およそ5年ぶりのメジャーアップグレードとなる Native Instruments のBattery 4 が先週リリースになったばかり。このBattery というソフトウェアが初めてリリースされたのはもう10年以上も前のことで、当時のバージョンには20キット(600MB)の音源しか付属していなかったことや、とても平坦だったインターフェイスを今見てみるとなんとも微笑ましい気持ちになります。

Batteryはエレクトロニック音楽の制作に特化したサンプル・リズムマシン・ソフトウェアで、同じ Native Instruments からリリースされている Maschine が「 リズムパターンを作ること」に焦点が当てられているのに対して、Batteryは一つ一つの「音源を細やかにエディットすること」に焦点が当てられています。今回のバージョンでは新しい70のキットの追加、バスシステムの追加、新たにデザインされたユーザーインターフェイス、新しいエフェクターの搭載など、大幅な改造がされたBatteryはよりパワフルに、より洗練されたソフトウェアに進化しています。

 

まずは基本操作から

 

Battery 4 を起動すると表示されるインターフェイス(画像上)。まだサンプルは一つも読み込まれていない状態です。まず画像中央にあるいくつものマスになっている部分がセルと呼ばれている部分で、この各セルにサンプルを読み込み、各々のセルをクリックすると音がなり、各々のセルをエディットしていくのがBatteryの主要となる機能です。Batteryには129のキットが付属しており、そのうちの70のキットが今回新たに付け加えられたもので、エレクトロニック音楽の制作で使えそうな「新しいサウンド」が多く入っています。

キットを読み込むにはサイドバーにある [Library タブ]をクリック>[Kit] >ブラウザーに表示されるキットをダブルクリック(もしくは選択したキットをセルの上にドラッグ&ドロップ)すると読み込みが開始されます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーザー自身が独自のキットを制作することも可能です。[Cell Matrixメニュー]からセルのサイズを設定。最小で(4×4) 16セルを使うキットから最大で(16×8) 128セルを使うキットを作ることができます。下の画像では4×4のサイズが選択され、各セルが大きく表示されているのが分かると思います。

Batteryに付属するサンプルを読み込む際にはサイドバーにある[Library タブ] をクリック>[Sample]>ブラウザーに表示されるサンプルをダブルクリック(もしくはセルの上にドラッグ&ドロップ)すると読み込みが開始されます。改良されたタグシステム(画像下)によって大量なサンプルの中からでも素早く好みのジャンルのサウンドを見つけることができます。Browseの下にあるスピーカーアイコンをクリックするとサンプルの試聴も可能です。また、ユーザー自身のハードディスクからサンプルライブラリーを読み込むことも可能で、サイドバーの [Filesタブ] をクリック>任意のハードディスクを選択>ブラウザーに表示されるサンプルをダブルクリックすることで読み込みが開始されます。読み込み可能なファイル形式はWav、Aiff、rex、rx2、sd2、snd(AKAI MPC)、kit(Battery1)で、MP3やAACのような圧縮ファイルには対応していないのは、「おや?」といったところです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Battery 4の新機能として、各々のセルに色を付けることができるようになりました。インストゥルメントの種類によって色分けすることができるので、音楽制作中でも識別がしやすくなります。セルを右クリックするとメニューに [Cell Color]が表示され、ここで任意の色を選択することができます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メインページ

 

セルにサンプルを読み込んだ後はサウンドをエディットしていくことができ、Batteryの醍醐味はここから始まるといっていいでしょう。まずはメインページ。ここでの注目は Engineモジュール(上の画像中央)のタイムストレッチ機能の強化が計られたことでしょう。タイムストレッチはご存知の通り、ピッチを保ったままサンプルのテンポを変えることのできる機能です。昔は一つのサンプルをストレッチするのに相当な時間がかかっていたわけですが、今の時代はオフラインではなくオンラインでタイムストレッチをして、このパラメーターをMIDIコントローラからリアルタイムで操作することも可能になるわけです。

Battery 4 のタイムストレッチにはStandardモードProモードの二つのアルゴリズムエンジンが用意されていますが、必ずしもProモードがいい結果になるというわけでもなく、どのようなサンプルを扱うかによって使い分けをした方がいいようです。また、サンプルのテンポを変えるという目的だけではなく、新しいサウンドを作るためのツールとして考えるのも面白いです。

その他エンジンモジュールではクラシック・サンプラー AKAI MPC-60やE-mu SP-1200 のサウンドをエミレートするVintageモード (画像下)を装備しています。劇的なエミュレーションといった具合ではありませんが、アナログサンプリングをした時のような空気感が加わるような効果を得ることができます。

 

 

 

 

