知る人ぞ知る古典電子楽器オンド・マルトノを再現したiPadアプリPetites Ondes(プティット・ オンド)。今日はそのディベロッパーSuzaki Masao氏へのインタビューをお伝えしようと思う。
I: まずはSuzakiさんの音楽的なバックグラウンドやプログラマーとしてのバックグラウンドについて聞かせてください。
S: 子供の頃ザ・ベストテンが好きで、ゴダイゴに感銘を受けたり、その後YMOと出会ってテクノの強烈な洗礼を受けたりしました。プログラミングのほうは学生時代にBASICを少々、仕事でアセンブラをやっていた時期があった、という程度です。
I: Skip note studioの設立、そしてアプリの製作に取りかかろうと思われた動機はどのようなものなのでしょう?
S: 設立は大げさで、ただのチーム名なんです。一人ですけどね。音符(Note)が飛び跳ねている様(Skip)をイメージしていまして「音楽って楽しいんだよ。もっと気軽に楽しもうよ」ということを伝えたくて考えた名称です。アプリ開発のキッカケは色々ありますが、iPhone上で動くアプリを自作できるようになったことが大きいですね。様々な”モノ”に化けられるキットみたいに思えたんですよ。筐体、入出力インターフェース、センサ、音声出力が始めから備わっていて、それらを自由に使って欲しい”モノ”を創り出せる。そこが魅力的で、もう始めるしかありませんでした。
I: このPetites Ondesはオンド・マルトノのエミュレーションアプリということですが、またどうしてこのような楽器に興味をもたれたのでしょう?実際Ondes Martenotにも精通してらっしゃるのですか?
S: キッカケは十数年前に偶然買った中川俊郎という方のCDですね。そこに”茜のテーマ”という曲が入っていまして、そのメロディを奏でていたのがオンド・マルトノという楽器だったんです。何とも優しくて不思議な音色でした。それ以来触れる機会はほとんどなかったのですが、一つ目のテルミンアプリをキッカケに浅草でオンド・マルトノを製作しているASADENさん、オンドマルトノ好きなデザイナーJunjiroさんと知り合い、アプリ化する話となりました。でも未だ謎な楽器でして精通している訳ではありません。
I:Ondes Martenotのどのあたりが謎と思われるのですか?
S: やはり音色ですね。本家のオンド・マルトノに触れるチャンスはなく、オ ンドマルトノの音はどうあるべきか?悩みました。ですが「オンド・マルトノは決して完成された楽器ではない」とのASADENさんからの助言のもと、 ASADENさんのアイデアを取り入れながら、最終的には自分のイマジネーションに従って音を仕上げていきました。
I: このアプリを作るにあたってどのくらいの時間を費やされましたか?それからどのような苦労があったでしょうか?
S: 7-8ヶ月の期間、早朝や会社帰りの喫茶店などで開発をしていました。アプリ作りで一番苦労するのはデザインですが、今回はJunjiroさんに任せられたので、マルチタッチ処理、音色調整、強弱コントロールの部分ですね。ボタン を押したら だた音が出るというものにならないよう、たとえばバイオリン、チェロのように音程、強弱が演奏者の手の動きに合わせて滑らかに変化するよう気を使いまし た。
言語はiOSアプリ開発の基本であるObjective-Cをそのまま使っています。
I: シンセエンジンの部分もObjuctive-Cで作られてるのですか?
S: 音を出す部分はCore Audioという機能を使っていまして、その中身はC言語です。エフェクタは自作のリバーブです。処理を軽くするため、密度は濃くないのですが使える音になるようにチューニングをしています。
I: このアプリの完成度にはどのくらい満足されていますか? 私が知る限り、海外からの評価が高いように思われるのですが、どのような評判だったでしょうか?
S: 至らない部分は色々あり、実はまだ完成していません。少しづつ改良に取り組んでいこうと思います。高評価とはオーバーですが、フランス、ブラジル、イングランドの音楽アプリサイトからコンタクトがあったり米国のシンセサイトでも少し紹介してもらえました。日本でも電子楽器サイトの方にすごい演奏をYouTubeに上げてもらったり、こちらのクールなサイトでこのようにお話をたくさん聞いて頂いたりと嬉しい限りです。
I: アップデートの予定、または次のアプリのアイデアなどがあればちょっときかせてもらえないですか?
S: 内緒にしておこうと思っていたのですが、せっかくなのでお話しますと、iPhoneでも動くようにできないか検討中です。あの画面の小ささでは無理があるのですが、要望を頂いており、やらねばと思っています。また、アプリ立ち上げ時の画面に映っている小型版のオンド・マルトノ用スピーカー。これはデザイナーJunjiroさんが自作したものですが、これを世に出せたらいいな、とも思っています。
I: そのスピーカーのアイデアは面白いです。ぜひ実現するといいですね。iPhone版制作のほうも頑張ってください。
S: 最後にちょっとお知らせしてもよろしいでしょうか。2012年2月15日(水)に渋谷で開催される「アプリ博」という展示会に出展いたします。iPadをお持ちでなく体験してみたいという方や、演奏のコツを聞きたいという方がいらっしゃいましたら下記URLから参加登録の上、ぜひお越し下さい。
http://techwave.jp/archives/51728969.html
また、浅草にASADENさん(浅草電子楽器製作所)の拠点を建設中です。実際に楽器を触れることができるような場所になるそうです。この楽器自体にもご興味ある方はこちらのサイトへもお立ち寄りください。