定番じゃ物足りない!個性派ドラムマシンプラグイン8選【2025】


近年、ドラムマシンの世界がちょっと面白くなっています。

「ビートを打ち込むツール」から、「音を生成し、探し、育てるための楽器」へ。

シンセサイズによるドラム音源や、AI的なアルゴリズムを取り入れたプラグインが次々と登場しています。

ここでは、そんな“いまの空気”を感じさせる個性派ドラムマシンプラグインを8つ紹介します。

実験的なものから、懐かしいローファイ系まで。どれも一筋縄ではいかない魅力を持っています。

 

最近のドラムプラグイントレンドを振り返ってみる

ここ数年のドラムプラグインを見ていると、

「パターンを打ち込む道具」から「音やリズムを探し出すツール」へと進化しているのを感じます。

たとえば Baby Audioの Tekno や Unfiltered Audioの Battalion のように、

もはやサンプルを並べるだけではなく、音そのものをリアルタイムで生成していくタイプが増えています。

EQで整えるよりも“音を生む”方が早い──そんな感覚が普通になりつつあります。

一方で、XLN Audio XO のような「サンプルを視覚化して探す」系も人気です。

ハードディスクの中に埋もれたキックやスネアを、まるで星座のようにマッピングして“音で選ぶ”という発想。

これによって、音探しそのものが制作の一部になる時代になりました。

Fors Opal や Sugar Bytes DrumComputer のように、

ビートが確率やアルゴリズムで揺らぎ続ける仕組みもトレンドです。

同じ8ステップでも毎回違うニュアンスが生まれ、静的なリズムから動的なリズムへと進化しています。

さらに、サンプルと合成の境界をなくすハイブリッド設計も増えています。

Battalionのように「サンプル+シンセを同時に扱う」スタイルは、

いわば**ドラムサウンドそのものを“演奏する”**という感覚に近いものです。

そんな中で、AudioThing SR-88 のようなローファイ機種も静かな人気を保っています。

AI的な“生成”の真逆にある、耳を休ませるための人間味──。

そのバランス感覚こそ、今のビートメイカーに必要なものなのかもしれません。

 

Baby Audio – Tekno サーキットベンディング系ドラムジェネレーター

 

Baby Audioはロサンゼルスを拠点とするプラグインメーカーです。Teknoは、同社が開発した完全な“ドラムシンセ”であり、サンプルを一切使わずに音を生成します。内部には18種類のドラム・エンジンが搭載されており、それぞれがアナログ回路モデリングと独自DSPによって動作しています。

このプラグインは、単なるリズム音源ではなく、いわばサーキット・ベンディング(回路改造)を模倣したサウンドデザイン環境のような存在です。各エンジンやエフェクトには“隠れた調整層”があり、ギアアイコンをクリックすると音の生成過程そのものにアクセスできます。ノブを少し動かすだけで、リズムが歪み、空間がざらつき、偶然性を伴ったグルーヴが立ち上がります。

Teknoにはシーケンサーは搭載されていません。そのため、リズムパターンの構築はDAW上で行う必要がありますが、その分、音の純度と反応性が際立っています。90年代レイヴやハードテクノの荒々しさを参照しながらも、単なる懐古ではなく、現代的なデジタル回路の自由度を前面に押し出しています。音を“選ぶ”のではなく“設計する”。その過程を短時間で実現できるのが、このプラグイン最大の魅力です。

通常価格:$129 ただいまセール中:$69

Fors – Opal (max 4 live専用)  元Elektron開発者が手がけた、有機的なリズムを“育てる”シンセ

 

Opalは、5つの独立したドラムモジュールで構成されたリズムマシン兼ドラムシンセサイザーです。各トラックには専用の音源エンジンとシーケンサーが用意されており、FM合成、モーダルシンセシス、グラニュラー処理、ノイズ生成など、異なる種類の音源をひとつの環境で扱うことができます。

開発を手がけたのは、スウェーデン・マルメを拠点とするデベロッパー、Ess Mattisson氏。かつてElektronでDigitoneなどの開発に携わっていた人物として知られています。彼の設計哲学はOpal全体に息づいており、滑らかなUIの動きや、時間とともに音が変化していく構造には、Elektron時代に培われた“リズムを設計する”という思想が感じられます。

