昨年の秋にリリースされたNative Instruments のキーボードコントローラKontrol S シリーズは、Native Instruments の数々のソフトウェア(KOMPLETE 10) をコントロールするためにデザインされた革新的なMIDIキーボードだ。
Kontrol S キーボードそのものについて書きたいことは山ほどあるのだが、今日ここではKontrols Sキーボード とMaschine を一緒に使った場合にはどのようなことができるのかチェックしてみようと思う。
NI Maschine は昨年の11月にアップデートバージョン2.2をリリースし、Kontrol S キーボードとの統合機能を搭載した。Kontrol Sキーボードを使うことによって、鍵盤を弾きながらパターンを作ることができるようになったり、MaschineのサウンドやKOMPLETEのソフトウェア音源を操作することができるようになる。
まず先に述べておかなければいけないことは、Maschineをスタンドアローンモードで使う場合と、DAWソフトウェアをホストとしたプラグインモードで使う場合とではKontrol Sキーボードの振る舞いはわずかではあるが変わってくるということだ。ここではまずはMaschine をスタンドアローンモードで立ち上げたところから見ていこうと思う。
Maschine スタンドアローンモードでKontrol S キーボードを使う設定
Kontrol SキーボードからMaschineを操作するためには、MaschineソフトウェアのメニューControllerで、MaschineとKomplete Kontrol S…にチェックが入っていることを確認しよう。(ここではMaschine Mk2 とKontrol S キーボード49を使用している)
Maschineの音源をKontrol S キーボードからブラウジング
Kontrol S キーボードからはMaschineのサウンドもロードすることができる。
Kontrol S キーボードのNavigateセクション(右側)ある「BROWSE」スイッチを押すとコンピューターのスクリーンにはオンスクリーン・オーバーレイが表示され、この画面を見ながらMaschineやKOMPLETE のソフトウェアの音色を閲覧することができるようになる。
Maschineのキットを読み込みたい場合にはKontrol S キーボードの「エンコーダーノブ」を回しキット・アイコンを選択する。さらに矢印スイッチやノブを回しながらMaschine Expansion やジャンル等の絞り込み検索を行うことができ、オンスクリーン・オーバーレイの右側には絞り込まれたキットの一覧が表示される。「ENTER」もしくは「エンコーダーノブを押す」ことで読み込みが始まる。
Kontrol SキーボードのTRANSPORT セクション(左側)にある「PLAYボタン」を押すとMaschineはプレイを始める。「RECボタン」を押せばレコーディングが始まる。
鍵盤を弾いてみると、一つのサンプル音しか音が鳴らないことに気がつく。低い方の鍵盤を押せばピッチが低い音、高い方の鍵盤を押せばピッチが高い音で発音する。RECボタンを押すとレコーディングを開始することができる。クオンタイズをかけたい場合にはMaschineコントローラもしくはMaschineソフトウェアから行うことになる。
また、Kontrol SキーボードからMaschineのキット演奏(例えばC1にはキック、B1にはスネアといったような配列の上での演奏)を行うことはできない。
今度は、別のサンプルを選んでみよう。
Kontrol SキーボードのNavigate セクションの「矢印ボタン↑↓」を押すことで、キットのサンプルスロットを選択することができる。
Kontrol Sキーボード中央にあるディスプレイを見てみる。ここには選択したサンプルのサウンドパラメーターが表示され、8つのノブを使いながらエディットを行うことができる。 スクリーン上にある「矢印←→スイッチ」を押すことでパラメーターのページを切り替えることができる。
今度は、MaschineのGROUP 2 スロットにKOMPLETE ソフトウェアの音源を読み込んでみよう。Kontrol SキーボードからGROUPを選択するにはPERFORMセクション(左側)の「SHIFTスイッチ」を押しながらNAVIGATEセクション(右側)の「矢印ボタン↑↓」を使う。
KOMPLETE ソフトウェアを呼び出すには、先程と同様に、Kontrol S キーボードのNavigateセクション(右側)あるスイッチ「BROWSE」を押し、オンスクリーン・オーバーレイを開く。
