Ewan Bristow(CRQL)からUZU──という名前のプラグインが、登場しました。
日本語で言うとこの「渦」なのでしょうか?
開発者はこれを“rubbery spectral smearing phaser”と呼んでいます。
直訳すれば「ゴムのように伸びる」「スペクトルをにじませる」フェイザー。
時間の揺れではなく、周波数そのものが動いて変形していくタイプのエフェクトだと解説されています。
もとになっているのは、Image-Line(FL Studio)社のシンセサイザー「Harmor」に搭載されていたフェイザー機能です。
Harmorのフェイザーは、一般的なアナログ式ではなく、音を一度スペクトル(周波数の分布)に分解して処理するという、特殊な手法をとっていました。
Ewan Bristowは、一部のサウンドデザイナーやDSP開発者の間では“隠れた名機能”として知られていたこの“スペクトル処理型フェイザー”の発想を掘り起こして、
より自由で実験的な方向へと拡張し、このUZUを誕生させました。
音が溶け、うねる
触ってみると、音が「シュワシュワ回る」いわゆるフェイザーとはまったく違います。というより、霧の中で形を変えながら流れていくような印象です。
ベースやドラムのアタックが柔らかく溶け、パッドやアンビエント素材には独特の浮遊感が加わります。
特に面白いのは、Ableton Live や Bitwig などで
LFOやモジュレーターを使ってパラメーターを動かしたときです。
「Speed」や「Blur」にゆるやかなLFOをかけると、リズムが液体のようにうねり、
「Depth」をオートメーションすれば、拍の裏でスペクトルがざわめくように変化します。
リバーブでもディレイでもなく、「時間のずれ」ではなく「色(周波数)のにじみ」で揺れる。
言葉で音を語るのは難しい、、、でもそんな、新しいタイプのフェイジングを体験できるプラグインです。
ノッチが8192もあるという異常さ
フェイザーというエフェクトは、もともと音の中に“くぼみ”を作って揺らすものです。
その“くぼみ”を生み出す仕組みが「ノッチ(notch)」と呼ばれています。
たとえば、アナログのフェイザーなら、信号の一部にわずかな遅れを加えて位相をずらし、
特定の周波数を打ち消すことで、独特の“うねり”や“回転感”を作り出します。
一般的なフェイザーでは、このノッチの数はせいぜい4〜12程度です。
しかし、UZUはなんと8192ノッチ。
つまり、音を8,000以上の細かい帯域に分け、それぞれを個別に動かしています。
その結果、音の輪郭がとけて、まるで液体のようにうねりながら変形していくのです。
音と人がつながる場所
Ewan Bristowは、大手メーカーに所属しないインディー・デベロッパーです。
「CRQL」名義でLOCDなどのプラグインを発表し、
学生として学びながらユーザーと直接つながり、実験的な開発を続けています。
彼の作品をめぐっては、YouTube上でも活発なやり取りが行われており、
Virtual Riotのようなトッププロから学生やDIY制作者までが開発者本人を交えて意見を交わし、
時にはDSPの仕組みまで議論が及んでいるようです。
かつては専門誌やフォーラムで行われていたような交流が、
いまはYouTubeのコメント欄でリアルタイムに展開されている。
その近さこそが、現代の音楽制作文化を象徴しているように思います。
UZU価格は £13(約17ドル/15ユーロ)。
それでもmacOS / Windows / Linuxに対応し、
小規模ながらも開かれたものづくりの姿勢が感じられます。
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