バンドメンバーと音楽制作をする場合、リミックスを依頼したり依頼されるような場合。近くに住んでいる人であるのならハードディスクを抱えて行けば数分でファイルの受け渡しができるわけですが、遠い場所に住んでいる場合、一つ一つのトラックをバウンスして、メールで送信するとか、容量によってはオンラインストレージなんかを使うのがおそらく一般的なはず。この作業がいかに煩わしいものであるのかは知っている人は知っているはずです。
しかしこれからはクラウドを通じて音楽コラボレーションをすることができるようになる時代。ミュージシャン同士が同じスタジオにいなくても、遠く離れた場所に住んでいるバンドメンバーとプロジェクトの受け渡しを行なえたり、遠く離れた知らないミュージシャンとコラボレーションを行なえるようになるようです。
そんな中で今もっとも注目されているのが Splice。
Spliceはクラウド型のストレージ環境を提供するサービスで、ミュージシャン同士がDAWソフトウェアで作ったプロジェクトファイルの受け渡しを簡単に行なえることができるようになるものです。例えばAbleton Live で作ったプロジェクトをSpliceにアップロードすることによって、違う場所からでもそのLive のプロジェクトを開くことができるようになります。プロジェクトファイルの中には使用しているオーディオファイルも含まれているので、ファイルの損失によって時間を奪われることもありません。使用しているプラグインソフトウェアも自動的に検出され情報が提示されます。アップロードやダウンロードの方法もスイッチを一つ二つ押す程度のシンプルなもので操作はとても簡単。そして、現段階で対応するソフトウェアはAbleton Liveのほかに、Logic Pro X、 FL Studioなど、これまで使ってきたDAWソフトウェアをそのまま利用できるのもSplice の優位な点です。
Splice はまだパブリックベータバージョンの段階ではあるのですが、昨日のニュースによると、450万ドルの投資金を得たとのこと。これだけの投資金額を持っていることや、有名アーティストによるサポートを得ているともなれば、この夢のスタジオ環境はさらに素晴らしいものとなり、私たちの音楽制作に定着していくのかもしれません。興味ある人はパブリックベータバージョンを試してみてください。
さらに、Splice の新しい機能としてSplice DNA Player も紹介されています。これはコラボレーションと関係のあるものではないようですが、DAWソフトウェアで作ったプロジェクトと同じようなビジュアルでトラックを公開することができるもののようです。トラックの中にはコメントを書き残すこともでき、簡単に言ってしまえばSoundCloud のDAWバージョン(?)といったところなのかもしれません。トラックの中でどのようなサウンドが使われ、どのようなプラグインが使われているのかといった情報も把握することができ、まるでオーケストラのスコアを目で追いながら音楽を聞くかのようなリスニング経験を提供してくれます。このSplice DNA Playerの第1弾として公開されたのがTiëstoレーベルの新人Henry Fongと J-TrickによるScreamというトラック。⬇️の画像のアレンジビュー部分をクリックしてみてください。
オンライン・コラボレーション。インターネットを介して世界中のミュージシャンとコミュニケーションをとりながら共同作業で音楽を作ることができるツール。例えば、バンドメンバーが同じスタジオにいなくても、別のスタジオで録音することができたり、ネット上で息が会った人と一緒に曲を作っていくことができる夢のセッション・ツール。
これまでにもいくつもの試みがなされてきているオンライン・コラボレーションですが、ミュージシャン同士のソーシャルネットワーキングであったり、ファイルの受け渡しに焦点があてられていたこと、また、ミュージシャンがそれぞれ違うソフトウェアやMIDI機材を使っていたり、大きなサイズのオーディオファイルのやり取りが厄介であったりなど、快適なコラボレーション環境とはいい難いものだったわけです。
しかし、ネットスピードが向上し、クラウド技術が向上し、オンライン・コラボレーションもかなり現実的になってきているような動きがあるようです。
たとえば、間もなく正式にローンチされるOhm Force社による「Ohm Studio」は、オンラインコラボレーションを目的として作られたDAWソフトウェアで、ユーザー同士が同じDAWソフトウェアを持つことによってオンラインコラボレーションを可能にするものです。
今日紹介する「Splice」も数年前から提供されているツールですが、間もなく大きくリニューアルされ、Ableton Liveを使うクラウド型のオンライン・コラボレーション・ツールと生まれ変わるようです。Ohm Studioとは違い、これまで使ってきたソフトウェア(Ableton Live )をそのままセッションに利用することができるのはひとつのアドバンテージのように感じます。
この「Splice」を利用するには、サイズの小さなアプリケーションをバックグラウンドで立ち上げて行くことが必要となるようですが、Ableton Liveで作られたプロジェクトのサンプルやセッションファイルは自動的にアップロードされ、「Splice Time Line」に公開されることになるようです。
コラボレーターは「Load in Ableton」ボタンをおすことによって必要なファイルをダウンロードすることができ、Ableton Liveを使いセッションに手を加えることができるようになります。作業が終了したら改訂版プロジェクトを同様にアップロード。
コラボレーターによって手が加えられたすべてのセッション内容は「Splice Time Line」に表示され、再びコラボレーターは必要なファイルをダウンロードすることによってセッションを進めて行くことができるようになるようです。MacのバックアップソフトウェアTime Machineのように、セッションのどの段階にでも後戻りすることができるのもSpliceの大きな特徴といえるでしょう。
気になるのは、もしもサードパーティ製VSTプラグインソフトウェアを使った場合はどうなるのか?たとえば一人のコラボレーターがMassiveを使ったけれども、他のコラボレーターはMassiveを持っていないような場合ですが、Spliceのマネージングシステムはプラグインソフトウェアの種類を識別し、コラボレーターのコンピューター内からその変わりとなるプラグインソフトウェアやフリーソフトウェアの案内までしてくれるそうなのです。
これまでのワークフローを維持しつつオンライン・コラボレションを可能にするSplice。まだ不透明な部分はありますが、とても期待できそうなツールとなりそうです。現在プライベート・ベータテスト受付中。詳しくはSplice Blogよりどうぞ。