ドイツベルリンのソフトウェアメーカーSugarbytes がリリースしたばかりのEgoist はサンプルスライサーをメインとし、シンプルなベースシンセとドラムマシン、そしてSugarbytes ならではのユニークなエフェクターが合体したグルーブインストゥルメント。
Sugarbytesはこれまで様々なユニークなソフトウェアをリリースしてきたメーカーなだけにかなりの期待を持ってこのソフトウェアのダウンロードを開始してみました。
Egoist はスタンドアローンモードもしくはプラグインモードで動作します。プラグインモードの場合はDAWソフトウェアのテンポに同期、スタンドアローンモードの場合は外部MIDIクロックに同期させることが可能です。
まずスクリーンを開いてみるとSLICER画面が表示されます。
SLICER
オーディオループをスライスして並べ替え、パターンを作り替えるという手法はそれほど新しいものではありません。その昔、REXファイルが世に現れたときはかなり感動したものですが、今はAbleton Live の「サンプルをスライスする」という機能スイッチを一つ押すだけでオーディオループはスライスされ、自動的に生成されるMIDIファイルを並び替えることによってループを再構築することができます。
EgoistのSLICERはこれまでのサンプルスライスよりももっと簡単に操作をすることができ、そしていい意味で過激なサウンドを作ることができます。
まず Egoist に持ち前のサンプルループ(ごく普通の1小節のドラムループ)をロードしてみました。読み込んだサンプルは波形表示され、16分割されたスライスにはそれぞれ1から16の番号が振られています。スライスされた波形をクリックするとその部分だけを聞いてみることや、スライスに付けられた番号を手動で動かしスライスポイントを修正することもできます。
スライスにつけられた番号1から16、、これをどういう順番で再生するのかを設定をするのがステップシーケンサーです。たとえばシーケンサーで 2-2-15-9-16-14-7-3……という設定をすると、その通りの順番で再生が開始されます。
シーケンサーの右側にあるサイコロの形をしたアイコンを押すとシーケンスパターンはランダムに作り替えられます。×アイコンを押せば元のシーケンスに戻ります。時にはメチャクチャなパターンにもなったりしますが、時にはかなりナイスなパターンにもなったり、単純なループでも様々なパターンに作り替えることが出来るのです。
ここまでのことならばAbleton Live だけでも簡単にできることなのですが、Egoist のSLICERはさらにその上を行きます。
シーケンサーには DIR(逆再生)PITCH (スライスのピッチ)A(アタック)D (ディケイ)LEVEL (スライスの音量)のステップも備わっていおり、ある一部分のスライスだけを逆再生させることや、ある一部分のスライスだけのピッチを変えるようなことができます。そして再生を開始してみると、単純なループはかなり凝ったなモダンエレクトロニックサウンドに早変わりします。
もちろんドラムループだけでなく様々な種類のオーディオファイルをロードしてみることで面白い結果を得ることが出来ます。たとえばアコースティックギターのワンショットのサンプルをロードし、Sensitivity値を多めにしてスライスしてみたのですが、思いもしなかったフレーズパターンができ大満足。自分で作ったシンセフレーズをスライスしてみるのも面白いはず。
また、Egoist に標準で付属するサンプルライブラリーにはドラムループ、ボーカル、ギター、シンセ、サウンドエフェクトなど様々な種類のものが収録され、しかもユニークなものが多いところがプラスポイントです。Maus on Mars やSiriusmo のようなエレクトロニック音楽を好む人であるならばかなり嬉しい内容に違いないです。
BASS
ベースシンセはかなりシンプルな作りです。ベースシンセは1オシレーターのバーチャルアナログシンセ。波形は三角波と矩形波の2種類、フィルターはTB-303、MOOG、MS-20を模した3種類のものが用意されています。
DAWソフトウェアからMIDIノートを書き込むことや、MIDIキーボードを使ってプレイすることはできないので、ベースフレーズはこのシーケンサーを使って打ち込むことになります。打ち込み方はこれまでのシーケンサーとはちょっと違うものなので最初はやや戸惑うのですが、難しいものではないのですぐになれることが出来ます。
ベースシーケンサーのステップの上をクリックすると8種類のレングスを選択することができます。上から順に短いレングス、下に行くと長いレングス、そして一番下のステップは隣同士のステップを繋ぐタイレングスです。右側のレングスはグライド付きのノートを入力することができます。TB-303でおなじみのアシッドベースを作るにはこのグライドが活躍します。
ベースシンセのピッチを入力するにはBASSシーケンサーの2段目のステップに数値を入力していきます。3段目のステップではオクターブを設定することができます。
そしてやはりここにもサイコロアイコンがあり、これを押すことによってランダムなステップパターンが作り出されます。音符付きのサイコロアイコンを押すとピッチとオクターブがランダムに入力されます。
BEAT
ドラムマシンもごくシンプルで、基本的にはキック、スネア、ハイハットの3つのみです。15のキット、各キットにはキック、スネア、ハット、それぞれ32のサウンドが用意されています。サウンドはビンテージアナログ系のサウンドですが、909や808のような超有名アナログマシンとは違ったマニアックなサウンドであるところが個人的にはとても気に入っているところです。ややローファイ、悪く言えばチープな音にも聞こえてしまいますが、そこが持ち味でもあるような気がします。音もかなり大きく、中域が強調されているところも気に入っています。
