今日は6月3日。なんとなく気になって調べてみたら、電子音楽にとってちょっと特別な日だと知りました。1967年のこの日、ドラマーのハル・ブレインが「Love-In / Wiggy」というシングルをリリースしていて、それが“モーグ・シンセサイザーが商業音楽に初めて使われた作品のひとつ”なのだそうです。
(ただし、この辺りの時系列がちょっとややこしいのですが、最初の録音というわけではありません。実はその2週間ほど前の5月20日、モート・ガーソンのアルバム『The Zodiac: Cosmic Sounds』がリリースされており、こちらがモーグを使用した最初の作品とされています。)
では、なぜ6月3日が特別なのか?──それは、この日リリースされたハル・ブレインの『Love-In / Wiggy』が、モーグを使った最初のシングル盤だったからです。アルバムよりも身近なメディアであるシングルでモーグの音が流通したことは、電子音が一般リスナーの耳に届いた初期の例だといえます。電子音が実験音楽から“音楽の一部”としてポピュラーミュージックに橋渡しされていく重要なステップにもなりました。
1967年6月3日にリリースされたハル・ブレインの「Love-In / Wiggy」は、モーグが利用された最初の“シングル盤”として注目されます。
こうした初期の録音を支えていたのが、ポール・ビーバーとバーニー・クラウスという人物です。VCOやフィルターを手作業で操りながら音を組み立てる、職人的なシンセサイザー奏者でもありました。モーグ社の西海岸代理人として、自ら機材を所有し、ロサンゼルスの現場で録音・演奏・技術サポートに広く関わっていた存在です。続く1967年のモントレー・ポップ・フェスティバルでは、ポール・ビーバーはモーグ・シンセサイザーのデモンストレーションを行い、フェスティバルのブースで来場者にその革新的な音を紹介しました。この展示は、モーグ・シンセサイザーが初めて大規模な音楽イベントで紹介された瞬間であり、多くのミュージシャンやプロデューサーに強い印象を与えたと言います。
モントレーでのデモンストレーション後、ビーバーとクラウスは多くのアーティストと協力し、モーグ・シンセサイザーを用いた音楽制作に携わりました。例えば、ザ・モンキーズのアルバム『Pisces, Aquarius, Capricorn & Jones Ltd.』では、ビーバーがモーグ・シンセサイザーを演奏しています。また、彼らは『The Nonesuch Guide to Electronic Music』などの教育的なアルバムを制作し、シンセサイザーの可能性を広く紹介しました。
こうした初期の録音をきっかけに、モーグ・シンセサイザーは少しずつ商業音楽の中に浸透していきました。そしてそこから、ローランドやARP、コルグ、フェアライト、デジタルシンセ、ソフトシンセ、そしてAI生成音楽へと──“シンセサイザー”という世界は大きく、そして自由に広がっていきます。その最初の小さな波紋が現れたのが、58年前の6月3日だったのかもしれません。