Superbooth 2026レポート——今年を一言で表すなら、DAWレス


ベルリンで毎年開催されるシンセサイザーとエレクトロニック楽器の祭典、Superbooth。今年2026年は独立したフェスティバルとして10周年を迎え、5月7日から9日の3日間、ベルリンのFEZで開催された。毎年足を運んでいる身として、今年を一言で表すなら——DAWレス。

ただ、会場を歩きながら感じていたのは、その言葉だけでは少し足りないという感覚でもあった。昔はもう少し「どう作るか」を競っていた場所だった気がする。でも今年は、そもそもその前提が少し変わってきているように見えた。

10年前のSuperboothといえば、モジュラーシンセの祭典という印象が強かった。パッチケーブルが飛び交い、ユーロラックモジュールを手にした人々が会場を埋めていた。あの頃の熱狂は確かに本物だったが、今は少し空気が違う。どこか「上手く作るための場所」というより、「触って気持ちいいものが集まる場所」に寄ってきている感じがある。

その変化の中心にあるのは、スタンドアローンで完結する機材の増加だと思う。PCもDAWも必要ない。電源を入れれば音が出る。そのシンプルさに、多くのメーカーが本気で向き合い始めている。

ただそれは単純に「DAWを使わない」という話ではない。もう少し曖昧で、もう少し感覚的な変化に見えた。

成長を続けるBastlとPolyend

毎年存在感を増しているブランドがある。チェコのBastlと、ポーランドのPolyendだ。Superboothとともに成長してきたと言っていい。今年も両ブースは大盛況で、その充実ぶりはベテランブランドに引けを取らない。

そのBastlが今年の台風の目だった。3年の開発期間を経て発表されたKalimbaは、伝統楽器カリンバをそのままシンセにしたような異色の一台だ。12本のタッチセンシティブな金属製ティーンを弾くと、内蔵マイクとタッチセンサーがその振動を拾い、FMシンセシスと物理モデリングのエンジンを駆動する。本体を傾けると加速度センサーがフィルターに反応するという、まさに「楽器として弾く」ことを前提に設計された機材だ。重さ310g、バッテリー内蔵でどこでも使える。価格はKickstarterで€389から。

Bastlブースにて、Kalimbaを取り囲む人々-こういう機材に触れていると、少しだけ考え方が変わる。上手く作るというより、触った瞬間に何かが始まるかどうかのほうが重要になってくる。

Polyendは今年、ハイブリッドドラムマシン「Drums」を発表した。アルミボディに8トラック、アナログとデジタルの両エンジンを搭載し、価格は$2,699。かっこいい。ただし高い。Roland TR-1000と競合する価格帯で、どちらを選ぶかは悩ましいところだ。

PolyendのDrum、黒とシルバーで展開

一方、同じドラムマシンでも499€という価格で「ほぼ全部入り」を実現したのがベルリン発のdadamachines、TBD-16だ。Korg Berlin出身の開発者が作ったこのグルーヴボックスは、16トラックそれぞれに独立したサウンドエンジンを持ち、Mutable InstrumentsベースのエンジンからFMキック、303スタイルのアシッドまで詰め込んである。価格とスペックのバランスが際立っていた。

こうした機材を見ていると、自由度が増えているはずなのに、逆に「どう使うか」を自分で選び続ける必要がある感じもしてくる。完全に任せきりにはならない。

Buchla、北欧の新顔

今年個人的に印象深かったのが、Buchla Ziggyだ。Buchlaといえば長年「高価で難解、一部のマニアのもの」というイメージがあった。西海岸式シンセサイズの独自の思想は魅力的でも、なかなか手が届かない存在だった。それがZiggyで、明らかに身近になった。DAWレスの流れと、このBuchlaの変化は無関係ではないと思う。

あのBuchlaがとてもフレンドリーになった!

北欧からは新顔が登場した。スウェーデンのマルメを拠点とする新会社、Apæron。初製品のAFOURは44ノブ・27鍵のデジタルポリシンセで、開発者3人はシンセ業界ではなくスマートフォン開発の出身だという。その背景がそのままデザインに出ていて、UIの洗練度が従来のシンセメーカーとは一線を画していた。デザイン良し。音も面白い。新しい血がシンセ業界に入ってきている予感がした。

フルデジタルだが、操作感は完全に「つまみ命」のアナログシンセそのものAfour

そしてWhimsical Raps、Atriumだ。ブラッシュドメタルのパネルにアーチ型のLEDが光る、鍵盤のないアナログ5ボイスのポリシンセ。Atriumとはラテン語で「中庭」を意味する。その名の通り、開放的で不思議な空間を持った楽器だ。タッチプレートとスライダーで操作する感触は、これまでのシンセとも、コントローラーとも違う。実験系、という言葉が一番近い。$1,600という価格は、実験にしては本気の値段だ。

まるで魔法の箱 このルックスでアナログ5ボイス

KORGの謎シンセと、Phase8という新機軸

KORGは今年も入場してすぐのブースを構えていた。毎年そうだ。Superboothに来た人間が最初に目にするブランドがKORGになる。その場所の使い方がうまい。

今年の目玉は、ビニールに覆われた謎のシンセだった。5オクターブのキーボード、大量のノブとLED、右側にスクリーン——ビニール越しにそれだけ読み取れた。ブースの壁には日本語で大きく「革新的でぶっ飛んだ製品で、みなさんにこれ超ヤバい!!と言わせたい」とあった。ベルリンのSuperboothでこの日本語コピーを見るのは、なかなかシュールな体験だった。

Prologue mk2では、という声も会場では聞こえてきたが、真相は不明のままだ。

Korg BerlinはPhase8を展示し、ライブも行われていた。磁気共鳴を使って物理的に弦や金属を振動させ、音を生み出すという新機軸のアプローチだ。数年前からSuperboothでベータ機の展示を重ねてきたが、今年はついに発売後。長い研究の成果がようやく形になったという感慨があった。

こういう“物理に戻る感じ”の機材を見ていると、デジタルかアナログかという単純な軸ではもう説明できない領域に来ている気もする。

次の10年へ

DAWから離れていく流れは、今年のSuperboothで確かに強くなっていた。スタンドアローン、ハンズオン、電源を入れればすぐ音が出る。

ただ、それを見ながらずっと思っていたのは、「DAWレス」という言葉自体も、少し後から付けた説明に近いのかもしれないということだった。

むしろ現場で起きていたのは、もっと曖昧で、もう少し感覚的な変化だった。どこまで自分で決めて、どこから先を機材に任せるのか。その境目が少しずつ揺れているような感じ。

昔も今も、ここに集まる人たちの根っこは変わらない。音楽と素直に向き合いたい、ただそれだけだ。

ただ、その向き合い方の手触りは確実に変わってきている。そして次の10年がどうなるのかは、やっぱりまだよくわからない。

 


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