打ち込み方はベースとほぼ同じです。BEATシーケンサーのステップの上をクリックすると大きい音量のステップ、ダブルクリックすると小さい音量のステップを入力することができます。ハイハットの場合はオープンハイハットを入力することができるようにもなります。
そしてここでもサイコロアイコンを押すことによってランダムなパターンが自動的に作られることになります。
EFFECTOR
エフェクターはSugarbytes のEffectrix というソフトウェアを縮小したような作りになっています。
Egoist のエフェクターは通常ソフトウェアに装備されているエフェクターとは違い、シーケンサーのステップにチェックを入れることによってその部分だけにエフェクターがかかる仕組みになっています。つまり、パターンのある一カ所だけにディレイをかけることや、ある一カ所だけにフィルターをかけるようなことができ、SLICER/BASS/BEATSで作ったパターンにさらにトリッキーな効果を加えることができます。もちろんここにもサイコロアイコンが用意されているので、ランダムにエフェクトをかけながらいろいろな効果を試すことができるのが楽しいです。
エフェクターの種類はフィルター、ディレイ、リバーブ、ローファイ、コーラス、ストップ、ルーパーの7種類。テープレコーダーやターンテーブルをストップした時に速度が落ち、ピッチがグニャーっと落ちるような効果をつけることができるストップエフェクターは試しているだけでも楽しいです。
各エフェクターのパラメーターはとてもシンプル、分かりやすいユーザーインターフェイスなので迷うことはありません。そしてここにもサイコロアイコンがあり、これを押すことによって7つのエフェクターのパラメーターを同時に変えることができます。
DAWソフトウェアを使ってパターン操作する
Egoist で作ったパターンはスクリーン下にあるパターンキー1から16にセーブしていきます。このパターンキーにはSLICEER/BASS/BEAT/EFFECTOR すべてのセッティング含まれています。
この1から16のパターンキーを押したり、MIDIキーボードからこのパターンキーを操作することによって迅速にパターンを切り替えることができます。多少乱暴にこのスイッチを押したとしても反応はとても良く、ライブパフォーマンスにも使える部分です。このパターンキーをあれこれ押しているだけでも実はかなり楽しいです。
Egoist をプラグインモードで立ち上げている場合、DAWソフトウェアからパターンを切り替えることもできます。パターン1 はMIDIノートのC1 、パターン2はMIDI ノートのC♯1に対応しているので、それに添った書き込みによってパターンを替えることができます。下の画像はAbleton Live のピアノロールに書き込みを行っている様子です。
さらに、DAWソフトウェアからEGOISTのパラメーターを操作することも可能です。たとえばBASS のパラメータのオートメーションを書いたり、SLICERやBEATS のピッチを変えたりするようなことも可能です。この設定を行えば、コントローラのツマミを使って操作することも可能になります。
通常のソフトウェアシンセと違う部分は、DAWソフトウェアからMIDIノートの書き込みをしてBASSや BEATSを演奏できないところです。MIDIノートはあくまでもEgoist のパターンを替えるためだけに使われます。
使ってみて
簡単に言ってみると、EGOISTは偶然性にたよるインストゥルメントです。
特にSLICERは、とりあえず何かオーディオループをロードして、シーケンサーをいじってみるまではどのような音が出てくるのかほとんど想像がつかないわけです。(普通にサンプルをスライスして並び変えるだけであるならばこのソフトウェアを使う必要はほとんどと言っていいほどないわけです)
とにかく何かサンプルをスライスし、サイコロアイコン(ランダム機能)も押したりしながら何か面白いアイデアを探す。そこでいいものが見つかればラッキー。他では聞くことのないオリジナルの音を簡単に作ることができるところがEgoist の素晴らしい部分です。
ベースシンセとドラムマシンに関してはかなりミニマルでシンプルな作りになっていますが、サンプルスライサーで作ったちょっとクレイジーなパターンに速攻でドラムサウンドやベースサウンドを加えることができ、テンションが上がります。ほとんど悩むことなく作業を続けることができるのが気に入っている部分です。
エフェクターに関しては先にも述べたようにSugarbytes のEffectrixの縮小版と言った感じです。もしこのエフェクターが気になる人はチェックしてみてください。
今後のバージョンアップで希望したいことは、UNDO機能をつけてもらいたいことです。サイコロアイコン(ランダム機能)は素晴らしいのですが、勢いあまってスイッチを押しすぎたときにはお気に入りのパターンがどこかへ消えてしまったり。
(スミマセン)UNDO機能はすでに付いていました。(画像下)
もう一つ今後のバージョンアップで希望したいことは、SLICER/BASS/BEATS の各オーディオインディビジュアルアウトプットをできるようにしてもらいたいこと。作ったパターンをそれぞれDAWソフトウェアに録音しようとしたのですが、これがかなり骨の折れる作業だったりします。
Egoist は$99
楽しいエレクトロニック音楽を作る人にお勧めです。
機能制限付きのデモバージョンあり。