オンスクリーン・オーバーレイの表示は、先程Maschineキットを選択した時のままの状態になっている。ブラウジングをもう一度初めから行うためには、Kontrol S キーボードの「SHIFTスイッチ」を押しながらNAVIGATE セクションの「BACKスイッチ」を同時に押す。
インストゥルメント・アイコンを選択するとコンピューターにインストールされているNI ソフトウェアの一覧が表示される。
例えば、FM8を選択した場合、続いてFM8のバンクを選択することになるのだが、必要ない場合は「矢印スイッチ↓」を押すことで、次のカテゴリーを選択することになる。絞り込みを必要としない場合は矢印→を押すことで右側に表示されているプリセットを選択できるようになる。「エンコーダーノブをプッシュ」もしくは「ENTERスイッチ」を押すと読み込みが始まる。
Navigateセクション(右側)の「PRESETスイッチ↑↓」を押すことでもプリセット音色を変えていくことができる。
Kontrol Sキーボード中央のディスプレイを見てみるとFM8 のパラメーターが表示されていることがわかる。ページを切り替えるには先程と同様、スクリーン上にある「矢印←→スイッチ」を押す。
では、FM8を使って何かフレーズ弾いてみることにする。Kontrol S キーボードのTransport セクションの「Play ボタン」を押すとMaschineは動き始め、「RECボタン」を押せばレコーディングが可能になる。パターンの長さを調節するにはMaschineコントローラもしくはMaschine ソフトウェアから行うことになる。
Soundにエフェクターをかけてみる
今度は先程ロードしたキットのスネアの音にエフェクターをかけてみることにする。Kontrol S キーボードの「SHIFT ボタン」を押しながらNAVIGATEセクションの「→スイッ」チを押すと、 Maschine/ Sound のエフェクトスロットを選択することができる。
エフェクトスロットを選択したのちに「BROWSE スイッチ」を押す。今度はエフェクトアイコンを選択しよう。すると、オンスクリーン・オーバーレイにはMaschine内臓のエフェクターやKOMPLETE ソフトウェアのエフェクターの一覧が表示される。
ここでは、Maschine内臓のディレイエフェクトを選ぶことにする。 オンスクリーン・オーバーレイに表示されているMaschineを選択したのちに。type欄でディレイを選択する。続いてディレイタイプが4種類表示される。
絞り込みが終了したらスクリーン右側に移動し、プリセットを選択することができるようになる。Navigateセクション(右側)の「PRESETスイッチ↑↓」を押すことでもプリセットを変えていくことができる。
エフェクターのロードが完了すると、Kontrol Sキーボードのスクリーンには選択したディレイのパラメーターが表示されていることがわかる。ノブを回すことでエフェクターのパラメーターを調節することができる。のちに説明するAuto Write機能を使えば、シーケンスパターンにパラメーターのオートメーションを書き込むことも可能になる。
Kontrol Sキーボードのスクリーン表示をSound に戻したい場合は、Kontrol S キーボードの「SHIFT ボタン」を押しながらNAVIGATEセクションの「←スイッチ」を押す。さらに別のエフェクターを加えたい場合は「SHIFT ボタン」を押しながらNAVIGATEセクションの「→スイッチ」を押すことで、新しいエフェクトスロットを選択することができるようになる。
パフォーマンスモードを使った演奏
Maschine 2,2 の一番大きな特徴はパフォーマンスモード(アルペジオ機能とスケール機能)が追加されたことだ。Kontrol Sキーボードではスイッチ一つでこのパフォーマンスモードに入ることができ、鍵盤を一つ押さえるだけで、アルペジオ演奏や和音演奏を行うことができるようになる。
これらのモードに入るためにはKontrol SキーボードのPEFORMセクション(左側)の「SCALEスイッチ」もしくは「ARPスイッチ」を押す。さらに、どのようなスケールで演奏を行うのか、どのようなパターンでアルペジオを行うかといったような細かい設定を行うには、「SHIFTボタン」を押しながら「SCALEスイッチ」もしくは「ARPスイッチ」を押す。ディスプレイに詳細が表示され、ノブを回しながら設定を行うことができるようになる。
パフォーマンスモードを使って録音を行うと、Maschineソフトウェアには演奏されるすべてのノートが書き出される。後からパターンを少しだけ編集したいときなどには便利だ。(注: Maschineをプラグインモードとして使ったときにはパフォーマンスモードを使うことはできない)
Auto Write 機能を使ってみる
