個人的なサンプラーヒストリーだが、AKAI S3000から始まる。サンプラーの構造みたいなものを学び、外部SCSIフロッピーディスクドライバーをつなぎデータをセーブをしたり、今考えるとひどく時間のかかる作業を楽しんでいたものだ。それからNI BatteryやAbleton Liveのようなソフトウェアサンプラーの登場によりタイムストレッチのストレスから解放され、幅広いエディットを行えることに喜んだ。しかし再びAKAIの逆襲、 パッド式の打ち込みやよりライブ感をプラスした新しいハードウェアサンプラーMPC1000に惚れ始めた。しかしそれもつかの間、今度はソフトウェアとハードウェアのハイブリッドサンプラーNI Maschineの登場。コンピューターワークフローとの融合は見事なもので、とにかく便利。付属するクオリティの高い音源も相当な量だ。しばらくはこのまま落ち着く物と思いきや、今度はスウェーデンからのニューカマー、ハードウェアサンプラーOctatrackと出会うことに。
Octatrackの開発元Elektronの歴史はここ10年、テクノ、エレクトロ系ミュージシャンの間で大ヒットしたドラムマシーンMachinedrum、それに次ぐシンセサイザーMonomachineはどちらもエレガントなルックスをもちながらもパンチのあるサウンド、そして洗練されたシーケンサーを備えており現在でも人気のあるマシン。そんなElektronからの新製品はサンプラー、それもパフォーマンスサンプラーとコピーが付けられているだけに果たしてどのようなものなのか興味は津々。
発売当初のOctatrackのOSは0.99と微妙なものだったが現在1.1となっている。見た感じ、基本的にはDrummachineやMonomachineと同じレイアウトだがボディは黒に、そしてこのOctatrackのセールスポイントの一つであるクロスフェーダーが中央右に位置している。ほとんどすべてのパラメーターをこのクロスフェーダーにアサインすることでトリッキーなエフェクトサウンドが作れたりサウンドに意外性のある動きを作ることができ、ここでかつてのサンプラーと大きく一線を画す。背面、オーディオのアウトプットはステレオのメインアウトのみ。入力はステレオ2系統。コンパクトフラッシュカードのスロットとUSBポートが備えてある。すべてのデータをコンパクトフラッシュカードにストアすることができ、133倍速以上の速度を持つカードの使用が勧められている。USBポートはコンピューターとのデータ転送用のみに使われる。
Octatrackの中心は8トラックのサンプルプレーバックシーケンサーと8トラックのMIDIシーケンサー。サンプルプレーバックシーケンサーのもっとも賢い機能としてパラメーターロックと呼ばれるものがある。16あるトリガーキーそれぞれにインストゥルメントのどのパラメーター(エフェクター、音量、ピッチ、何でも)の数値を入力することができ、表現豊かなサウンドをもつパターンを作ることができる。そしてそれぞれのトラックにはそれぞれの再生方法(拍子、レングス)を設定する事ができるインディビジュアルレングスという機能がある。これによりサンプルのトリガー位置を変化させることができるので多彩なパターン、意外なパターンを作る事ができる。
MIDIシーケンサーはシンプルだがアナログシーケンサーマシンのような感覚を楽しむことができる。4ボイスの同時再生、レングスの設定、アルペジエーター、LFO、その他MIDIコントロールチェンジが行える。残念ながらMIDIシーケンサーにはパラメーターロックは適用されない。
音源部分を見てみよう。AKAI製品やかつてのハードウェアマシンとは構造が違うので過去のマシンに慣れた人は頭の切り替えが必要になる。Octatrackのサンプルプレーバックには2種類のサンプルマシンがある。FlexマシンとStaticマシン。タイムストレッチとピッチシフトを同時に行うことができる点は同じだが、Staticマシンはコンパクトフラッシュカードからのストリームとなるのでカードが許す限りの長いサンプルでも扱う事ができる。Flexマシンは本体に備わる64MBのRAMからの再生となる。
Octatrackは非常にパワフルなサンプリングモードを持っている。2系統あるステレオインプット通し外部音源からの録音はもちろん、Octatrack内部トラックからのリサンプリングも迅速に行える。8つのトラックがそれぞれレコーダーとして機能し、設定次第で複数のサンプリングを同時に行うこともできる。