シーケンサーは柔軟で、確率設定やステップごとのパラメータロック、ラチェッティング、マイクロタイミングに対応しています。さらに各トラックにはランダマイズ機能が組み込まれており、パラメーターがわずかに揺らぐことで、演奏のたびに異なるリズムや質感が生まれます。機械的な精度の中に、自然な不安定さを取り込むこのバランス感覚が、Opalらしさを形づくっています。

リズムを「打ち込む」というより、「育てていく」ような感覚を与えてくれるプラグインです。FMや加算合成による有機的な響きと、リアルタイムに変化するアニメーションUIが一体となり、音そのものの変化を“演奏”として体験できます。テクノやIDM、アンビエントなど、構造の中に揺らぎを求める音楽によく合います。

価格:$59

Fors

 

Olympia Noise Co. – Patterning 3 (iOSアプリ)  円形UIが象徴する、iPad発の直感的ドラムシーケンサー

 

Patterning 3は、アメリカのOlympia Noise Co.が開発したドラムマシンアプリです。独自の円形インターフェースが特徴で、ステップシーケンサーを“リング状”に配置し、リズムを視覚的に構築することができます。各トラックはそれぞれ異なる長さや回転速度を持ち、自然なポリリズムや複雑なグルーヴを直感的に作り出せます。

最大8トラックのシーケンサーでは、各ステップごとにピッチ、フィルター、パン、ボリュームなどを個別に設定できます。オートメーションもスムーズで、音の変化を描くように操作できる点が魅力です。内蔵ミキサーにはリバーブやディレイなどのエフェクトが搭載されており、アプリ内だけで完結したビート制作が可能です。

最新バージョンでは AUv3(Audio Unit v3)に正式対応。iPad上だけでなく、Apple Silicon搭載のMacでもネイティブ動作し、macOS上のLogic Proなどで同じAUv3プラグインとして使用できます。

マルチチャンネル出力やMIDIサポートも実装され、iOS上の他アプリやハードウェアとの連携も柔軟です。

円形のUIでビートを組むという発想は、一般的なステップシーケンサーとはまったく異なります。タッチ操作でリズムが“回転していく”感覚は、まるで楽器を演奏しているような没入感があります。PatterningシリーズはApple Design Awardを受賞しており、その完成度とデザイン性はモバイル音楽アプリの中でも群を抜いています。

価格は ¥2,500前後(App Store)

Patterning 3

 

Sonic Charge – Microtonic   PO-32とも連携する、名作ドラムシンセの進化形

 

Microtonic(ミュー・トニック)は、スウェーデンのSonic Chargeが開発した8ボイスのドラムシンセサイザーです。2003年のリリース以来、いまも現役で使われ続けているロングセラーで、サンプルを一切使わず、すべての音をリアルタイムに合成します。シンプルな構造ながら、電子的なドラムに必要な要素が非常にバランスよくまとまっています。

各チャンネルは独立したシンセエンジンを持ち、ノイズ、オシレーター、エンベロープ、ディストーションなどを組み合わせて音を生成します。この“合成によるドラム”は、808系のエミュレーションとは異なる独自の粒立ちと明瞭さを持ち、テクノやIDM、チップチューンなどの電子的サウンドに特に適しています。

内蔵シーケンサーはコンパクトながら高機能で、パターンの保存やMIDI出力にも対応しています。DAWと同期して使用できるほか、Sonic Chargeが運営するウェブサービス「Patternarium」と連携し、ユーザーの投票データをもとに進化的アルゴリズムで生成されたドラムパターンをブラウザから直接読み込むこともできます。これにより、毎回まったく異なるリズムを発見することができます。

さらにMicrotonicは、Teenage Engineeringと共同開発されたポケットオペレーター PO-32 Tonic とも連携します。音色やパターンデータをオーディオ信号として相互に転送できる「サウンド/パターントランスファー機能」を備えており、PC上で作成したMicrotonicのビートをそのままPO-32に移し、ハードウェア単体で再生することが可能です。この連携は、ソフトとハードをまたいで同じドラムエンジンを共有できる点で非常にユニークです。

Microtonicは軽量で安定性が高く、古い環境でも快適に動作します。サウンドデザインとパターンメイキングの両方を兼ね備えた“合成ドラムの定番”ともいえる存在です。価格は $99(約15,000円)。20年以上の歴史を持ちながら、いまだ進化を続けるクラシックです。3週間の無償トライアルあり。

