Roland CR-78を触ってわかったこと ── 昔のリズムマシンは、今も面白い


1970年代後半に登場したRoland CR-78は、

現在のドラムマシンとは少し役割の違う楽器だ。

今のようにビートが主役になる以前、

リズムは歌や演奏を支える「伴奏」として存在していた。

CR-78は、まさにその時代を象徴するリズムマシンのひとつである。

いまそのCR-78が、Roland Cloudサブスクリプションを通じてソフトウェアとして使えるようになった。

実機に触れる機会がほとんどなくなった現在、

この音に改めて向き合えるのは素直にありがたい。

 

画面を開いてまず目に入るのは、

どこか懐かしさを感じさせるウッドパネルのデザインだ。

DAWの無機質な画面の中に、

急に昭和のレトロフューチャーな匂いが混ざり込んでくる。

電源スイッチがあった場所にパネルスイッチというのが備わっていて、これを押すと

黒いキャビネットデザインに変わる。これは今時の遊び心というものだろう。

 

インターフェイスを覗いてみると、

並んでいるプリセットリズムの名称が面白い。

「ENKA(演歌)」「TANGO(タンゴ)」「FOX TROT」。

ほかにも「BOSSA NOVA」「RHUMBA」「WALTZ」など、

今のドラムマシンではほとんど見かけないジャンル名が並ぶ。

どれもクラブのためのリズムではなく、

昭和の音楽シーンを思わせる名前ばかりだ。

さらに興味深いのは、

これらのリズムボタンを同時に押すことができる点だ。

いわゆる“ダブル押し”をすると、

二つのパターンが重なり合い、

思いがけず複雑なリズムが生まれる。

ジャンル名はきちんと分かれているのに、

実際の使い方はずいぶん大らかだ。

このあたりにも、

この楽器がギターやオルガンの弾き語りの隣で、

テンポを保ち、場の空気を支えるためのリズムを

奏でていたことがにじんでいる。

フィルインの考え方も独特だ。

数種類のプリセットフィルを、

2小節や4小節ごとに自動で挿入する仕組みなのだが、

今の耳で聴くと、正直少し“ズッコケて”聞こえるものもある。

ただ、それが致命的な違和感になることはない。

むしろ、少し力の抜けた間が生まれ、

演奏が続いていくための呼吸のように機能している。

パターンの切り替えやフェードイン/アウト、

「CANCEL VOICE」によるミュート操作など、

操作系を見ていくと、

CR-78がライブ演奏を強く意識した設計であることが伝わってくる。

これは打ち込みのための機械というより、

「演奏を支えるためのツール」だったのだ。

 

PATTERN画面を開くと、空気がガラッと変わる。

そこには、ウッドパネルの温度はもうない。

TR-1000を思わせるグレーの画面に、細かなグリッドが整然と並んでいる。

ここでは、1ステップをさらに細かく分割し、

×2、×3、×4といった単位でリズムを打ち込むことができる。

いわゆる“細かいノリ”を後から作り込める仕組みだ。

フラムのような装飾的な打音も用意されていて、

オリジナルのCR-78にはなかった自由度が与えられている。

ただし16ステップのシーケンスのみ、それ以上長くしたければバリエーションAとB を使うことになる。

フィルインのパターンだけは、自分で打ち込むことができない仕様になっている。

 

次に開いたのが、KIT画面だ。

ここでもTR-1000と同じグレーの世界が続く。

各楽器ごとに並ぶのは、

TUNE、DECAY、GAINといったおなじみのパラメータ。

どこを触れば何が変わるのかが、視覚的にすぐ理解できる。

この画面に、迷いはない。

それでも不思議なことに、

どれだけ値を動かしても、

鳴ってくる音の輪郭はCR-78のままだ。

派手に変化するわけではない。

多少は歪みも加わったりするのだけど、

やっぱり乾いていて、少し軽くて、どこか素朴。

この「ポコポコ」とした質感は、

どんなに整えようとしても、別の時代の匂いを残したままだ。

 

CR-78をノスタルジーとして味わう分には、いいのかもしれない。

けれど、今時のリズムマシンとして向き合うと、正直なところ少し普通すぎる。

それもまたRoland Cloudらしさ、と言ってしまえばそれまでなのだが。

 

ただ幸いなことに、このCR-78はマルチアウトに対応している。

各音をDAWへルーティングし、エフェクトで加工することで、

ようやく現代のトラックの中に居場所を見つけていく。

DAW側からオートメーションを組み、

CR-78のパラメーターをぐちゃぐちゃに動かすこともできる。

そうした扱い方をすれば、

このリズムマシンはきちんと“今の制作環境”に接続される。

それでもなお、CR-78の音は完全には溶けきらない。

伝説の音とは、案外そんなものなのかもしれない。

 

では、今の若い世代がこの音を聴いたら、どう感じるのだろうか。

古く聞こえるのか。

それとも逆に、新しく聞こえるのか。

彼らがどんな使い方をするのか、

その答えは少し先の時間に委ねてみたい。

CR-78は少しズレた時空の中で、

これからも「ポコポコ」と鳴り続けていくに違いない。

 

CR-78


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