トラックのほとんどすべてのパラメーターの設定を16種類のシーンとしてロックすることができる。このシーンをクロスフェーダーの左(スロットA)とクロスフェーダー右(スロットB)にアサインすることでDJミキサーのような操作ができたり、モーフィングのような動きを付けことができる。両スロットに両極端なエフェクターを施すのもとても面白いものだ。
OS 1.1 Octatrackの特徴の一つはマシン下部に位置した16のトリガーキーが状況に合わせいろいろな働きをするというところ。OS1.1ではトリガーモードとしてクロマティック(16のステップがピアノ鍵盤のような音階をもつ)スロット(8つのトラックにのっているすべてのサンプルにアクセスすることができる)スライス(スライスされたサンプルのそれぞれをトリガー)クイックミュート(トラックのミュートのオンオフ)ディレイ(ディレイタイムパラメーターの設定)などスタジオでもライブセットにも有効なオプションが加えられている。
そして以前より多くのMIDIコントロールメッセージが送受信できるようになったことで、DAWソフトウェアからのコントロール、もしくはOctatrack でのアクション(クロスフェーダーを動かすなど)がDAWソフトにMIDIデータとして書き込めるようになる。
OSのアップデートに関して非常に信頼のおけるElektoronなのでこれからも定期的なアップデートが行われるだろう。ルーパーなどのエフェクターが加わるのでは?などといった噂がネット上で飛び交っている。(2011年11月現在)
まとめ まだ1週間ほどの使用なのでほんのさわりしか見ていないのは確かなのだが、すでにプラスポイントを挙げればきりがない。まずこの1週間コンピュターのDAWソフトウェアを立ち上げることなく音楽作りを行えたことが何よりも素晴らしい経験だった。音質もAKAIサンプラーよりも骨太に聞こえるという点やコンピューターでの音楽作りよりもより直感的に行えるという点が特筆すべきことだ。そしてセールスポイントのひとつであるクロスフェーダーによるアクションも単純ながら非常に楽しいもので飽きる事がなかった。かつてのサンプラーマシンよりも機能がより豊富になった上に、ハードウェアならではのフィジカルな操作感が素晴らしい。特にリミックス制作やライブプレーには最適と言えるだろう。
マイナスポイントは、前述したようにAKAIサンプラーマシンの構成が頭に残っているせいもあり、ボタン操作の複雑さに戸惑う。そしてソフトウェアサンプラーと違いサイズの小さなLCD画面の文字は小さくて読みにくい。ファイルに名前をつけるといったような基本的な作業もものすごく不便に感じる。パラメーターロックの内容も設定時以外には表示されることがない。いや、これらはデジタルコンピューター機器に慣れす ぎた贅沢な不満にすぎない。具体的なところでは、インディビジュアルアウトプットが付いていないという点。Octatrackで作ったトラックをどのようにしてミックスダウンに持っていったら良いのか良いアイデアが浮かんでこない。とはいえ愛すべきマシンの登場にやや興奮気味だ。
ミクロコスモスは何千もの音声からなるソニッククラウドです。スノードームのような仕組みで動きます。この装置をどの方向にでも良いので動かしてみてください。すると、重力が地面に粒子をひきつけ、それにより音声が放出します。ミクロコスモスを揺すると、音が粉々に砕け散ります。収録されたいくつかのサウンドスケープからお選びください。
iOSが持つナチュラルインターフェイスの利点を使い、複雑なグラニュラーシンセサイザーを簡単に操作することを目的とした実験的なアプリMicrocosm。先日このディベロッパーであるApposite Labのメンバーの一人と話をする機会があり、このアプリがどのようにして作られているのかを尋ねてみた。
グラニュラーシンセ とても科学的なイメージが強いグラニュラーシンセだが、昨今ナインインチネイルズのTrent Reznorが使用しエモーショナルな音楽表現としての一面を見せるなど、まだまだ可能性の高いシンセシス。(グラニュラーシンセについての詳しい解説は「漫然解析Fruity Granulizer」を参照してください)
I: このアプリのシンセエンジンはどのようなプログラム言語によって書かれているのですか?Max/mspなどを使うのでしょうか?
