Arturia がリリースした Pigments 7 は、同社の V Collection に含まれるクラシック・シンセの再現系音源とは異なり、
複数の合成方式やモジュレーションを組み合わせながら、音をゼロから作り込んでいくことを前提としたモダンなソフトシンセです。
名機のサウンドを再現するというより、音が変化していく過程そのものを設計できる点が Pigments の特徴で、
今回の Pigments 7 では、その設計思想を保ったまま、フィルターやエフェクト、操作感に手が加えられ、音のキャラクターにより深く踏み込めるアップデートが行われました。
そもそも Pigments とはどんなシンセなのか
Pigments は、最初から「万能な現代型シンセ」を目指して設計されたソフトウェア・シンセサイザーです。
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バーチャル・アナログ
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ウェーブテーブル
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サンプル/グラニュラー
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ハーモニック(加算)
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ノイズ
といった合成方式を扱えるマルチエンジン構造を持ち、これらを最大2系統まで並列で使用し、同じフィルターやエフェクト、モジュレーションへ送ることができます。
合成方式ごとに操作体系を切り替える必要はなく、どのエンジンを使っていても、共通の考え方で音作りを進められる点が特徴です。
また、音がどのように作られているか、どこでモジュレーションがかかっているかを画面上で追いやすい設計になっており、音色変化の理由を把握しながら調整しやすい作りになっています。
そのため Pigments は、プリセットを中心に使うことも、内部構造を確認しながら音作りを進めることもできる、柔軟な付き合い方が可能なシンセです。
こうした特性から、これまでの Pigments は、複数の合成方式を扱える柔軟さと、視覚的で分かりやすいモジュレーション設計が評価されてきました。
一方で、音の傾向としてはクリーンで破綻しにくく、意図しない歪みやクセが出にくい設計でもあります。
ジャンルや用途によっては、もう少し音のキャラクターや荒さを積極的に作り込みたいと感じる場面もあり、そうした方向に踏み込んだのが、今回の Pigments 7 のアップデートだと捉えることができます。
Pigments 7 で何が変わったのか
Pigments 7 のアップデートは、新しい合成方式を追加したり、シンセ全体の構造を大きく変えたりするものではありません。
基本的な設計思想や操作感は、これまでの Pigments を踏襲しています。
その一方で今回のアップデートでは、音のキャラクターに直接関わる部分に明確な手が入れられています。
具体的には、フィルターやエフェクトを中心に、「音を整える」役割から一歩踏み込み、音色そのものを積極的に変化させるための要素が追加・強化されました。
①クリエイティブフィルターの追加
Pigments 7 では、新たに「クリエイティブフィルター」と呼ばれるフィルター群が追加されました。
これらは、帯域を整えたり音をきれいにするためのものではなく、音色そのものを積極的に変形させることを目的としたフィルターです。
Rage Filter は、内部にフィードバックを持ち、音が自分自身に噛み付くような挙動をします。
カットオフを動かすと、倍音が押し潰されたり、逆に盛り上がったりし、後段で歪ませるのとは違って、和音の中で歪みがどう絡むかまで含めてコントロールできるのが特徴です。
Ripple Filter は、周波数を削るというより、位相がずれ続けることで音の輪郭を不安定にします。
音程は保たれているのに、アタックや倍音の位置が揺れ続け、「鳴っているけれど、どこか定まらない」質感が生まれます。
Reverb Filter は、一般的なリバーブとは異なり、空間を広げるのではなく、音の内部に共鳴を生み出すフィルターです。
カットオフ操作によって、音が遠くへ飛ぶのではなく、中身が膨らんだり詰まったりするように変化し、音量を上げなくても存在感が増す挙動を見せます。
いずれも、後段で軽く色付けするための処理ではなく、音色設計の段階から組み込むことを前提としたフィルターとして位置づけられています。
②新エフェクト「Corroder」
Pigments 7 では、新たに Corroder というエフェクトも追加されました。
これは単なる歪みではなく、音の表面が少しずつ侵食されていくような質感変化を生み出すエフェクトです。