今度はKontrol S キーボードからFM8の音にオートメーションを書き込んでみる。Maschineではこの機能をAUTO WRITE 機能と呼んでいる。
Kontrol S キーボードからAUTO WRITE モードに入るには「SHIFTボタン」とディスプレイ上の」矢印←→ボタン」を同時に押す。ディスプレイにはAUTO ON という表示がされる。
Maschineの再生を行っている最中に各パラメーターのノブを回すと、Maschine ソフトウェアにはオートメーションデータが書き込まれる。
AutoWrite 機能を解除するには、「SHIFTボタン」とディスプレイ上の」矢印←→ボタン」をもう一度同時に押す。ディスプレイにはAUTO OFF と表示される。
ピッチ・ストリップとモジュレーション・ストリップ
Kontrol S キーボードにはこれまでのMIDIキーボードとは違ったタイプのピッチベンドとモジュレーションホイールが装備されている。Kontrol S キーボードではこれらをピッチ・ストリップ、モジュレーション・ストリップと呼んでいる。設定次第ではこれまでのピッチベンドやモジュレーションホイールとは違った演奏表現を行うことができるようになる。
タッチストリップの設定はMaschine ソフトウェアのメニュー「File>Preferences>Hardware」 で行うことができる。
例えば、ピッチストリップの項目を見てみるとSpring Strengthという表示がある。このスライダーを上げると、ピッチストリップから手を離せばピッチはすぐに正常値に戻る。スライダーを下げるとピッチストリップから手を離した時にゆっくりと正常値に戻ることになる。
モジュレーション・ストリップには2種類のモード(スタンダードとボール)が用意されている。スタンダードモードはこれまでのモジュレーションホイールと同様の振る舞いをするが、ボールモードにすると指の重力に反応するボールのような反応になる。ボールをどのような速度でどのような跳ね返しをさせるかといった細かい設定を行うこともできる。
ピッチストリップの可変幅を変えたい場合には、MaschineソフトウェアのSound パラメーターPitchBend で設定を行う。モジュレーションストリップのかかり具合を設定するにはSound パラメーターModulation Wheel Destination で行うことになる。
NI KOMPLETEソフトウェアを使う場合には、各ソフトウェア上で設定を行わなければならない。ソフトウェアによってはタッチストリップが効かないものもある。
Maschineをプラグインモードで立ち上げた場合
DAWソフトウェアをホストとしてMaschineをプラグインモードで立ち上げた場合、Kontrol S キーボードの操作方法は変わってくる。まず、Kontrol S キーボードのTRANSPORT セクションのスイッチ類は全てDAWソフトウェアのためのトランスポート機能となる。PLAYスイッチを押せば、DAWソフトウェアの再生が始まる。
DAWソフトウェアを使うとなると、Maschineだけではなく他のプラグインシンセやMIDI機器も同時に使うことが想定される。ここでは例としてAbleton Live にMaschine+KOMLETE KONTROL VST+サードパーティ製プラグイン(U-he DIVA)を立ち上げてみる。
ちょっとややこしいのは、今Kontrol S キーボードはどのソフトウェア(インスタンス)に焦点を当てているのか気を配らなければいけないことだ。
Ableton Liveで上のような設定を行った場合、Kontrol S キーボードは3種類のモード(Maschineモード・Komplete Kontrolモード・MIDIモード)の切り替えを行なわなければならない。Maschineを操作したい場合にはMaschineモード、Kompleteソフトウェアを操作したい場合にはKomplete Kontrol モード、サードパーティ製のプラグインや外部MIDI機器を操作したい場合にはMIDIモードを使うことになる。
Maschineモードに入るためには、まずAbleton Live のトラック(ここではトラック1 )の「録音アームボタン」をオンにする。そしてMaschineソフトウェアのメニュー「Controller」 でKontrol S..にチェックを入れる。もしくはMaschineソフトウェアの右上にある小さな「コントローラアイコン」を押すことでKontrol S キーボードはMaschineモードになる。Maschineモードに入ると鍵盤のイルミネーションはMaschineコントローラと同じ色で光る。