A: このアプリに含まれるシンセエンジンはC++言語で書かれている。Maxよりもずっと低いレベルのものだけれどね。かなりチャレンジが伴うプログラム言語だけどいろいろなものが作れてしまうものだ。基本的には数値をハードウェアに入力するとそれが音に変換される仕組みだ。
I: つまりこのアプリではC++言語で作られたシンセがユーザーの操作に合わせて音を変化させていくという仕組みなんですよね??
A: 画面にあるたくさんの粒子(カラフルなドット)が接近してまとまっている時は音の拡散が少ない。ディバイスを振ると粒子は四方八方に飛び散り音も拡散する。つまりユーザーはグラニュラーシンセがどのように動いているのかを目で見るることができるんだ。操作方法も「ディバイスを振る」という体から発するごく自然な方法だ。そしてこのミクロコスモスの舞台は宇宙空間、放っておけば粒子は重力に引っ張られ自然とおとなしくなっていき、音もおとなしくなっていく。
I: iOS5に含まれるAU(オーディオユニット)エフェクターは使用しているのですか?
A: アップルのAUはとても役に立つね。このアプリでは3D Mixer audio unitを使用していているのだけれど、ユーザーが実空間にいるような感覚を与えるのと、音の距離感をコントロールするのに役立った。加えてコンプレッサーやリミッターのようなAUもサウンドをより本格的にするために使用している。
I: スクリーン上の粒子の動きと音がシンクロするわけですが、どのような方法を使っているのでしょう?素人ながらに思うのは、自然な動きを演出するのには大変な苦労があるような気がするのですが。
A: まず通常のオーディオレコーディングを思い出してみよう。音はスムーズで継続的なものだよね。グラニュラーシンセの第一歩としてまずこのレコーディングされたオーディオデータを何百万とかいうレベルまで細かく切り刻むことから始まる。それぞれの切り刻まれたデータ(グレイン)は何ミリ秒単位の長さのものだから、ものすごく短いクリック音のようにしか聞こえない。ここで数千のグレインを同時に聞いたとすると、それは音の群れのようなものになる。
さて、ミクロコスモスがビジュアルとどのようにシンクロするのか?画面上に写るの一つ一つの粒子は刻まれた音のグレインだと考えてもらっていい。粒子は画面上を飛び回りその色も変化する。つまりそれはオーディオデータの再生する場所を変えているということだ。
たとえばオーディオデーターが鐘の音だったとしよう。鐘の音のオーディオデーターの最初の部分はいわゆるビッグバンみたいなもの。最初に強いアタックが来て、時間とともに音はフェードアウトしていく。粒子が画面の中心に来た時、粒子の色はより明るくなり、オーディオデータの中のビッグバンの部分のグレインをならす。粒子が外に行った時、粒子の色は暗くなり、オーディオデータの中の最後(フェードアウトし始めた部分)をならす。このような考えで音とビジュアルがシンクロしていくんだ。
大変だったのは粒子の動き方、物理学的なシュミレーションをプログラムしているからね。その複雑な動きをどのようにすれば美しく見せることができるかというあたりで苦労した。いろいろな物理的な実験を行って、一番正しい動きだと納得できたモデルを最終的には取り入れたよ。数学的考えも含まれるのがまた厄介でね。数千の粒子は時々衝突も起こすわけで、その衝突や衝突によるバウンスについても検知しなければならなかった。長くて手間がかかる開発だったけれど、最終的には満足しているよ。
I: そして最終的にこのミクロコスモスはどのくらいのサイズのアプリなったんですか?
