Endorphin.esから、ピンクの筐体がひときわ目を引くグラニュラーシンセ Evil Pet が発売されました。
シンセサイザーであり、ペダルであり、ちょっとしたサンプラーでもあるという、なんとも不思議な存在です。
Evil Pet(邪悪なペット)というネーミングもとてもキャッチー。
まず試したのはFMラジオ入力。
本体裏側に専用のアンテナをつないでチューニングすると、砂嵐のようなノイズの中に、どこかの放送や音楽の断片が混じって聞こえてきます。
その何でもない音をそのままグラニュラーに通し、リバーブを少し上げただけで、空間がぐわっと広がりました。
ノイズが風景に変わり、音がまるで空気を揺らすように広がっていく――
他のシンセやドラムマシンを初めて触ったときの感覚とは、まったく違う種類の驚きがありました。

Evil Petは、ギターやボイスを直接録音してその場で“グレイン化”して遊べるほか、MIDIキーボードをつなげば8音ポリのシンセとして演奏も可能です。
シフトボタンの下にはさりげなくSDカードのスロットがついていて、ここを使えばサンプルのロードが簡単になります。
さらにFMラジオまで内蔵していて、「録る」「変える」「弾く」をすべてこの小さな箱で完結させることができます。
身近な環境音や思いついた音をその場で捕まえて、すぐに別の形にしてしまう――そんな自由さが魅力です。
そして印象に残ったのが、手触り。
Play、Shift、Recordなどのメインボタンは、まるで旧式のパソコンキーボードのようなカチッとしたクリック感があり、押すたびに気持ちのよい反応を返してくれます。
ボディの金属部分にも程よい重量感があり、90年代のSF映画に出てくる機材のような雰囲気。
この物理的な“押し心地”が、デジタル楽器であるはずのEvil Petに、不思議な生命感を与えている気がしました。
ノブを回すと、音が生き物のように動き出します。
グレインのサイズや位置を変えるたびに、音が前後左右に泳ぎ、逆再生し、空間の中で散らばっていく。
どこまでが自分の意図で、どこからが偶然なのか分からなくなる瞬間があって――でもそれが楽しいのです。
Evil Petは「音を作る」というより、「音とじゃれ合う」ための楽器だと思います。
小さなボディには、Endorphin.esらしい遊び心がぎゅっと詰まっています。
ノブのLEDは赤と青に切り替わり、今どのパラメータを操作しているのかが一目で分かります。
ディスプレイにはグレインが左右に動く様子がリアルタイムで表示され、音の流れを“見る”楽しさもある。
表示も複雑すぎず、音と視覚がちょうどいいバランスでつながっている印象です。

音の方向性としては、整ったサウンドデザインというより、混沌とした音遊びが似合うタイプ。
ノイズや環境音を入れると、音が溶けて再構築されるような不思議な質感になります。
コントロール次第で、幻想的なパッドにも、荒々しいノイズにも化ける。
一筋縄ではいかないけれど、確かに“生きている”と感じるサウンドです。
Evil Petという名前、最初は冗談みたいに聞こえたけれど、今は少し納得しています。
音が暴れたり、思わぬ方向に飛び出したり、それでも憎めない。
触れば触るほど懐いてくるようで、気づくともう手放せなくなっている――まるで“邪悪なペット”のよう。
少しだけ現実的な話をすると、USBポートやUSBオーディオ機能は非搭載。
また、最大100というグレイン数は、競合製品に比べるとポリフォニック演奏時にはやや少なく感じることもあります。
それでも、この小さな箱が生み出す“偶然の美しさ”は、そんな制限をすぐに忘れさせてくれるほど魅力的でした。


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