Sonic Charge

 

Unfiltered Audio – Battalion  合成×サンプルを自在に行き来する、生成系ドラムマシン

 

Battalionは、Unfiltered Audioが開発した次世代のドラムマシンプラグインです。8つのドラムボイスを備え、それぞれのボイスでサンプル再生とシンセサイズを自在に切り替え・組み合わせることができます。つまり、サンプルの質感と合成音の柔軟さを同時に活かしたハイブリッドな音作りが可能です。

シンセエンジンは非常に多彩で、FM、加算合成、モーダル、VOSIMなど、20種類以上のドラム専用アルゴリズムを搭載。電子的なキックやスネアだけでなく、金属的な共鳴音や有機的なノイズまで、幅広い音響を生成できます。サンプル再生モードでは、内蔵の1,000種類以上の高品質サンプルをベースに、フィルター、エンベロープ、ピッチ、エフェクトを自在に加工可能です。

各ボイスには8系統のモジュレーションソースを設定でき、LFOやエンベロープ、ランダマイズを使って複雑な動きを作り出せます。さらに「Variation Engine」によって、1つのパターン内で微妙な強弱やタイミングの揺らぎを自動的に生成し、人間的なニュアンスを加えることもできます。

内蔵シーケンサーはアルゴリズミック生成ポリリズム/ポリメトリックに対応しており、リズムを“打ち込む”というよりも、“自動的に展開していく”ような制作体験を提供します。エフェクトも非常に充実しており、各ボイスとマスターの両方に、リバーブ、ディレイ、ディストーション、サチュレーション、コンプレッションなどを搭載。音作りと空間処理を一体化できます。

UIは視覚的にも非常に洗練されており、色やページレイアウトを自由にカスタマイズ可能です。こうした柔軟なビジュアル設計は、インスタグラムなどのデモ動画でも映える要素となっており、音だけでなく“見せる制作環境”としても魅力的です。

通常価格は ¥31,100、現在セール価格¥12,500となってます。サンプルと合成を自由に行き来できる構造、そして自動生成的なリズム設計。Battalionは、従来のドラムマシンの枠を越えた“リズム・デザイン環境”と呼べる存在です。iOSバージョンもリリースされたばかり。

Unfiltered Audio

 

 

Sugar Bytes – DrumComputer  骨太なサウンドと“Remix”の即興性を融合したドラムマシン

 

DrumComputerは、ドイツ・ベルリンのSugar Bytesが開発した、合成ドラムに特化したドラムマシンプラグインです。古典的なサウンド生成技法と現代的なデジタル合成を組み合わせ、柔軟なモジュレーションと高機能なシーケンサーを備えた“ドラムのための総合ツール”といえます。

内部は8つの独立したサウンドエンジンで構成されており、各エンジンはレゾネーター(Resonator)/ウェーブテーブル/アナログオシレーター(Wavetable/Analog Oscillator)/リサンプラー(Resynth/Sampler) の3レイヤー構造を持っています。これにより、キックからハット、メロディックなFMトーンまで、シンセサイズによる緻密な音作りが可能です。

DrumComputerのサウンドは、荒々しく骨太なのも大きな特徴です。デジタル合成ベースながら、ドライブ感や密度のある低域がしっかりと作り込まれており、ハードウェア・ドラムマシンを思わせる厚みを持っています。特にテクノやエレクトロ、ベースミュージック系のトラックでは即戦力になる存在です。

内蔵のシーケンサーは16ステップ×16パターン構成で、確率トリガー、ステップディレイ、ヒューマナイズ、スウィング、モジュレーションなど、多彩なリズム変化を実現します。さらに、ランダマイザーが“サウンド/キット/パターン”単位で用意されており、ワンクリックで新しいビートを生成したり、即興的にリミックスを作り出すこともできます。

特に注目すべきなのが**「Remix」機能**です。これは、現在再生中のパターンをリアルタイムでランダマイズ/モーフィング/エボルブ(変化)させ、ビートを動的に作り変える機能です。ステージやパフォーマンス中に“次の一手”を加えるようにリズムを展開でき、予定調和を崩すアクセントとして非常に効果的です。

