の所感

MPCの復活からおよそ10年。

PCと接続するハイブリッド型から始まり、タッチスクリーンの導入、スタンドアローン化を経て、ついに 「ハードウェアDAW」 と呼べるレベルに到達したのがMPC Live 3だと思います。

これまで何度も「MPCは終わった」と言われ、そのたびに過去の遺産として片付けられそうになりながらも、MPCは常に新しい姿でよみがえってきました。その粘り強さと進化の幅広さには敬服せざるを得ません。正直、ここまで本格的に「ラップトップなしで完結する」方向に進化するとは想像していませんでした。

特に気になるのは新しい MPCEパッド。単なる入力装置ではなく、もはや「パッド型の新しい楽器」と言ってもいいほどの表現力を持っています。指先の動きで音を揺らし、なぞるだけでフレーズにニュアンスを加える――従来のMPCパッドとはまったく別物の体験です。

ちょっと「複雑すぎる」と感じる人もいるでしょう。ですが、MPCが「ただのサンプラー」から「ハードウェアDAW」にまで進化した事実は大きく、このLive 3の登場がシーンに新しい議論を呼び起こすことは間違いありません。


人々の反応

今回の発表に対するユーザーの声は実に熱狂的でした。SNSには「Push 3がかすむ」「Elektronが終わった」といった強気のコメントが並び、予約購入を表明する人も少なくありません。特に新開発のパッドクリップローンチUSB-Cでの24chオーディオ出力などは大きな喝采を浴びています。

一方で、懸念の声も無視できません。「デザインがごちゃついている」「MPCらしさを失った」「バッテリーが短くなった」といった意見や、Live 2ユーザーから「急に型落ち感を突きつけられた」という不満も聞こえます。また、機能過多ゆえに「本当に使いこなせるのか」という冷静な指摘もあります。

つまりMPC Live 3は、圧倒的な革新と、それに伴う迷いや戸惑いを同時に呼び起こした存在なのです。だがその議論こそが、このマシンがシーンに大きなインパクトを与えた証拠でもあります。


まとめ

MPC Live 3は単なる新モデルではなく、MPCというフォーマットの到達点とも言えるマシンです。

「これ一台でスタジオを持ち歩ける」──そう言いたくなるほどの多機能ぶりに賛否はありますが、確実に音楽制作の可能性を広げる存在であることは間違いありません。

 

価格¥268,000(税込)

AKAI

 


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