 

 

その他、初期のバージョンの頃からパワフルなツールとして利用されているPitch Envelope (画像下)は健在。たとえば、回転中のターンテーブルのスイッチをオフにした時に音楽がフニャ〜〜と遅くなっていくようなピッチコントロールを設定することができたり、効果音の制作に強い味方となるツール。カーソルを設定画面に持って行くと、エンベロープシェイプが表示されるのも便利。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エフェクター

Battery 4では各セルに設定することのできるIndividual Cell Effect と、マスターアウトプットにインサートすることができるGlobal Master Effects の2種類のエフェクターが用意されています。Individual Cell Effect にはNI の新Solid Mix シリーズからのCompressor、 Lo-fi/ Saturation/ Filter/ Transient Masterが含まれ、Global Master Effectsにはこれら5種類のエフェクターに加えてディレイとリバーブが含まれています。Solid M EQ、Bus Comp、Transient Master、Tape Saturator、One Knob Compressor、FiltersはBattery 4からの新エフェクター。Transient Masterはエレクトロニック音楽制作ではスタンダードになりつつあるエフェクターで、サウンドのアタックの量をコントロールすることができるものです。

Individual Cell Effectを設定するには、セルを選択した後に、Effectページより各エフェクターモジュールのスイッチをオンにすることで起動が開始されます。複数のセルに同じ内容のエフェクターを設定したい場合はシフトキーを押しながらセルを選択した後でエフェクターモジュールを起動することで設定が可能になります。各エフェクターのプリセットはスイッチ横にある三角アイコンをクリックすると表示されます。スイッチの右側にある四角アイコンを押さえるとエフェクターの配置変換を行うことができます。

Global Master Effects (画像下)はMasterページより設定を行うことができます。リバーブとディレイは各セルのMainページからセンドの量を設定することが可能です。リバーブはStandardリバーブとCombolutionリバーブの2種類から選ぶことができます。

 

 

サイドチェーン・コンプレッサー

Global Master Effectsのコンプレッサー・モジュールでは、これもまたエレクトロニック音楽でスタンダードなテクニックとなっているサイドチェーンコンプレッサーをかけることができるようになりました。 例えばキックの音を合図にベースの音を下げることが可能となり、サウンドをまとめるためのテクニックとして多く利用することができるものです。設定にはまずコンプレッサーをかけたいサウンドをBusにアサインすることが必要になります。任意のセルをMaster ページのBus 1~4のいずれかにドラッグ&ドロップすることでアサインが完了。アサインが完了したBusチャンネルを選択したあとでコンプレッサー・モジュールのSC Bus Compを起動。コンプレッサーをかけるための合図として使いたいサウンドのセルをSC Bus CompのSC (ソースセクション)にドラッグ&ドロップすることで設定が完了します。

このドラッグ&ドロップによるバスアサイン方式はなかなか便利です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンダリング機能

とにかく多くのエフェクターを利用することができるBattery 4なのですが、コンプレッサーとフィルターに関しては一つのセルにつき3つ同時(Main/Effects/Master)利用することができる豪華ぶりです。必ずしもたくさんエフェクターを使うことがいい結果を生むわけではないことや、CPUへの負担も大きくなるということも考慮しなければならないわけですが、Battery 4ではレンダリング機能(画像下)を搭載しているので、エディットやエフェクターの設定を行ったサウンドをボタン一つでリサンプリングし、新しいセルを自動的に作ることができます。CPU負担の軽減に役に立つだけでなく、より細かいサウンドデザインをしたい人にとっても嬉しい機能でしょう。

レンダリングをしたいセルを右クリックし、[Render Cell in Place] を選択。リサンプリングされたセルが自動的に作られます。(画像下)

 

 

 

 


 

 

 

 

 

Editor

Editorページでは、一つのセルを使って幾つかのサンプルを同時に再生することのできるレイヤーや、一つのサンプルを繰り返し再生させるループ、サンプルのスタートポイントエンドポイントの設定、サンプルの逆再生、サンプルの不必要な部分を切り取ることのできるトリミングなど、Wave EditorLoop Editorの二つのエディットモードが用意されています。

任意のセルを選択するとEditor画面(画像上)にはそのサンプル波形が表示されます。たとえば、サンプルの中のある部分を取り除きたい場合には、不必要とされる部分をEdit Rangeで選択>Wave EditorのSilenceツールをクリックすると選択した部分のみが無音になります。また、ハサミツールを使う場合では選択した範囲が取り除かれることになります。その他選択した範囲をコピー複製することができるDuplicate機能も便利。アンドゥー機能がついているのも便利です。

