ドイツ政府、クラブを「文化施設」に認定へ。─ ベルリンのクラブと、時代のこと。


ベルリンといえば、テクノ。

週末ごとにどこかのフロアで夜が明ける街。4つ打ちのキック、909のハイハット、
そのイメージは、間違っていない。

でも、少しずつ変わってきている。

2024年の大晦日、有名クラブWatergateが閉まった。
シュプレー川沿いの、ガラス張りのあのフロア。22年つづいた場所だ。
Wilde Renateは2025年末に閉店を発表し、SchwuZは2024年に経営破綻。
ベルリンに住んでいると、こういう知らせが、もう驚きとして響かなくなってきた。

ドイツ語で「クラブの死」を意味する Clubsterben という言葉が、ここ数年で聞こえるようになってきた。

いったい何が起きているのか。少し整理してみたい。

かつて週末ごとに行列が絶えなかったWatergate。このガラス張りのビルが懐かしい。今はシャッターが下りたまま、シュプレー川だけが変わらず流れている。
閉店が相次ぐ、構造的な要因

個々のクラブの問題ではない。業界全体を締め付けている、複合的な圧力がある。

  • 家賃・不動産の高騰Berlin Club Commissionの調査では、43%のクラブが家賃高騰による経営圧迫を受けている。Watergateでは、大家が2010年代後半に賃料を倍増させた。長期契約を結べないまま、退去を余儀なくされる。
  • エネルギー費の上昇深夜まで照明・音響・空調を稼働させるクラブにとって、コロナ後のエネルギー価格高騰は直撃だった。チケット代に転嫁すれば客足が遠のく。板挟みが続く。
  • 騒音をめぐる住民トラブルジェントリフィケーションが進み、クラブの周辺に新しい住宅が建つ。新住民から騒音苦情が入り、防音工事の費用や営業時間の短縮が発生する。クラブが先にあったのに、という矛盾が積み重なる。
  • ポストコロナの行動変容パンデミックで2年近く閉まっていた間に、通っていた人たちの生活習慣が変わった。深夜に出かける文化が、戻りきっていない。
Clubcommissionの推計では、ベルリンの約250クラブのうち半数以上が閉店を検討している。この割合は、2023年から2024年のわずか9ヶ月で倍になった。
法改正は、本当に救いになるのか

今年5月、ドイツのメルツ内閣が建築規制の改正案を承認した。
連邦議会・参議院の審議はこれからだが、超党派の支持があり成立の公算は高い。
ナイトクラブを「文化的・芸術的価値を提供する施設」として正式に認定し、
カジノや性風俗施設と同列に置く現行法を変えようというものだ。

ただ、この改正には長い前史がある。
2021年にすでに連邦議会が「クラブを文化施設として認定する」という決議を採択していた。
歓迎された。でも建築利用規制への法的な落とし込みはその後も遅れ続け、
改正案は何度も見直され、議論され、先送りにされた。
5年以上かかって、ようやく今回、内閣承認に至った。

なぜこんなに時間がかかったのか。
groove.deの報道によれば、建築計画法・文化政策・騒音規制がそれぞれ異なる省庁の管轄で、時に相反する論理で動いていたことが大きい。
連邦・州・自治体の間の調整も複雑で、改革は構造的に遅れやすい仕組みになっていた。

ただ、groove.deはこうも指摘している——
「既存のクラブにとって、この改正によってすぐに直接的な変化が生じるわけではない」と。
認定を受けても、大家が賃料を下げる義務はない。
家賃規制や直接的な資金援助がセットで必要なはずだが、今回の改正は、そこまで届いていない。

Tresor 1991年創業、壁崩壊後のベルリンを象徴するクラブ。今なお健在だ。
私が思うこと ── 建物ではなく、コミュニティ

DTMに関わって20年以上になる。
ベルリンで音楽と、それをとりまく人たちを、ずっと近くで見てきた。

あのころクラブで夜な夜な遊んでいた仲間たちが、今はレーベルを立ち上げたり、Ableton Liveで働いたり、シーンをつくる側になっている。そういう年頃だ。
フロアで踊っていた人間が、気づけばステージの裏側にいる。

コロナがその流れを、一度断ち切った。
2年間の空白で、世代が変わった。
あの空気を知っている人間と、知らない人間の間に、静かな断層が生まれた。

Berghain も Tresor も、まだある。
でも、この街の音楽の土壌を支えていたのは、有名な箱だけじゃなかった。
名もないフロアで、誰かがDJをして、誰かがそれを聴いていた。
その積み重ねが、ベルリンだった。

法律が変わっても、その断層は埋まらない。
フロアに人が戻ってくるかどうかは、最終的には、
音楽と、そこに集まる人たちが決めることだと思う。

とはいえ、私のような日本で育った身としては、クラブを文化施設として法律に刻もうとする動きがあること自体すごいと感じる。

 

via:The Guardian (2026.05.31) / Columbia Economic Review (2026.02) / The Berliner (2024.12) / DJ Mag (2026.01) / UNESCO Intangible Cultural Heritage 2024 /


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