A: だいたい4MBかな。あまり大きくないね。ミクロコスモスは基本的にはサウンドトーイなんだ。グラニュラーシンセというとても複雑なものをユーザーが手に取ってすぐに遊べるものを作ることがゴールだったんだ。グラニュラーシンセがどのようなものか知らない人でも、ミクロコスモスを手に取れば面白いサウンドを作る事ができる。それはやはりiOSが持つナチュラルインターフェイスという特徴を利用しているから可能になるんだ。そしてナチュラルインターフェイスは僕らApposite Labsがもっとも興味を持っている事でもあるんだ。複雑なデータと対話するための新しい方法を模索するってことかな。
App Storeにてフリー
条件:iOS 5.0/armv7/accelerometer/opengles-2
大人気のMonotron、その人気の理由は小さいボディから出るアナログマッスルとでもいうべき太いサウンド。今月発売になったばかりのMonotron DuoとMonotron DelayはオリジナルMonotronの後継機。Duoは2つのオシレーター、Delayはシングルのオシレーターにアナログディレイが搭載されている。オリジナルのMonotronとサイズは同じ(120×72×28mm)、単4乾電池2本で作動、小型スピーカー内蔵、小さすぎて意味のある演奏はほぼ不可能なリボン鍵盤だが、DUOのキーボードではスケールの選択ができるようになった。背面の小さな赤いボタンを押すことでクロマチック、マイナー、メジャー、無音階の4つから選択が行える。
DUOは二つのVCOを搭載しており、2つのモードで楽しめる。VCO1モードでは一つのオシレーターにX-MOD(クロスモジュレーション)をかけることでビブラートのようなものから過激なメタリックのような音も作れる。往年のコルグアナログシンセMonoPolyに搭載されていた機能だが効き具合はいまひとつか。VOC1+2モードでは二つのオシレーターを使用し、両オシレーターのピッチ幅を微妙にずらしたり(これは気持ちがいい!)、大幅にずらすことで幅広い音作りが行える。オリジナルMonotronと同様、MS20スタイルのローパスフィルターが搭載、Peak(レゾナンス)をあげると発振、、、叫びだします。
DELAY こちらの方がオリジナルMonotronとは大きく違う。シングルVCOにローパスフィルター(Peakは付いていない)。LFOは三角波と矩形波の2種、そしてアナログスタイルのディレイ。キーボードは実際のピッチとは関係がない。しかしディレイを入れるとこのリボン鍵盤の存在が重要になってくる。いい意味でオカルト映画のような狂った音が作れ、とても楽しめる。ディレイの音はチープではあるがそこがまたいい味をだしている。フィードバックを上げすぎると発振、、、収集がつかなくなる。本体背面にある小さなつまみをプラスドライバーで調節する事でLFOの波形のデューティー比率を調節できる。
両MONOTRONは外部入力端子AUXがついているのでDUOの場合は外部音源にフィルターかけることができ、DELYの場合は外部音源にディレイをかけることができる。DUOからDELAYにDELAYからDUOに接続するのもまた楽しい。
マニュアルには「温度によってピッチが変化します」と書いてある。その不安定さがアナログマシンの愛らしいところ。それぞれおよそ4000円、昔からのアナログシンセファンも、まだアナログシンセに手を出したことのない人でもなんとなく手に取ってみたくなるのでは。個人的にはDUOは渋いヤツ、DELAYは飛んでるヤツというイメージ。クリスマスプレゼント筆頭候補でしょう。
ひとりで5つのパートの演奏を同時に行えるとてもユニークな発想のアプリPolychord。iPadをひとつの楽器として演奏できるだけでなく、インターフェイスに表示されている60種類以上のコードをなぞっていくだけで音楽初心者でも、プロのミュージシャンでも新しい発想で音楽を作ることができる。iOSバーチャルMIDIへの取り組みも積極的に行うなど、iPad音楽アプリの代表各ともいえるPolychordの開発はアメリカのLAに拠点を置くShoulda Woulda Coulda社。幸運にもその代表Gregory Wieber氏と話をする機会を得たので、今日はその模様をお伝えしたいと思う。
I: まずShoulda Woulda Coulda incの設立とメンバーについてきかせてもらっていいですか?
