KORGが2004年から続けているソフトウェア・バンドル・シリーズ「KORG Collection」は、
過去に発売された同社の名機をパソコン上で忠実に再現したプラグイン集です。
MS-20やPolysix、M1など、シンセ史に残るハードウェアを
KORG自身がエミュレーションしてきたことで知られています。
つまりこれは、KORGが自ら手掛ける“自社ヒストリーの再構築”とも言えるシリーズです。
そして今回の最新バージョン「KORG Collection 6」では、
3つの重要なサウンド:1977年のアナログ・ポリシンセ「PS-3300」、1995年のワークステーション「Trinity」、
そしてフラッグシップ・ピアノ音源「SGX-2」が加わりました。
この3機種の追加により収録プラグインは合計20種類になりました。
Collection 6に収録されているシンセ
-
MS‑20
-
Polysix
-
Mono/Poly
-
M1
-
WAVESTATION
-
RITON(および TRITON Extreme)
-
microKORG
-
Prophecy
-
miniKORG 700S
-
ARP 2600
-
ARP Odyssey
-
VOX Super Continental
-
EP‑1
-
KORG KAOSS PAD
-
ELECTRIBE‑R
- PS-3300
-
Trinity
-
SGX-2
ラインナップには、シンセ14種、ピアノ2種、オルガン1種、ドラムマシン1種、そしてエフェクト2種が揃っています。
ArturiaのV Collectionのように世界の様々なシンセをモデルにしたバンドルではなく、KorgのCollectionはあくまでKORG自身の歩みを総括する構成です。
PS-3300:1977年の不思議な響き

KORG PS-3300は、1977年に登場した伝説のアナログ・ポリシンセです。
世界で50台ほどしか製造されなかったと言われるこのマシンは、MS-20のような直感的さとは別の方向で、音響設計的な深さと構造的な美しさを持っていました。
数年前には、KORGがこの名機*完全再現したハードウェア版「PS-3300 FS」として復活させ、大きな話題を呼びました。
今回発売されたこのソフト版ではその流れを受け継ぎ、より多くのユーザーがこの伝説的サウンドに触れられる形で登場したものです。
オリジナル構造を忠実に再現しつつ、
180ボイス・ポリフォニー(60 × 3 モジュール)という現代的なスケールに拡張。
さらにKORG独自の CMT(Component Modeling Technology) により、
各ボイス間にわずかな回路差を持たせ、
ハードウェア特有の“揺らぎ”や“有機的な不安定さ”を再現しています。
3つの独立モジュールを備える構成はそのままで、
それぞれがオシレーター、フィルター、アンプ、レゾネーターなどを独立して持ちます。
つまり、3台のシンセを同時に鳴らすような感覚で、
レイヤー構成や分厚いポリフォニーを組み立てることができます。
その反面、内部で膨大な回路モデリングが走るためCPU負荷はやや高めです。
特にモジュールを重ねたレイヤー構成では、環境によっては処理率が一気に上がることもあります。
ただ、それに見合うだけの“生々しい音の存在感”があるのです。
金属的な響きを生む「3バンド・レゾネーター」
PS-3300の象徴が、この3バンド・レゾネーターです。
単なるEQではなく、特定の帯域を“共鳴”させることで、
金属的な響きやフォルマント的な質感を作り出します。
ノイズやソウ波に軽くかけるだけで、
ベルのような透明感や声のようなモーションが生まれます。
微分音で揺らぐ独自の調律システム
もうひとつ特徴的なのが、Temperament(テンパラメント)機能です。
各オシレーターを個別にチューニングできるため、
12平均律からわずかにずらしたスケールや微分音構成が作れます。
モジュールごとに異なるピッチ設定を行うと、
コードを弾いたときに音が“かすかにずれて”重なり、
アナログテープのような厚みと奥行きが生まれます。
こういった77年の“ちょっと変わった”感じが、2025年の文脈でむしろ新鮮に響くのが面白いです。
ちなみにこのPS-3300のハードウェアバージョンは、2025年のステージにもさっそく登場しています。
小室哲哉さんと浅倉大介さんがユニットPANDORAとして行ったライブ「OPEN THE BOX」で、
2台の復刻版PS-3300を実際に使用。
浅倉さんは“抜けの良さ”を、小室さんは“混ざっても埋もれない音”を高く評価しています。
コルグによるインタビュー記事はこちら

Trinity:90年代ワークステーションの再構築

1995年に登場したKORGのワークステーション・シンセ Trinity が、
30周年を記念してソフトウェアとして蘇りました。
Trinityは、当時のPCMベース・サウンドとリッチなエフェクト処理で人気を博したモデルです。
ソフト版でもその構造を忠実に再現しており、
2オシレーター構成(各OSCに2つのPCM波形)+ドラムキットという音源設計をベースに、
フィルター → アンプ → マルチFXという流れで処理されます。
8パート・マルチティンバー仕様、
8つのインサート・エフェクト+2つのマスター・エフェクトという当時の構成も再現。
さらに現代的なポリフォニーやCPU最適化が施され、より安定した制作環境になっています。
音色面では、オリジナルのサンプルライブラリに加えて
MEGA PIANOS、ORCHESTRAL ELEMENTS、DANCE WAVES & DRUMS、M1 FACTORY
といった拡張音源も含まれており、
合計で2000以上のプログラム/コンビネーションを収録しています。
UIも一新され、ブラウズ画面での音色検索がより直感的に。
バンクやカテゴリーでの絞り込み、プレビュー再生も快適です。
一方で、ハードウェア版に存在した“Prophecy/Z1拡張ボード”の仮想インストール機能は非対応。
物理モデリング系を期待していたファンには少し残念な点かもしれません。
それでも、Trinityの持つ90年代的な透明感と広がりは見事に再現されており、
シネマティックなパッド、煌びやかなベル、硬質なデジタルピアノなど、
当時のサウンドを今のDAW環境で即座に再構築できます。
SGX-2:KRONOS直系のピアノ音源
SGX-2は、KORGのフラッグシップ・ワークステーションKRONOSなどに搭載されている
高品位なピアノ音源エンジンです。
イタリア製・ドイツ製・日本製のグランドピアノを
88鍵すべてステレオ収録(ループなし)で再現。
ダンパー共鳴や弦の共鳴、機械ノイズのコントロールなど、
アコースティック・ピアノ特有の細やかなディテールも再現されています。
制作でもライブでも、安心して“使えるピアノ”として完成度が高く、
既にKRONOSで慣れ親しんだユーザーにも嬉しい独立化です。
まとめ:
今回のKORG Collection 6は、単なる懐古的なパッケージではなく、
KORGが持つ豊かな過去資産を今の音楽制作で本当に使えるかたちへと再構築した試みです。
特にPS-3300のような極めてレアなアナログ機を、現代的な拡張を加えながらソフト化した点は印象的です。
TrinityやSGX-2もまた、異なる層に響く存在です。
90年代PCMの記憶を呼び起こしたいクリエイター、あるいはリアルなピアノタッチを求める演奏派——
それぞれにあの頃の音をいまの文脈で使いこなす手段を提供しています。
一方で、MS-20やPolysixといった既存プラグインは、初めてリリースされた2004年から際立ったアップデートが行われていません。
次回バージョンアップでの大刷新に期待したいところです。
もちろん、まだまだ再現してもらいたいシンセもたくさんありますよね。DW-8000(シンセ)とか、SDD-3000(デジタルディレイ)とか、私なら飛びつきます。




コメントを残す