ドライブを上げても、いきなり潰れるのではなく、輪郭がザラつき、エッジが欠け、音程や芯を残したまま手触りだけが変わっていく。
さらに Corroder はモジュレーションと組み合わせることを前提にしており、動かすことで歪みが固定されず、音が常に劣化し続けているような不安定さを作り出せます。
③再設計された Play View について
Pigments 7 では、Play View も再設計されています。
操作性が大きく変わったというより、音とビジュアルの連動がより分かりやすくなったという印象です。
マクロを動かしたり鍵盤を弾いたりすると、
音の変化に合わせて画面も反応し、
見ながら弾いていても違和感がありません。
耳だけでなく視覚でも変化を追えるため、
今どんな動きが起きているのかを把握しやすくなっています。
また、Play View 上ではプリセット名も自然に目に入り、
音のキャラクターと名前が結びつきやすいと感じました。
音を選ぶ際の手がかりとして、無理なく機能している印象です。
④新しいクリエイティブコンテンツの追加
Pigments 7 では、機能面だけでなく、サウンドコンテンツも大幅に拡充されています。
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162種類の新規ファクトリープリセット
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50種類の新しいウェーブテーブル
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30種類のサンプル
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29種類のノイズ
これらは、Rage や Ripple、Reverb Filter、Corroder といった
Pigments 7 の新しいキャラクターを前提に作られた内容になっています。
また、アプリ内チュートリアルも更新されており、
グラニュラー・パッドやベースなどを題材に、
実際の音作りを通して Pigments の使い方を学べる構成になっています。(日本語訳がないのはちょい残念)
新機能を実際に触りながら理解できる点はありがたいです。
どんな音楽ジャンルに向いているのか
Arturia の公式案内では、Pigments 7 は
ヒップホップ、トラップ、ベースミュージック、EDM、ハウス、エレクトロ、ローファイ、エレクトロニカ、映画音楽など、幅広い現代音楽の制作に対応するとされています。
実際、シーケンス機能やパフォーマンス向けのマクロ、豊富なサウンドコンテンツを考えると、
アイデアスケッチからトラック制作、ミックスの仕上げまで、
さまざまな DAW ワークフローに無理なく組み込める音源であることは確かです。
その一方で、使ってみた印象としては、
Pigments 7 は特定のジャンルに最適化されたシンセというより、
音のキャラクターや動きを自分で作り込みたい制作スタイルと特に相性が良いと感じました。
テクノやIDM、アンビエント、映像音楽のように、
音数を増やさず質感や揺らぎで展開を作る場面では、
今回強化されたフィルターやエフェクトの「落ち着かなさ」が活きてきます。
一方で、完成度の高い音色を素早く選びたい場合には、
プリセット中心の使い方でも十分に対応できます。
まとめ
Pigments 7 は、新しい合成方式を追加したり、構造を大きく変えたりするアップデートではありません。
その代わり、Rage や Ripple、Reverb といったクリエイティブフィルター、Corroder、そして再設計された Play View を通して、音のキャラクターや触り心地に確実に手が入ったバージョンだと言えます。
これらの新要素は、音を後から加工するためのものではなく、音が出来上がっていく途中で起きる変化を、そのまま音楽的に扱えるようにするための仕組みとして機能しています。
静的な音を完成させてから動かすというより、最初から変化を含んだ状態で音を作っていける。その感覚が、Pigments 7 全体を通して強く印象に残ります。
Serum の即効性や、Omnisphere の完成度、Massive X の強い個性とは少し方向性が異なり、
Pigments 7 は 音が変わっていく過程そのものを楽しみたい人に向いたシンセとして、独自の立ち位置を築いています。
Pigments 7 の音は、
きれいに整ったオブジェというより、
生き物のように、同じ場所に留まらない存在に近い。
今回のアップデートは、
その落ち着かなさを、意図的に扱えるようにしたものだと感じました。
2026年1月6日までイントロ価格99ドル Pigments 6 ユーザーは無償でアップデート可能







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