Roland が発表した TR-1000 Rhythm Creator は、同社にとって実に40年以上ぶりとなるアナログ回路を搭載したドラムマシンです。これまで Roland はデジタル技術やクラウドを中心に展開してきましたが、このモデルはクラシック TR-808 / TR-909 の復活を思わせる 16の物理アナログ回路 を内蔵し、往年のファンにとっても大きなニュースとなっています。
Roland TR-1000とは?40年ぶりのアナログ回路搭載ドラムマシン
TR-1000の最大のトピックは、808/909をベースにしたアナログ回路が40年ぶりに搭載されたことです。
キックやスネアといったクラシックな音色を物理回路から直接鳴らせる──これは、デジタルでは代替できない質感と説得力を持っています。
さらに、チューニングやディケイのレンジが拡張され、従来の808/909以上に柔軟なサウンドデザインが可能になりました。
マスター段には ステレオ・アナログSVFフィルター(RolandヴィンテージOTA回路ベース) と アナログドライブ も搭載。
全体を太くまとめたり荒々しく歪ませたりと、ハードウェアならではの厚みを加えられるのも魅力です。
デジタル音源と「サーキットベント・モデル」
アナログ回路に加えて、Roland独自の ACB(Analog Circuit Behavior)技術 も搭載されています。
これはアナログではカバーできない領域を補う存在で、TR-8Sで培われたデジタル音源を継承しています。
特に注目すべきは、サーキットベントが施された21種類の8x/9xモデル。
通常の808/909モデリングよりも極端なパラメータが用意され、オリジナルでは不可能な“改造TR”のようなサウンドを作り出せます。
サンプラー機能:64GBストレージと非破壊スライス
TR-1000は本格的なサンプラーを搭載しています。
-
内蔵64GBストレージ(うち約46GBがユーザー領域)
-
WAV/AIFF/MP3インポート
-
外部入力からのサンプリング、内部リサンプリング
-
最大16分の長尺サンプル対応
-
タイムストレッチ、ピッチシフト、非破壊スライシング
従来のTRシリーズにはなかった、サンプル主体のビートメイクが可能です。
シーケンサーの進化:サイクルやマイクロタイミング、パラメーターロック的機能
シーケンサーはTR伝統のステップ入力をベースにしながら、より柔軟な表現力を獲得しています。
-
ノンクオンタイズ録音
-
マイクロタイミング調整
-
サイクル機能(例: 3回に1回だけ鳴らす、といった制御が可能)
-
再生方向の切替(前進/逆再生/ピンポン/ランダム)
-
モーションレコードとステップごとのパラメータ固定(レビューにて確認)
この「モーションレコード+ステップごとの値固定」は、Elektronマシンでおなじみのパラメーターロックに近い挙動を実現します。
ただしRoland公式は「パラメーターロック」という表現は使わず、「モーションレコード」「ステップごとのパラメータ固定」と説明しています。
モーフスライダー:ライブでの表現力を広げるマクロ
TR-1000のフロントで目を引くのが「モーフスライダー」です。
これは単なるフェーダーではなく、複数のパラメーターを同時に割り当てて、最大16種類のモーフ状態 を保存し、演奏中にシームレスに移行できます。
例えば、フィルターを開きながらリバーブを深くし、さらにスネアのトーンを変える──こうした複数の操作を一度に行えるため、DJ的な展開づくりやライブパフォーマンスに強力な武器となります。
Roland TR-1000の価格・サイズ・スペックまとめ
-
価格:33万円 地域によって変動、ユーロ、北米の価格に比べると日本での価格が割安!
-
重量:5.5kg
-
トラック数:10(うち4トラックはレイヤー対応)
-
内蔵音源:アナログ、ACB、サーキットベント・モデル、FM、PCM
-
サンプル容量:64GB(ユーザー領域46GB)
-
接続:ステレオアウト、個別アウト、MIDI、USBオーディオ、CV/トリガー入出力
良い点と懸念点(レビューから見えてきた評価)
良い点
-
アナログ回路の復活(40年ぶり、山が動いた!)
-
サーキットベント・モデルによる拡張音源
-
大容量サンプラーと非破壊編集
-
マスター段階のアナログフィルター&ドライブ
懸念点
-
モーフスライダーの動き自体はシーケンサーに記録できない
-
パッドはベロシティ非対応
16パッドはステップ入力やサンプル再生、スナップショット呼び出しなどに活用できますが、現行ファームウェアではクロマティック入力モードは用意されていません。レビューによれば、スナップショットにピッチを割り当てて簡易的に音階を演奏する方法は可能ですが、専用のクロマティックモードが追加されることが望まれます。
-
高品質タイムストレッチは1パターン内で2回まで
サンプラー機能には複数のタイムストレッチモードが用意されており、ループをテンポに合わせて自然に伸縮させることができます。特に「Ensemble」モードはボーカルやメロディを含む素材でも破綻しにくい高品質なアルゴリズムですが、その分負荷が大きく、1パターンにつき2トラックまでという制限があります。
-
価格と重量は高め
フォーラムでは「この価格は思っていたより高い」「2100〜2200ユーロくらいなら納得できるラインだった」といった批判的な声もある一方で、「安くはないが、中古の TR-808 / 909 を買うコストと比べれば、むしろ割安な選択肢にもなる」とする見方も。 重さはTR-8Sの倍以上。
- 開発者自身が「TR-1000を使いこなすには2年かかる」と語っており、学習コストの高さもポイントです。
基本的なビートやキットの読み込みはすぐに楽しめそうですが、サンプルのスライスやサイクル・トリガー、モーションレコード、モーフスライダーなど、現代的な機能を組み合わせて自在に操るには相応の時間が必要になりそうです。
逆にいえば、時間をかけて探索するほど新しい発見がある深い設計であり、「即戦力で鳴らせる一方で、長期的に使い込む楽しさも備えている」という二面性を持つのがTR-1000の特徴といえるでしょう。
まとめ:アナログドラムマシンの真打登場
TR-1000は、復刻ではなく“進化”を体現したドラムマシンです。
アナログの厚み、サーキットベント・モデルの大胆さ、本格的なサンプル機能。
良い点も悪い点も含めて、RolandがTRという名前に再び重みを与えたことは間違いありません。
まだ実機を触っていない私にとっても、このマシンがどんな音楽を生み出していくのかを想像するだけでワクワクします。
やはりこれは、アナログドラムマシンの真打登場 と呼ぶにふさわしい一台です。
コメントを残す