Maschineモードに入ると、スタンドアローンモード同様にKontrol S キーボードからMaschineライブラリーのブラウジングやサウンドのエディットも行うことができるようになる。Auto Write機能を使ったオートメーションの書き込みも可能だ。
ただしKontrol S キーボードの「TRANSPORTセクション」はDAWソフトウェアのためのトランスポート機能となってしまうので、Maschineのシーケンスに録音を行う場合はMaschineコントローラの「RECボタン」を押さなければならない。
また、Kontrol S キーボードからMaschineのアルペジオ機能やスケール機能を操作することもできなくなる。プラグインモードでこれらの機能を使うにはMaschineコントローラで操作をしなければならない。
今度は別のプラグインシンセを操作してみることにする。そのためにはKontrol S キーボードはMaschineモードから抜けなければならない。そのためには、Ableton Live の別のトラックの「録音アームスイッチ」をオンにする。もしくはKontrol S キーボードの「SHIFTスイッチ」を押しながらNAVIGATEセクションの「INSTANCEスイッチ」を押す。するとMaschineモードはMIDIモードに変わり、鍵盤のイルミネーションは青色になる。
Maschineモードから抜けると、Kontrol S キーボードNavigateセクションの「矢印スイッチ」でAbleton Live の別のトラックを選択することができるようになる。
Ableton Liveのトラック2に立ち上げてあるKOMPLETE KONTROL を選択すると、Kontrol S キーボードは自動的にKomplete Kontrolモードになる。KOMPLETEソフトウェア音源のブラウジング、エディット、コントローラを使った演奏を行うことができるようになる。
もう一度Maschineモードに入るためには同様の操作を繰りかえすこととなる。Ableton Live のトラック(ここではトラック1 )の「録音アームボタン」をオンにすしてMaschineソフトウェアのメニュー「Controller 」でKontrol S..にチェックを入れる。もしくはMaschineソフトウェアの右上にある小さなコントローラアイコンを押すことでKontrol S キーボードはMaschineモードになる。鍵盤のイルミネーションはMaschineコントローラと同じ色で光る。
まとめ
以上、Kontrol S キーボードを使ってMaschineを操作するとどのようなことができるのか解説してみた。
Kontrol S キーボードの素晴らしいところは、Native Map というテクノロジーによってNative Instruments のソフトウェアのパラメーターが自動的にマッピングされるところだ。これまでのMIDIキーボードと違って、ややこしい設定なしに音色のエディットをすぐに行うことができるようになることは時間の大きな節約となる。これまでのMaschineのワークフローにも上手く連動する。
Kontrol S キーボードを使うことでMaschineのひとつひとつのサウンドに対して事細かに気を配ることができるようになる。とくにNI KOMPLETE ソフトウェアを立ち上げた場合には音色のエディットやインストゥルメントの演奏に集中することができる。
Kontrol S キーボードのタッチストリップはNI らしいユニークな機能だ。これまでのMIDIキーボードではできなかった演奏表現が可能になる。
ややこしい点もいくつかある。例えば、サードパーティ製のソフトウェアシンセをMaschine(スタンドアローン)の中で起動すればアルペジオ・スケール機能を使うことができるのだが、Maschine(プラグインモード)や、DAWソフトウェア内で立ち上げたサードパーティ製プラグインにはアルペジオ・スケール機能を使うことができなくなる。
また、Maschineの中でサードパーティ製プラグインを起動すればKontrol S キーボードのスクリーンにはパラメーター名が表示されるのだが、DAWソフトウェア内で立ち上げたサードパーティ製プラグインのパラメーター名の表示はおこなわれない。 AKAIがVSTソフトウェアをサポートするMIDIキーボードAdvance のリリースを控えているだけに、Kontrol S キーボードの今後のアップデートがどのようなことになるのか気になるところだ。
とはいえ、Kontrol S キーボードはMaschineでの音楽制作をサポートする強力な武器となる。これまでMaschineコントローラのパッドだけでは満足できなかったキーボーディストは創作意欲が大きく湧くに違いない。