G: Shoulda Woulda Couldaは2010年に僕Gregory WieberとHugo Nicolson二人で設立したものなんだ。
僕は大学でアートを専攻していてテクノロジーを使った作品をいろいろ作っていたんだ。子供の頃からコンピューターには興味があって当時は「ジュラシックパーク」や「トーイストーリー」のようなコンピュターグラフィックアニメを作りたいと思っていた。音楽は5歳の頃からドラムを始めてね、いつもバンド活動をしていたのと、昔、父がカシオのSK1を買ってくれてね、その頃からずっとシンセサイザーには興味を持っているんだ。
Hugoは音楽のプロデューサー/エンジニアとしてたくさんのバンドを手がけている。最初はプライマルスクリーム、そしてレディオヘッドの「In Rainbows」ってアルバムではグラミー賞を受賞している経歴を持っているんだ。彼自信も音楽を作るんだけれど、特に楽器を習った経験があるわけじゃないっていうのもあって昔から作曲のできる道具みたいなものがずっと欲しかったんだよね。
「どんなアプリを作ったらおもしろいんだろう?」という話をずっとしていて、僕らの興味からして音楽系のアプリがいいなとは漠然に思っていた。それからしばらくしてある日LAでコーヒーを一緒に飲んでいたときに突然Hugoが「こんなアイデアのアプリはまだ存在してないよね?」って彼が浮かんだアイデアを話し始めてね、それを聞いて「うん、そのアイデアは僕らにとってパーフェクトだね。やってみよう」ってことになったんだ。
I:Polychordの開発にはどのくらいの時間がかかりましたか? またどうしてiPadのアプリにしようと思ったのですか?で、気になる結果の方はどうでしたか?
W: ちょうどiPadがリリースされたばかりの頃だったかな、もうすでにiPhoneのマーケットはいい感じに込み合っていたし、じゃあiPadでやってみようかということになった。音楽のことを考えたらiPadはサイズもちょうどいいし、スタジオにもばっちりはまるしね。
見た感じアイデアもシンプルだし、だいたい1ヶ月くらいで作れるものだと思ってたんだけど、最終的には6ヶ月以上かかったかな(笑)。今の形に至るまでには結局1年半以上かかったね。
AppStoreっていうのはソフト会社が頑張れば相当成長できる場所だと思う。どのくらいのセールスがあったかは僕らは公表していないんだけど、相当な数であったのは確かだ。それにまだ活発に動いている様子だしね。というのもほとんどすべてのユーザーがアップデートを発表してから1、2週間以内にはアップデートを完了しているようなんだ。だからといって僕らが一夜にして億万長者になれるようなものではないけれど(笑)、その成長ぶりには満足しているよ。
I:ユーザーからのリアクションはどうでした?そういえばYouTubeでMaroon5が演奏しているのを見かけましたよ!
W: とてもいいリアクションだと受け取っているよ。聞いたところではSnow Patrolがニューアルバムのレコーディングに使ってくれたとか、RedHotChilliPeppersでギターを弾いている僕らの友達Joshもスタジオで使っているしね。噂によるとU2も手にしたらしく、クールなアプリだと思ってくれているらしいんだ。おそらくプロのミュージシャンにとっていいアプリなんだろうね、ちょっと違った方法で曲が書けるし、新しいアイデアを作る助けにもなる。
いろんなバンドが好んで使ってくれているっていうのはホントに嬉しい話だね。でもそれよりもうれしいのは今まで音楽や作曲の経験がない人たちでもPolychordを手にした事で初めてコードを使った曲を作る事ができたって話かな。それから子供達もPolychordで音楽作りをしているらしくて、親御さん達から喜びの便りをもらったりもした。きっと僕がCasio SK-1を手にしたときと同じような感じなのかな、、って思った。
I:開発にあたってどんなことが困難でしたか?
