1ボイスにつき3本のオシレーターが、微妙にずれながら鳴る。その揺らぎが重なって、壁になる。
「Sound of wall」
かつて日本のシンセサイザー・レジェンドたちがそう称した怪物、Memorymoogの音はまさにそういうものだ。経営破綻へ向かう直前のMOOGが1982年に放った、最後のポリフォニックシンセ。
経営破綻へ向かう直前のMOOGが1982年に放った、最後のポリフォニックシンセ。1982年当時、日本での定価は130万円前後。大卒の初任給が12万円そこそこだった時代だ。音楽誌の広告に躍る「究極のムーグ」という文字を、当時のシンセ少年たちはため息をつきながら眺めるしかなかった。文字通りの「高嶺の花」であり、日本のシーンでも一部のトッププロや潤沢なスタジオだけが所有を許された、憧れの象徴だったのだ。

現在の中古市場では1万ユーロを超えることもある。そのサウンドがプラグインで手に入ると聞いて、ArturiaのMemory Vを試した。
触った瞬間、身体が先に反応した。ああ、あの頃のあの感じだ、と。
80年代プログレ的なシンセブラスのコード弾き。久しぶりにその感覚が戻ってきた。最近のソフトシンセ——複雑なモジュレーションで音を作り込んでいく系の楽しさとは明らかに違う。Memory Vは鍵盤を押したら、もうそこに音がある。派手に動き回らない。主張しすぎない。でも確実にそこにいる。作るサウンドではなく、そこにあるサウンド。
パッドは安定感があってなんだか信頼できる。
「6台のMinimoogs」とも呼ばれているようだが、実際にはオシレーターにCurtis CEMチップが使われており、Minimoogs特有のディスクリート回路とは別物だ。海外メディアでは、実機を長年所有するオーナーたちが今もその違いを指摘する。ただ、フィルターはMoog伝統のトランジスターラダーで、あの系譜の音は確かに出てくる。GenesisのTony Banksが「Mama」で、Jean-Michel Jarreがライブで使ったあの音。
シンセの構造自体は意外とわかりやすい。3つのオシレーター、フィルター、それだけ。PigmentsやSerumに慣れた耳には、このシンプルさが逆に新鮮かもしれない。Arturiaはオリジナルの6ボイスを最大12まで拡張し、モジュレーションやエフェクトも追加している。$149で手に入る。それだけでも試す理由になる。デモ版もあり。




コメントを残す