サウンド処理も充実しており、各チャンネルにフィルター、コンプレッサー、ディストーションを搭載。さらに、2種類のセンド・リバーブ(Room/Hall)を備え、立体的なミックスが可能です。MIDI出力や複数のオーディオアウトにも対応し、外部機材やDAWとの統合もスムーズです。

見た目のデザインもSugar Bytesらしくカラフルで、視覚的な操作性が高いのも特徴です。パラメータ変化やステップ動作がアニメーションで表示されるため、インスタなどのデモ動画でも非常に映えます。

価格は €129(デモ版あり)

合成ドラムの深さと、直感的な即興性、そして骨太なサウンドを兼ね備えたDrumComputerは、クラブトラックから実験的なサウンドアートまで、幅広い制作環境にフィットする完成度の高いドラムマシンです。

Sugar bytes

 

XLN Audio – XO 手持ちのサンプルを即戦力に変える、サンプルの音宇宙

 

XOは、スウェーデンのXLN Audioが開発したドラムマシンプラグインです。ハードディスクに散らばるサンプルを自動分析し、音色や周波数の特徴に基づいて「XO Space」上にマッピング。点群をクリックするだけで似た質感のサウンドを次々に試聴でき、まるで“音の星図”を歩きながらビートを組み立てるような感覚で作業できます。

自分のサンプルフォルダを指定すれば、ライブラリ全体が自動的にタグ付け・解析され、XO Space上で他の音源と同様に扱えるようになります。手持ちの膨大なサンプルを整理し直す必要がなく、音探しからビートメイクまでの流れを大きくスピードアップできるのがXO最大の魅力です。

一方で、ファクトリー音源も非常に充実しています。XO本体には8,000を超える高品質なドラムサンプルと240以上のビートプリセットが内蔵されており、インストール直後から完成度の高いグルーヴを組み立てられます。さらに、公式拡張パック「XO Expansions」を導入すれば、Lo-Fi、House、Indie Pop、K-POPなどジャンル別のキットを追加することも可能です。

内蔵の8トラック・シーケンサーでは、スウィング、ヒューマナイズ、確率トリガーなどを使ってリズムを作り込み、完成したパターンをMIDIやオーディオとしてDAWにドラッグ&ドロップできます。視覚的なブラウジングとビート制作をシームレスに行える点が、従来のドラムマシンとの大きな違いです。

価格は 通常 US $129 (約 20,000 円前後)。セール時にはさらに値引きされることもあります。

ハードディスクの中に眠るサンプルを“即戦力の素材”に変えてくれるXOは、サウンドの整理とビートメイクを一体化した、現代的でスマートなドラムマシンです。

XLN AUDIO

 

AudioThing – SR-88 80年代ローファイが息づく、穏やかで温かいリズムボックス

 

SR-88は、ビンテージ機材を再現した個性的なプラグインを数多く手がけているメーカーで知られる、イタリアのAudioThingが2017年にリリースしたドラムマシンプラグインです。

1980年代のアナログドラムマシン「SoundMaster SR-88」を忠実に再現しており、当時特有のローファイで少し荒れた質感が魅力です。デジタル合成の精密さとは違い、ほんのりと歪みを帯びた温かみのあるサウンドが特徴で、どこか懐かしいビートを奏でます。

キック、スネア、ハイハット、クラップなどの各サウンドは個別にミックスでき、ピッチやディケイ、パンなどの基本パラメーターも調整可能。内蔵のステップシーケンサーでリズムを組み立て、DAWとテンポ同期させて使うことができます。シンプルな構成ながら、思いがけないグルーヴが生まれるタイプのプラグインです。

派手さはないものの、ミックスの中に自然に馴染む落ち着いた音を持っており、Lo-Fiやシンセウェーブ、アンビエント系のトラックにもよく合います。クラシックな質感を少しだけ加えたいときや、きらびやかなドラムに疲れた耳を休ませたいときにもぴったりです。

価格は €29(デモ版あり)

Audiothing

 

終わりに

ドラムマシンといっても、いまや「ビートを打ち込むためのツール」だけではありません。

AI的な生成やアルゴリズム的な揺らぎ、新しいサウンドの可能性、そしてアナログ時代のぬくもり。

それぞれが違う方向から、さまざまな刺激を与えてくれます。

今回紹介した8つは、決まった型にはまるものではなく、

自分らしい“電子的なグルーヴ”を描くための道具になっています。


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