W: シンセサイザー部分のプログラミングにはハードウェアの効率的な使い方が必要なんだ。アップルの開発ツールはとてもよくできていて、ハードウェアへのダイレクトなアクセス機能を提供するんだけれども、ハードウェアにどのようなプログラムを組んだらいいのか学ぶのはとても時間がかかったね。僕らが始めた頃は今みたいに十分な資料もなかったしね、ほんとうに長くて大変だった。
Polychordはいろいろなエレメントからできている。タイミングとビート、4つのインストゥルメント、そしてstrum pad。これだけあるとCPUにたくさん負担をかけるんだよね。やはり一番大変だったのはこれら全部の事がスムーズに動くような効率のいいプログラムを組む事だった。
それから数学的な知識も必要とするからね。アーティストである僕の友達Duncan Malashockはそのあたりにとても詳しい人で最初のうちはいろいろ手助けしてもらっていたよ。つまりは彼からデジタルシグナルプロセッサーの基礎を教えてもらったんだよね。
I: 素人ながらに思う事なんですが、MIDI機能をアプリにのせることって大変なことなんですか? 今でもたまにMIDIシンクができないドラムマシンアプリとか見かけますが、どうも不思議でならないんですよね、、。
W: MIDI自体はもうかなり古いテクノロジーだからね。それにMIDIを効率よく動かすためにはいろいろなテクニックを使わなきゃいけないんだ。例えば同時に2、3のノートを押さえる以上の事をしたらたちまちシステムに負担がかかるんだ。だからプログラマーは「イベントの待ち行列」ってことについて学ぶ必要がある。MIDIの解説書やiOSのオーディオテクノロジーの解説書は上級者向けの言葉で書かれているし、新しいプログラマーにとってはちょっとハードかもしれないね。でも音楽Appでは今、以前よりもMIDIが必要とされているからね。状況は良くなってきていると思うよ。
I: Open App Collaboration Manifestoには参加されているのですか?(参照)
W: 僕らは早い時期からOACMに参加してるけど、ディベロッパーが情報を交換できるいい場所だと思う。中には自分の経験をものすごく積極的に書いている人もいて、そういったことの積み重ねがiOS MIDIアプリをより良くしていくんだと思う。僕らが初期の頃に主張していた事は、ディベロッパーは自分のアプリをもっと効率的に動作させることに焦点を置くべきだ、ということだった。なぜなら同じディバイス内で複数のアプリが同時に動くのだからそれは当然のことだよね。だからPolychordをより軽くすることがここ数回のアップデートでの目標だったんだ。
I:Polychordはどのくらい完成型に近づいているんですか?
W: 基本的にはバージョン1の時点である程度の達成感は感じた。アイデアはできる限りシンプルな方がいいし、アップルの伝統みたいなところでもあるけれど僕はいたってシンプルな物が好きだ。このシンプルさを保ちながらの改良は必要だと思っている。音楽理論系の人たちともたくさんしゃべった上で考えた事だけど、コードを扱うアプリとしてもっと使える物にしたいとは思っている。たとえばユーザーがリズムや伴奏コードを自分でエディットできるようなツールを作ったりね。やはりそこがポリコードのメインのアイデアだし、そうすればもっとバージョンアップを重ねていけると考えているよ。
I:ところでWieberさんのお気に入りのアプリってありますか?もちろんPolychord以外で!
W: Flipboardがいいよね。いつも使っているよ。FacebookやTwitterを雑誌のようにして読むっていうアイデアがすばらしい。友達や友達がどんなポストをしたかによって雑誌がキュレートされていくのだけれど、そんな雑誌をいつも持っていることができるのは楽しいよね。そしてやはりそのシンプルさがいいんだと思うよ。
I:日本について何か思う事があれば教えてください
W: 日本からはいつも多大なインスピレーションもらっているよ。美術大学に通っていた頃に1960年代のアメリカ人アーティストを通してミニマリズムについて興味を持った。そしてそれを突き詰めていくとその原型は日本に辿り着くんだよね。
それから最近、黒澤明の映画「夢」を妻に紹介したんだ。映画って時にして観た人の中にずっと残るものだよね。8歳の頃に僕はあの映画を初めて観て以来あの映画が僕の頭の中から離れないでいるんだよ。
I: Weaberさん、貴重な話をどうもありがとうございます。iPad音楽アプリの世界をもっともっと大きくしていきたいですね!