Loop Editorでは選択した範囲を繰り返し再生することができるLoopの設定を行うことができます。例えば、サンプルを何回繰り返し再生するのかを設定することができるCountでは [0から127もしくは無限] を選択することができ、セルを押している間に設定した回数のループが再生されます。

 

オートメーション

これだけたくさんのパラメーターがあると、やはりコントローラを使って動かしてみたり、DAWソフトウェアにその動きを録音してみたいと思うところです。Battery 4ではMIDI CC、もしくはHOST Automation ID を使う2種類の方法でパラメーターをコントロールすることが可能になっています。

MIDI CCを使う方法では (画像下)外部MIDI コントローラにBatteryのパラメーターをアサインすることができます。設定の方法は、サイドバーのAutomationタブ>MIDIを選択、ここで[Add New]をクリックし、使いたいコントローラのツマミを回してみます。すると自動的にMIDI CCナンバーが認識されます。そしてBattery 4で使いたいパラメーターを右クリックし、[Learn MIDI CC] を選択することで先ほど選択したコントローラのツマミにパラメーターがアサインされることになります。下の画像ではSatureatorエフェクターにMIDI CCをアサインしている様子です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HOST Automation IDを使う方法(画像下)はAbleton Liveを使ってオートエーションの書き込みをしてみることにします。ここではAbleton Liveがホストアプリケーションとして、Battery4がプラグインモードで起動しています。まずはBattery4のサイドバーAutomation タグ> HOSTを選択。動かしたいパラメーターを右クリックし、[Enable Host Automation] を選択します。するとAbleton Liveのクリップビュー内 Battery Envelopに選択したパラメーターがアサインされていることが確認できます。あとはAbleton Liveでオートメションの書き込みをするだけ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Maschineとの統合について

同じNative InstrumentsのMaschineを利用している人にとってはBattery 4をMaschineのハードウェアコントローラから操作してみたいですよね。

Maschineをホストアプリケーションとして、Battery 4をプラグインモードとして起動している場合にはMaschineのブラウザーでBatteryのキットとサンプルの閲覧、読み込み(画像下)が可能になります。キットをロードした場合には、Maschineのキーボードモードでの演奏が可能です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Maschineハードウェアコントローラのツマミを使ってBattery 4のパラメーターを操作する場合には、前にAbleton Liveを例にして説明をしたHOST Automation IDの設定が必要となります。まずはBattery 4の画面で動かしたいパラメーターを右クリック>[Enable Host Automation]を選択>するとMaschineにも選択したパラメーターが表示され、Maschineからのツマミコントロールが可能になります。(画像下)

 

 

 

 

使用してみて

リズムマシンとしてだけでなく通常のサンプラートしても使うことのできるBattery 4は、現代のエレクトロニック音楽制作で必要とする凝ったサウンドを作ることのできるソフトウェアです。特別斬新なアイデアが盛り込まれたバージョンアップではありませんが、今までのBatteryがより洗練され、よりパワフルになった印象を受けます。ドラッグ&ドロップ操作によるエディットやエフェクトルーティングはとても便利で、ワークフローの向上が試みられています。エフェクターはCPUに多く負担をかけることのないクリーンな設計がされており、様々な実験を試すことができ、Transient Master、Tape Saturation、Combolution reverb、bus Compressorなど現代のエレクトロニック音楽が必要とするエフェクターが新たに搭載されたのはとても嬉しいところです。再設計されたインターフェイスは以前よりも現代的なデザインになっており、操作する際の気分も一新されます。セルに色を付けることのできるカラーコーディングシステムはここ数年NIが特に強調している部分でありますが、複雑になりがちなコンピュータソフトウェアの操作を迷わずに直感的に行うための方法として歓迎できるアイデアです。オートメーションの設定方法が簡単なのも嬉しいところではあります。しかし同じNIのMaschineとの統合はもう一歩なところのようで、できるならばMaschineのキットと同様にBatteryのキットも扱うことができるようになる「完全統合」が両ソフトウェアを利用する者としての希望です。でも、かなりのところまでサウンドを作り込むこのとのできるBatteryは健在。

 

 

 

Native Instruments Battery 4 $99 €199

Battery 4はNI Komplete 9 Ultimate/ Komplete 9にも含まれます。

 

 

 

 

 

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2 Responses to Native Instruments Battery 4 を試してみた

  1. […] Native Instruments Battery 4 を試してみた | いっかい/ikkai […]

  2. […] tsのBatteryなどでは、Reverseボタンで読み込んだ波形を逆再生に簡単にできるし、タイムの調整もできる、けっこうなエフェクトもかけられる。参考→Native Instruments Battery 4 を試してみた) […]

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